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磯部涼の「川崎」【第八回】

【磯部涼/川崎】川崎の不良が歌うストリートの世界

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日本有数の工業都市・川崎はさまざまな顔を持っている。ギラつく繁華街、多文化コミュニティ、ラップ・シーン――。俊鋭の音楽ライター・磯部涼が、その地の知られざる風景をレポートし、ひいては現代ニッポンのダークサイドとその中の光を描出するルポルタージュ。

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今年4月の出所後、川崎市元住吉のダイニングバー〈Powers2〉で、久しぶりのライヴを披露したラッパーのA-THUG。
隣にいるのはDJ TY-KOH。

 彼が登場したのは、午前0時を少し過ぎた頃だった。その日のパーティが行われていたのは、川崎市の閑静な住宅街にあるバーで、そこにまだ夜が浅いうちから続々と、首までタトゥーが入った男たちや、着飾った女たちが集まってくる。客人がドアを開けると、出迎えるのは、DJがかけるラップ・ミュージックと、壁に吊るされたスウェット・シャツの“Welcome to SOUTHSIDE KAWASAKI”というフレーズ。店内はあっという間にいっぱいになり、テキーラ・グラスが次々と掲げられ、やがて、シャンパンのボトルが回り始める。そして、その熱気に押されるように、主役はステージに上がった。「King of KAWASAKI, A-THUG is baaaaack!」。DJに煽られ、彼が叫ぶ。「シャバに出てきたぜ!」。マイクの音をかき消すほどの歓声が上がる。ビートが鳴り始める。

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DJが流すラップ・ミュージックに合わせて、会場のフロアで踊る女性たち。

 SOUTHSIDE KAWASAKI
 伊勢町 川中島 藤崎が始まり
 SCARS in da building から building
 hustle 止まらない cycle
 街中 ダッシュで走る
 生き急ぐ ハイペースがマイペース
        ――SCARS「My block」より

 フロアでは合唱が起こっていた。同曲は、その場にいる人々にとっては間違いなくアンセムだった。そこでは彼らの住む街が描かれ、そこからは彼らの持つリアリティが浮かび上がってくる。6月10日深夜、元住吉のバー〈Powers2〉で開催されていたパーティ「NUESTRO TERRITORIO」の盛り上がりは最高潮に達そうとしていた。川崎を代表するラッパー、A-THUGが刑期を終え、ホームタウンに戻ってきたのだ。

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