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萱野稔人と巡る超・人間学【第45回】

「ヤクザのシマ」化する世界秩序

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――人間はどこから来たのか 人間は何者か 人間はどこに行くのか――。最先端の知見を有する学識者と“人間”について語り合う。

ベネズエラ、イランへの軍事攻撃と相次ぐ国際機関からの脱退。世界覇権を手放さないようでいて、孤立主義にも見えるアメリカの行動の意図は何なのか。トランプによる現代版モンロー主義を軸に読み解く。

今月のゲスト
篠田英朗[東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授]

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26年5月、中国・北京の中南海で行われた会談に出席するドナルド・トランプ米大統領と習近平国家主席。(写真/Evan Vucci – Pool/Getty Images)

萱野 アメリカのトランプ大統領の行動は「支離滅裂だ」とよくいわれます。たとえばトランプ政権は昨年末に「国家安全保障戦略」を発表し、そこでトランプ版「モンロー主義」を提唱しました。モンロー主義とは、1823年にアメリカのモンロー大統領が表明した外交ドクトリンのことで、その内容を一言でいえば「アメリカは大西洋の東側にあるヨーロッパのことには口を出さない、その代わりにヨーロッパ諸国も大西洋の西側にある南北アメリカ大陸の問題には干渉するな」というものです。このモンロー主義は一般的にはアメリカの「孤立主義」を示すものだと考えられており、それを掲げたトランプ政権は相次いで国際機関からのアメリカの脱退を表明したこともあって、「アメリカはもう世界の覇権から降りようとしている」「アメリカは今後、自らの勢力圏として定めたアメリカ大陸に引きこもろうとするのではないか」という見方が広がりました。しかしトランプ政権は今年2月末に突如としてイランへの軍事攻撃を始めます。トランプ版「モンロー主義」を掲げる一方で、地理的にはアメリカ大陸の真裏にあるイランを軍事攻撃するという行動が、多くの人に「支離滅裂だ」と映りました。こうしたアメリカの行動をどう考えればいいのか。そこで今回は『戦争の地政学』(講談社現代新書/2023年)でモンロー主義の新しい解釈を示した篠田さんに、いまのアメリカの行動をどう読み解いていくべきかをうかがいたいと思います。

篠田 「トランプの行動は支離滅裂だ」とよくいわれますが、彼の行動からも傾向やイデオロギーは読み解けます。まず、彼がよく使うのが「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン(MAGA)」という言葉です。この言葉でトランプに魅力を感じ、彼に投票してきたアメリカ人は大勢いますが、そこで鍵になるのがモンロー主義です。トランプは国家安全保障戦略に「トランプ・コロラリー・トゥ・ザ・モンロー・ドクトリン(トランプ版モンロー主義)」という言葉を入れています。モンロー・ドクトリンの時代にアメリカは偉大だった、いまは偉大じゃない、俺はそれを取り戻す──それが彼の主張です。

萱野 篠田さんは『戦争の地政学』で、モンロー主義はヨーロッパから見れば孤立主義に見えるが、もともとそこにはアメリカの世界観を世界に広げていく拡張主義の傾向、つまり孤立主義とは逆のベクトルが最初からあると述べています。とても重要なご指摘です。この指摘に基づくなら、トランプ大統領はアメリカの世界的な覇権をより拡大するためにこそモンロー主義を掲げたともいえるのではないでしょうか。

篠田 「覇権」は定義の微妙な言葉で、使い方に議論が必要ですが、まずMAGAの思想で明確なのは反グローバリズムです。自由主義を守るための軍事介入は絶対にやらない。その方針が、「なぜイラクであれほどアメリカの若者が死ななければならなかったのか」と思う人々に強烈にアピールしているわけです。ところが外国には偉そうなことをいい、関税は高くするし、イランにミサイルも撃ち込む。覇権主義的な行動は変わらず続いています。ただ細かく見ていくと、「親分になれるところでは徹底的に威張り、なれないところには介入しない」という使い分けをしている。そのため子分扱いされているラテンアメリカから見れば帝国主義政策に見える。

萱野 一方で、親分になれないところや得をしないところには介入しない、という点が孤立主義に見えるわけですね。

篠田 ええ。こうやって自分の縄張りを守る考え方を、私は『戦争の地政学』で「圏域思想」と呼んでいます。わかりやすくいえばヤクザのシマですね。

異物を排除する「神の恩寵」の論理

篠田 歴史を振り返って行動原理をひも解くと、当初ヨーロッパからアメリカに渡った人たちは、自分たちの土地を「ニューワールド(新世界)」と呼んでいました。「王がいて腐敗し、戦争ばかりしているオールドワールド(ヨーロッパ)を捨ててつくった国だ」というのが彼らの認識です。その中核にあるのがマニフェスト・デスティニー(明白な運命)、つまり神の恩寵に従って異物を排除するという考え方です。実際に彼らはネイティブアメリカンをすさまじい規模で殲滅しています。神の恩寵に従っているという確信があればこそ、躊躇なくそうした行動を取れるわけです。つまりアメリカは、普遍主義的な覇権国ではありませんでした。神の恩寵に従った人たちがいるニューワールドの範囲内でのみ、自分たちは覇権国だと考えていました。それがトランプのMAGAにも引き継がれています。なお、アメリカでも民主党系と共和党系で行動原理は分かれます。20世紀初頭ウッドロウ・ウィルソン以降の伝統的な民主党系は、新世界の原理を世界のどこへでも広げられると考えています。

萱野 民主党系の政治家は自由や民主主義を守るという、より普遍主義的な理念に基づいて世界の諸問題に介入しようとしますからね。

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