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「マル激 TALK ON DEMAND」【195】

「首相の3時間睡眠」に見る日本の“本当の”睡眠事情

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――ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

[今月のゲスト]

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櫻井武(さくらい・たけし)
[筑波大学医学医療系教授]

1964年、東京都生まれ。89年、筑波大学医学部卒業。93年、同学大学院医学研究科博士課程修了。テキサス大学ハワード・ヒューズ医学研究所研究員などを経て2016年より現職。1998年、覚醒をコントロールする神経ペプチド「オレキシン」を共同発見。著書に『睡眠の科学』(講談社)など。

高市早苗首相の「睡眠3時間」投稿が話題になったが、欧米では自己管理欠如と見なされ批判も出た。筑波大学医学医療系教授の櫻井武氏は、4時間未満の睡眠で判断力が著しく低下すると指摘する。さらに日本人の睡眠時間はOECD(経済協力開発機構)諸国内では最短で、短眠を勤勉の証しだという日本の風潮を問い直す必要があるという――。

神保 今回は「なぜ日本人は寝ないのか」というテーマで議論したいと思います。ゲストは筑波大学医学医療系教授で、覚醒状態を維持する脳内物質・オレキシンの共同発見者でもある櫻井武さんです。

7月20日、高市早苗首相がXに投稿した文面に「久々に5時間も睡眠を取れた」「総理就任以来、0時間~3時間睡眠が常態化」とあり、ちょっとした話題になりました。特に海外からの反響が多く、政府のトップがほとんど寝ていないことを公言することは、安全保障上も問題があるのではないか、などという指摘まで上がりました。

役人が自分たち以外の話を総理の耳に入れないために総理のスケジュールをパンパンにしているという行政システム上の問題もあり、総理大臣は本当に眠らせてもらえないようですが、それにしても睡眠時間で〝がんばっているアピール〟というのも困りものです。櫻井先生は、この話が出た時はどう思いましたか。

櫻井 この世代の日本人は「あまり寝ていない」と言うことで頑張っているアピールをすることも多いので、「0時間から3時間」というのは〝盛って〟話している可能性もあると思います。そういうことであれば逆に安心です。ずっと3時間未満の睡眠で暮らせる人はいません。ショートスリーパーは6時間未満だと言われますが、ナチュラル・ショートスリーパーは100人に1人くらい。これは、普通の人が8時間ほどの睡眠中に脳で行う作業が短い時間で完了する体質を持っているということですが、これは遺伝的に決まっています。さらに短い4時間で済む人は数千人に1人なんです。

高市さんがそうである可能性もありますが、5時間睡眠ですっきりしたと言ってしまっているようなものなので、普段は足りていないということですね。例えば長距離バスの運転手が、車内放送で「昨日は3時間しか寝ていませんが大丈夫です」と言ったら、乗りたくなくなりませんか? 日本という大きな船を操縦する方がその状態だというのは、ちょっと心配だなとは思います。

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1986年1月28日、フロリダ州ケープカナベラル沖でスペースシャトル・チャレンジャー号が空中分解し、搭乗していた乗組員7人全員が死亡した。(写真/Janet Knott/The Boston Globe via Getty Images)

神保 実際、日本人は他国と比べてあまり寝ていないというデータがあります。日本はOECD諸国の中では平均睡眠時間が最も短く、7時間42分です。ヨーロッパの多くの国は8時間以上寝ていて、アメリカは8時間59分となっています。

櫻井 別のデータだとさらに短く、7時間22分となっていることもあります。本来睡眠を客観的に評価するためには、脳波や筋電図を含めたポリソムノグラフィーという検査をしなければなりません。しかしこれはアンケート形式でとったデータですので、どちらかというと「総睡眠時間」よりも「床上時間」に近い。日本は通勤時間が長いなど色々な要因があり、実際に居眠りをしている人もすごく多いので、睡眠が足りていないことは確かだと思いますが、国によって社会背景の違いからくるデータのバイアスはかなりあると考えられます。

神保 日本人の睡眠時間の推移を見ると、特に1976年以降、短くなっています。眠らなくなった理由の仮説として、「自分だけで削れる時間」「他者の時間を優先する習慣」「睡眠時間に対する社会的ペナルティが弱い」「眠ることが生産活動と認識されてこなかった」「夜が『自分時間』になった」などが挙げられます。

櫻井 今の日本人はやることが多すぎます。色々なコンテンツがあり、「タイパ重視」といって2倍速で映画を観るような世代です。そこで一見、ただちには生活に影響が一番ないと思われる睡眠を削る。翌日の調子は悪いのですが、居眠りしても許容される社会なので、睡眠を削るんです。

毎日1時間、必要睡眠時間より短い生活を10日続けると、睡眠負債が蓄積して徹夜明けくらいの認知能力になります。しかしその状態で感じる眠気はそれほどでもなく、大抵の人は週末に寝だめをして取り戻しています。

神保 寝だめにも意味があるんですね。

櫻井 もちろん毎日きちんと寝た方が良いですが、必要悪です。最近はショートスリーパーだと自称する人がそれなりにいますが、多くは勘違い。行動誘発性睡眠不足症候群という言葉があり、やることが多すぎてそのしわ寄せが睡眠に来ています。それが常態化してしまうので、本来の自分のパフォーマンスがわかっていない。寝だめは足りていない睡眠を補うという意味で必要悪ですが、一方で寝だめをすると体内時計に影響が出て、物理的な時間と体内時計に時差ができるので翌日の調子は悪くなります。

睡眠不足の悪影響とチャレンジャー号空中分解の関係

神保 睡眠時間と交通事故リスクのデータを見ると、7~8時間を1としたときに、9時間以上寝ているとリスクは0・75くらいになり、4時間になると2・5、つまり2・5倍事故を起こしやすくなるということです。自分にとって適している睡眠時間はどうやってわかるのでしょうか。

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