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【プレミアム限定連載】アメリカン・トゥルー・クライム列伝【2】

一家3人で銀行強盗! 覆面犯の意外な素顔が明かされるとき、人々は家族の絆に涙する――

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――犯罪大国アメリカにおいて、罪の内実を詳らかにする「トゥルー・クライム(実録犯罪物)」は人気コンテンツのひとつ。犯罪者の顔も声もばんばんメディアに登場し、裁判の一部始終すら報道され、人々はそれらをどう思ったか、井戸端会議で口端に上らせる。いったい何がそこまで関心を集めているのか? アメリカ在住のTVディレクターが、凄惨すぎる事件からおマヌケ事件まで、アメリカの茶の間を賑わせたトゥルー・クライムの中身から、彼の国のもうひとつの顔を案内する。

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 昨年12月25日、全米放送のテレビ番組で、ある家族の物語がクリスマスストーリーとして放送された。クリスマスといえば、アメリカでは往年のクリスマス映画の再放送や、ド派手な歌番組などがお茶の間を賑わせている。しかし視聴者が見たのは、テレビカメラの前で号泣する兄と妹の姿だった。彼らは刑務所に収監される受刑者で、テレビ番組の企画のために兄妹が再会した場所、それは拘置所の中だった。

 2012年8月、テキサス州ケイティーの銀行に強盗が押し入った。防犯カメラに映っていたのは、土木作業員が使用するオレンジ色のベストを着用し、サングラスとマスクで顔を覆った2人組の男。そして3カ月後に、2人の逃走を手伝ったとして一人の少女を含む3人が逮捕されると、その正体に全米が驚愕した。逮捕されたのは、ロナルド・スコット・キャット(当時50歳)、ヘイデン・キャット(当時20歳)、アビゲイル・キャット(当時18歳)。彼らは実の親子だったのだ。全米を騒がせた銀行強盗一家の犯行――一体一家に何があったのか?

幸せな家庭の裏で……父が抱えていた葛藤

 父・ロナルドはオレゴン州ポートランドで生まれ育った。ユーモラスで明るい性格だったという彼は学生時代には、その大柄な体格を生かし、フットボールチームに属していた。学生生活を謳歌する中で、同じ高校に通う水泳部のスター選手であったベス・ウォラルと恋に落ちた。2人はやがて交際を始め、高校を卒業するとすぐに結婚をした。

 大学を卒業する頃には、2人の子どもに恵まれた家庭ができていた。長男のヘイデン、そして長女のアビゲイル。家族はポートランドの隣町の一軒家に引っ越し、一家はまさに幸せの絶頂にいた。しかし、悲劇は突然に訪れる。1995年、母親であるベスに乳がんが発覚したのだ。約2年の闘病生活の末、ベスは帰らぬ人となった。ヘイデン5歳、アビゲイルは2歳の時の出来事だった。

 最愛の妻に先立たれたロナルドは、悲しみに暮れた。埋められない心の穴に、大量のアルコールを流し込みむようになる。翌年には再婚したが、14カ月という短い期間でその生活も終わった。やがて、飲酒運転が日常化するようになり、断酒を目指したリハビリ生活を余儀なくされた。しかしその効果ははかばかしくなく、そんな状態では当然仕事も安定しない。家賃を滞納するようになったロナルドは、母親の家に子どもたちと共に身を移すこととなった。

 妻を失ってから約3年後、子どもたちは順調に育っていた。だがそれが彼に焦りを与える。子どもの成長にともなって、金銭面で困り始めていたのだ。仕事の安定しない彼にとって、まとまったカネを手に入れることは難しい。そのときロナルドの頭には、子どもの頃、元銀行員であった父親と交わしたある会話が思い浮かんだ。それは、父親が働いていた銀行に強盗が入り、現金を奪われたというエピソードだった。少年時代のロナルドが、「誰も強盗を止めようとしなかったの?」と問いかけると、父親は教えてくれた。父親の銀行では強盗が入った時の為に訓練が行われており、行員は強盗の要求に逆らわないようになっているということ。さらに、銀行はこうした非常時の為に保険に加入しており、盗まれた金額は払い戻されるということ。この会話を思い出したロナルドは決意した。銀行強盗になることを……。

初めての銀行強盗、そして二重生活

 2006年8月4日、その日、子どもたちにとっては、いつもと同じ朝だった。しかし、ロナルドにとっては人生を賭けた朝だった。

 いつも通り子どもたちを車に乗せて学校へ送り、別れを告げた後、ロナルドは銀行へ向かった。顔をサングラスとマスクで覆い、おもちゃの銃で銀行員を脅し、現金を強奪したのだ。初めての銀行強盗は大成功だった。その夜、ロナルドは盗んだカネを握りしめて、子どもたちとレストランで優雅なディナーを過ごした。後日、防犯カメラに映った強盗犯の写真を地元新聞が紙面に載せると、勘のいい母親はそれが息子に似ていることに気づく。母親に問い詰められたロナルドは、笑ってごまかしたという。
  
 最初の銀行強盗を成功させた後、ロナルドはエンジニアの仕事を見つけ、真面目に働き始めた。毎晩子どもたちに夕食を作り、夏休みを迎えると彼らが大好きな遊園地に連れて行き、子どもたちが水泳に興味を持ち始めると毎日のように練習に付き添った。子どもたちは、亡き母の得意種目であった背泳ぎに力を入れるようになった。大会前には子どもたちを励まし、アドバイスを贈るロナルドはまさに“理想の父親”だった。

 しかし、ロナルドは子どもたちの知らない一面を持っていた。彼はその生活の裏側で、年に一度のペースで銀行強盗を続けていたのだ。

 最初の強盗から約4年後、ロナルドと子どもたちの幸せな生活は、終わりを迎え始めていた。子どもたちは熱中していた水泳に興味を失い始め、父もまたエンジニアの仕事をクビになってしまう。もともと生活していくのにギリギリの給料だったため貯蓄もなく、ロナルドは焦り始めた。これまで銀行強盗で手にした金額よりも、もっと大金を手に入れる必要がある。それには仲間がいる。そして、彼が最も信頼の置ける共犯者として声を掛けたのは、息子であるヘイデンだった。

 ロナルドは自宅のキッチンで、ヘイデンに計画を少しずつ話し始める。これまでに自分がしてきた強盗の手口を語り、一度も危ない目に遭うことなく成功させてきたことを伝えた。ヘイデンは父親が吐き出す衝撃の事実に驚き、拒絶した。

全米を驚愕させた銀行強盗一家の始まり

 2012年1月、ロナルドは幸運にもテキサス州で仕事を見つけることができた。2カ月後、生活が安定し始めたロナルドは、まずアビゲイルをテキサス州へと呼び寄せる。幸運にもアビゲイルはテキサス州の下着店の販売員として仕事を見つけることができた。数ヶ月後、ヘイデンもテキサス州のホテルでコンシェルジュの仕事を見つけ、父親の元へ戻る。再び始まった家族との生活。安定した給料もあり、新しい生活を始められると信じていた。しかし、ロナルドは変われなかった。街中にある銀行を目にする度に、銀行強盗への欲求を募らせていたのだ。時を同じくしてヘイデンもまた、父親からの銀行強盗の誘われたことを思い出していた。大学に行くための学費が欲しかった。

 結局ロナルドとヘイデンは、銀行強盗を共に企てる。ショッピングモールの近くにある銀行に狙いを定め、下見を繰り返し、内部の間取りを確認した。やがて完璧な逃走手段を考える中で、逃走用のドライバーが必要であることに気がついた。2人がドライバーとして誘った相手、それはアビゲイルだった。

 ヘイデンはアビゲイルの部屋に入ると、全てを語り始めた。父親が銀行強盗であること、自分も銀行強盗を手伝おうと決めたこと、ドライバーとして手伝ってほしいということ。翌日、ロナルドもまた、彼女を説得した。父親と兄に説得されたアビゲイルは、銀行強盗に加担することを決意する。アビゲイルがのちに語ったところによれば、父親と兄に危険が及ばないよう、彼らを守りたいという気持ちから決意をしたのだという。物心がつく頃にはすでに母親を失っていた彼女にとって、2人の存在はすべてだったのだ。

 2012年8月9日、3人は地元の銀行に向かった。逃走用には、前日にロナルドとヘイデンが盗んできた車を用意した。道中、ヘイデンとアビゲイルはひどく緊張していたが、自宅で練習した通りこなせば問題ないと父親に勇気づけられた――かつての水泳大会の前日のように。アビゲイルを車に残し、2人は銀行に押し入る。予定通りロナルドがおもちゃの銃で脅すと、銀行員は現金を供出した。ヘイデンはあまりの緊張で手が震えていたが、現金を持参したごみ袋に入れさせた。銀行の外では、アビゲイルが30秒毎にトランシーバーで、経過時間を2人に伝えた。無事にカネを奪った2人は、銀行の裏口を開けさせ、待機していたアビゲイルの車に飛び乗った。すべて完璧だった。

 一家はこの日約7万ドルを強奪し、その夜、近所のレストランで成功を祝った。

 だが、危険を冒して手に入れたカネがなくなるのは一瞬だった。未払いだった支払いを済ませると、ロナルドはバイクを購入し、ヘイデンとアビゲイルもそれぞれ車を購入。さらにレストランで食事をし、洋服や家具も揃え、パーティーに明け暮れた3人は、約7万ドルをたったの2カ月で使い切ってしまったのだ。

 結局またしても経済難に陥った一家は、同年10月1日、再び銀行強盗を企てる。ロナルドとヘイデンは、今度は銀行の近くで行われていた土木作業の作業員を装い、オレンジ色のベストを着用し、サングラスとマスクで顔を覆い、銀行を襲った。この日も、アビゲイルが待つ車に乗り込み、逃走を成功させた。銀行員から現金を奪うとき、ヘイデンの手はもう震えていなかったという。

 こうして2度の銀行強盗を成功させ、大金を手にしたロナルドとヘイデンの欲求は抑えきれなくなっていた。ロナルドは仕事を辞めて銀行強盗だけで生活をしていく気になり、ヘイデンもそれに同調し始めた。

 そして1カ月後の11月9日、3人で行う3度目の銀行強盗決行の朝、準備をしていると、ドアをノックする音が聞こえた。警察だった。
 
 警察は、銀行に設置された防犯カメラの映像を解析し、強盗犯が着用していた土木作業用のオレンジ色のベストに汚れがないのを不自然に思い、調査を開始。ベストには梱包の際にできる折り目まではっきりと残っていたことから、銀行周辺のホームセンターの防犯カメラが調べられ、強盗発生直前にベストを購入するヘイデンとアビゲイルの姿が確認された。購入時に使用したデビットカードが父のロナルド名義だったことから逮捕につながったのだ。

 同日に行われた取調べで、ロナルドはすべての罪を認め、未解決だったオレゴン州での銀行強盗についても自ら自供した。ヘイデンとアビゲイルも、警察の取り調べで全てを語った。1年後、ロナルドは懲役24年、ヘイデンは懲役10年、アビゲイルは懲役5年(それぞれ仮釈放付き)の刑を言い渡された。

偶然が生んだ、感動的なインタビュー映像

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 全米を驚愕させた銀行強盗一家の逮捕から1年後(2013年)、判決前に拘置所で行われた3人のインタビューが放送された。子どもたちへの懺悔を繰り返す父親、そしてそんな父親を「許す」という子どもたちのインタビュー映像は大変な話題を呼んだ。この番組でのハイライトは、拘置所で再会したヘイデンとアビゲイルの1シーンだった。久しぶりに再会した兄妹は、直接触れ合ってはならないという拘置所の規則を破って抱きしめ合い、泣きながら互いを勇気づけた。ここでハプニングが発生する。2人が強く抱きしめ合うことで、アビゲイルの胸元に付けたピンマイクが彼女の胸に強く押し付けられたのだ。テレビ番組のスタッフがこのピンマイクの音量を上げたことで、感情が高ぶって速く鳴り響いているアビゲイルの鼓動の音がはっきりと聞こえる状態で放送された。刑務所に入る直前に2人が見せた最後の抱擁は、視聴者の同情と涙を誘うこととなり、父親が犯した過ちと家族の絆を描いたこの番組は、2年後のクリスマスシーズンに再放送されるほど全米で話題となった。

 昨年9月、アビゲイルは2年10カ月の服役を経て、仮釈放された。服役中に裁縫の技術を指導してくれていたボランティアの女性が、出所後に自宅に受け入れてくれたこともあり、現在はサポートを受けながら大学に行くための準備を進めている。ヘイデンもまた、出所後は大学を目指し、新たな生活を夢見ながら現在も獄中で過ごしている。ロナルドは出所した夜に、子どもたちと過ごすディナーを楽しみに獄中生活を送っているという。

 全米を騒がせた銀行強盗一家逮捕から約3年。アビゲイルは一人、家族で過ごすクリスマスを心待ちにしている。
 
井川智太(いかわ・ともた)
1980年、東京生まれ。印刷会社勤務を経て、テレビ制作会社に転職。2011年よりニューヨークに移住し日系テレビ局でディレクターとして勤務。その傍らライターとしてアメリカの犯罪やインディペンデント・カルチャーを中心に多数執筆中。

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