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連載
神保哲生×宮台真司「マル激 TALK ON DEMAND」 第98回

なぜ、安倍政権は中東問題と「十字軍」に加担するのか?

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――ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

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『アラブが見た十字軍』 (ちくま学芸文庫)

[今月のゲスト]
高橋和夫[放送大学教授]

――日を追うごとに目まぐるしく変化するイスラム国の諸問題。今回は、これらを整理する意味でも、あえて時計の針を1月23日に戻し、2人の邦人が人質として公表されたところから”3つのそもそも論”を見ていきたい。「いつから日本は十字軍に参加したのか」「この戦争に勝てるのか」そして「イスラム国の問題とは、一体何か」……である。

神保 現在、1月23日、金曜日の夜8時半で、イスラム国(ISIS/ISIL)側が72時間の身代金の期限が過ぎて6時間ほどが経過しています。現時点ではイスラム国による邦人の人質事件がどう推移するかはわかっておらず、人の命が懸かっているときに「そもそも論」のような議論をすることに批判もあるかもしれませんが、あえて今週はその「そもそも論」をテーマに選びました。

宮台 日本人の人質2人を登場させた最初の映像でのジハーディ・ジョン(イスラム国の黒覆面男)からの呼びかけは、日本政府でなく、日本国民に向けられていました。命を助けたければ、アベに働きかけよと。人質の命が大切なのは当然として、そこで一喜一憂すればイスラム国の思惑通りになります。であれば、むしろ冷静な「そもそも論」に立ち戻るべき時期です。

神保 非常に緊迫した状況にあるのは事実ですし、そのような時に目の前で起きていることに関心が集中してしまうのは仕方がないことですが、この騒動の中で多くのメディア報道から抜け落ちている論点を議論したいと思います。それはつまり、「日本はいつから『十字軍』に参加したのか」、「この戦争は勝てるのか」、そして「なぜイスラム国は問題なのか」という3つの問題です。特に3番目は、邦人の命を危険にさらしてまで、日本がイスラム国と対峙しなければならない理由があるとすれば、それは何なのかを考えてみたいと思っています。

宮台 ムスリム人口が7%に及ぶフランスは特にそうですが、ムスリムの多くはイスラム国に反発しています。その意味で、イスラム国の問題は、キリスト教的なものとイスラム教的なものの対立とは言い切れません。だとしても、イスラム国が投げかけているものが「文明の対立」だという直観も捨て切れない。とすれば、対立軸がどこにあるのか、です。

神保 ゲストをご紹介します。中東情勢や日本の対中東外交に詳しい、放送大学教授の高橋和夫さんです。イスラム国は今回のビデオの中で「日本は『十字軍』に参加した」と言っていました。しかし、日本政府は日本の「イスラム国に対抗する支援策」というのはあくまで「人道的支援」であり、英米のようなISISを直接爆撃している国とは一線を画していると考えられてきました。しかし、今回日本は「十字軍に参加した」と断罪され、ISISは後で処刑したアメリカ人やイギリス人の人質の時と同じように、2人の日本人人質にオレンジ色の服を着せて跪かせました。日本は十字軍に参加しているのでしょうか? また、そうだとすれば、いつから参加したのでしょうか?

高橋 イスラム諸国全体で「十字軍に参加した」と捉えられているわけではありません。昨年末から後藤さんのところには身代金要求のメールが来ていたようで、それをメディアが知らなかったということは、外務省が情報を抑えて交渉していたと思われます。それがうまくいかない中で、たまたま安倍首相が中東を歴訪していたので、ISISはいいチャンスだと考えたということでしょう。

神保 それは安倍首相が中東訪問中に発表したイスラム国に対抗するための2億ドルの援助に、ISI Sが便乗しているということですね。ではここで、安倍首相がエジプトで2億ドルの支援を発表した時の様子をご覧ください。


(2015年1月17日 エジプト・カイロ)
安倍 イラク、シリアの難民・避難民支援、トルコ、レバノンへの支援をするのは、IS ILがもたらす脅威を少しでも食い止めるためです。地道な人材開発、インフラ整備を含め、ISILと戦う周辺各国に総額で2億ドル程度支援をお約束します。


神保 ここで使われている「戦う」という表現ですが、BBCやCNNなどの報道では「combat」「battle」などと翻訳されています。外務省の英語訳では「contend」という弱めの言葉になっていますが、「戦う」と言っている以上、「2億ドルはISISと戦うために拠出された=十字軍に参加した」と言われればその通りであるかもしれません。

高橋 日本政府としては、アメリカに向けて「これだけテロと戦っているぞ」と見せたくてそう言ったのでしょう。ただ、中身は難民支援などであり、「戦う」という表現とは必ずしも一致しません。

神保 難民支援について、今回は人道支援ということですが、その点についてイスラム学者の中田考さんが外国特派員協会で、それがISIS側にどう受け止められているかを語っています。


(2015年1月22日 外国特派員協会 東京・有楽町)
中田 安倍総理自身は中東に行ったことが地域の安定、和平につながると信じていたのだと思いますが、残念ながら非常にバランスが悪いと思います。難民支援・人道支援を行っているということを強調していましたが、もし人道支援・難民支援ということで今回の中東歴訪があったのだとすれば、正確にはわかりませんが300万人ともいわれているシリアからの難民の大半、160万人以上はトルコにいます。トルコが外れているところで「難民支援・人道支援のため」と言っても通用しないと思われます。訪問国がエジプト、イスラエル、パレスチナ、ヨルダンと、すべてイスラエルに関係する国だけである、という選択をしている時点で、当然「アメリカとイスラエルの手先」と認識される。人道支援・難民支援のために行っているとは理解されないことは、中東を知る者にとっては常識です。(中略)イスラム国だけを名指しして、それと「戦うために」という言い方をしておりますので、イスラム国から見ると「我々と戦っている十字軍だ」という認識になってしまってもしかたがない、と考えます。


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