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【premium限定連載】ドキュメンタリー監督・松江哲明のタブーを越えたドキュメント 第5回

誰が冤罪を作るのか!? オウム・松本サリン事件に高校生が感じた素朴な疑問とメディアの責任

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――ドキュメンタリー監督である松江哲明氏が、タブーを越えた映画・マンガ・本などのドキュメンタリー作品をご紹介!

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『オウムと私』(文藝春秋)

 制作者の私的な視点が作品の力となっているドキュメンタリーだった。

 NNNドキュメント(2014年6月30日放送 日本テレビ)『足跡 松本サリン事件20年』の松澤亮ディレクターの制作動機はとても強い。なぜなら彼は事件があった当時は近所に住んでいて、第一通報者である河野義行さんがなぜ犯人扱いをされたのかを検証する番組を高校の放送部で制作しているからだ。

 94年6月27日、長野県松本市の住宅街で起きた松本サリン事件は、後にオウム真理教の犯行と分かったものの、事件当初は会社員・河野義行さんに疑惑の目が向けられていた。「薬品の調合を間違えた」というのが殺人容疑の理由だが、河野さんはそんな発言をしていないと言う。それでも報道陣と警察は翌年3月20日に都内で地下鉄サリン事件が起きるまで彼を犯人扱いしていた。

 松澤ディレクターも関わっている松本美須々ヶ岡高校放送部が97年に制作した「テレビは何を伝えたか」は、報道被害を学生の視点から素朴に描いた作品だ。その内容は、数分に渡り、番組の中でも紹介されている。高校生だった松澤さんは、一年半に渡って長野県にある全てのテレビ局に取材し「なぜ河野さんが犯人かもしれないというイメージを与えてしまったのか」という疑問を投げかける。報道に関わった局員たちは丁寧に言葉を選びながら、時には言葉を詰まらせて質問に答えていた。だがこのような冤罪は、メディアが競争社会である以上、絶対に起きないとは言い切れないだろう。

 元読売新聞記者である永野貴行さんは「報道機関が警察の情報に依拠せざるを得ない構造である限りは、同じことを繰り返す」と断言する。当時は入社3年目で事件に遭遇し、取材に飛び回ったそうだが、結果として「河野さん犯人説」に加担してしまった。その責任を感じ、事件の2年後に退社。そして河野さんを支え続けた弁護士に憧れ、8度目の挑戦で司法試験をパスすることが出来た。弁護士となった永野さんは先ほどの言葉に「現に今も繰り返してる」と付け加え、「だから僕はその世界から抜けたんだよね」と当時の決意を口にする。松澤ディレクターは高校生の頃、マスコミに対して不信感を抱いていたが、現在はその立場でもあるテレビの報道記者となった。きっと永野さんの言葉の重さを痛い程に理解しているに違いない。

 河野義行さんは、妻・澄子さんが「元通りに治るか、亡くなった時に松本サリン事件が終わる」と語っている。しかし、彼女も寝たきりのまま8人目の犠牲者となってしまった。現在は松本から移住し、講演や犯罪被害者の支援活動で全国を回っているが、松本にいた頃、毎月のように病室を尋ねていた男性がいた。サリンを撒いた車を造り、殺人ほう助罪で10年服役していた元オウム信者だ。彼は出所してからすぐに河野さんに謝罪をし、交流を続けていた。庭の手入れをし、澄江さんを見舞う映像に「やさしさ」だけとは言い切れない、人間の奥深さを感じた。現在は工場で働いている彼は「今の生きがいは?」と問われると「無理をしてでも10年20年先には生活が出来ればなと考えている」と答える。でも僕にはその言葉が、明確に質問に答えていたとは言えない。しかしカメラを前にして自分の犯した罪と向き合うこと自体に強い覚悟が伺える。

 事件で息子を亡くしたある母は、墓に加害者の名を刻んだ。「たとえ自分が死んでも末代までこの事実を忘れないで欲しい」と。夫も松本智津夫死刑囚の死刑執行を望みながら亡くなったからだ。

 松澤ディレクターは松本サリン事件によって生活を破壊された様々な人たちを通して、自身の20年を想う。この歳月が変えたものと変わらなかったものは何か。ただ一つ確実なのは松澤氏は高校生の頃に感じたマスコミへの疑念を今も忘れていないということだ。それは組織に属しているからこそ持たなくてはいけないことだと思う。

 僕はその誠実な視点に感動した。

まつえ・てつあき
1977年、東京生まれのドキュメンタリー監督。99年に在日コリアンである自身の家族を撮った『あんにょんキムチ』でデビュー。作品に『童貞。をプロデュース』(07年)、『あんにょん由美香』(09年)、『フラッシュバックメモリーズ3D』(13年)など。『ライブテープ』は東京国際映画祭「日本映画・ある視点」部門作品賞を受賞。

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