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『クロサカタツヤのネオ・ビジネス・マイニング』第5回

「実はクルマは売れている? メーカーが栄えてもクルマ雑誌が消える不思議」

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通信・放送、そしてIT業界で活躍する気鋭のコンサルタントが失われたマス・マーケットを探索し、新しいビジネスプランをご提案!

 20世紀、日本にとっても、そして若者にとっても「クルマ」は、大きな意味を持っていた。日本車は「安くて、高性能で、壊れない」として世界市場を席巻し、日本の経済成長の一端を担った。そして若者は18歳になると競って免許を取り、アルバイトに励んでクルマを買っていた。しかし、21世紀になると「若者のクルマ離れ」「クルマが売れない」と言われるようになってしまった。一体、クルマに何が起きているのだろうか?

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↑画像をクリックすると拡大します。トヨタ ハイブリッド車世界累計販売台数 推移(集計期間:1997~トヨタHPより)

クロサカ 「マスの危機」について取り上げているこの対談ですが、今回は塩見智さんをお迎えして、最もマスなプロダクト「自動車」です。マスメディアとマスプロダクトの最強の接点がクルマなのは、自動車産業の広告出稿量の巨大さからも自明でした。メディアがクルマの需要を喚起し、クルマによってメディアが育てられてきた。そんな共犯関係がありましたが、最近は「クルマが売れない」と言われますよね。

塩見 いやいや、実はクルマって今でも売れているんですよ。

クロサカ あれ? そうなんですか。

塩見 プリウス以外に大ヒットがなくて、いろんなクルマがちょっとずつ売れるから、わかりづらいんだと思います。実際には、クルマの国内販売は好調ですし、北米や中国でも売れまくっている。

クロサカ でも、いろんなクルマがちょっとずつって、利益率はそんなによくなさそうな……。難しい商売になっているような気がします。

塩見 いろんなクルマといっても、中身はほとんど一緒なんですよ。トヨタもフォルクスワーゲンも、覚えきれないほどブランドがあるけど、プラットフォームは同じ。エンジンもモジュール化されていて、排気量などが違っても基本の設計は同じ。屋台骨も部品も同じで、違うのは見た目のデザインだけ。

クロサカ なんだか全然「マスの危機」じゃなさそうですね。今回は失敗したかな(笑)。

塩見 メーカーが本当に商売上手になりましたね。昔のマイナーチェンジはフロントグリルがちょっと変わるだけだったけど、今は本当にまったく別の車かと思うくらい変わります。さらに、マイナーチェンジだけでなく、既存の車種をベースにデザインを少し変えて、半年ごとに新しいモデルを発表するんですよ。だから、トヨタもニッサンもホンダも、半年ごとに必ず新車が登場している状態。

 ただ逆に言えば、新車が売れるのは、発表されてから半年だけなんです。半年を過ぎると、ぱたっと売れなくなる。メーカーもそれを織り込んでいて、その頃に顔違いの新モデルを投入して、いつもフレッシュなモデルがある状態を保っている。でも、半年ごとにイチから新車を開発することはできないので、プラットフォームを共通にして、一般消費者が違う印象を抱くように外観を変えているんです。

クロサカ それじゃAKB48じゃないですか(笑)。そこそこカワイイ女の子がいろいろいて、誰でも1人くらいは好みのメンバーがいる。さらに、それが定期的に入れ替わっていくことで、新鮮さも保つ……。

塩見 本当にそうですよ。クルマはもう、本気で悩んで選ぶものではなくなってきているのかも。実際、残価設定型ローンの普及で、高級セダンのBMW5シリーズでも、毎月2万円弱の支払いで乗ることができる。だから、クルマは何百万円も覚悟して支払うようなものじゃなくなってきている。スマホみたいな感じですね。

クロサカ そうか、確かにスマホやケータイに近いですね。ということは、クルマにも「家族割」みたいなものってあるんですか?

塩見 実質的には、もうあります。クルマがないと生活できない地方では、一家に1台ではなく、1人に1台になっている。だから「ダイハツで3台まとめて買えば大幅値引き」みたいなサービスって普通にありますよ。そのために顔違いが何種類もあるわけですから。ケータイが1人当たり1台以上になって、ナンバーポータビリティによる既存顧客の奪い合いになったように、クルマもそれに近い状況になっている。

クロサカ そうなると、ロイヤリティの高い顧客が一番馬鹿を見る。「20年ドコモ一筋です」とか「10年トヨタのクラウンに乗り続けています」みたいな人が損をして、2~3年で機種もメーカーも乗り替えて行く方がよいことになる。

塩見 実は、環境面からもそっちの方がよいというのが、悩ましいところ。製造工程にかかるエネルギー消費等を考えても、20年前のクルマを乗り続けるより、今の車に替えた方が環境には優しいかもしれない。今は、乗り替えることが正義と言えるクルマが、やはり増えています。

クロサカ アップデートも止まってセキュリティホールばかり、というスマホよりも、新しいものに買い替えた方が、周囲に迷惑をかけずに済みます。ただ、それを言いだすと永遠に買い替え続けないとダメだし、正直それってうっとうしいですよね。

塩見 買いたいときに、買わせてほしい(笑)。

クロサカ 実際には、クルマを買い替えるタイミングってメーカー側の事情よりも、ユーザー側のライフサイクルと連動しているじゃないですか。子どもが生まれたり、引っ越したりと。

塩見 車検も大きい。この制度のせいで、ユーザーが自然と2年ごとに買い替えを意識する。考えてみるとスゴい制度です。安全のためといっても、いまのクルマなら5年に1回くらいでいいはず。海外にはほとんどないですからね。

クロサカ そうやって買い替えを意識している人には、広告が刺さるわけですよね。実際に自動車のテレビCMはいまでもかなり多い。一方で、そうした需要喚起にこたえるため、定期的に新車を発売するということを何十年もやってきた結果が「別の車種でも中身は同じ」で「エブリディ新車」状態なわけです。

塩見 だから買う側も、クルマごとの違いがわからないから、ブランドで買うようになる。「うちはトヨタに決めているから」というお客がメーカーにとっては一番ありがたい。メーカーごと、車種ごとの差がなくなるからこそ、ロイヤリティが大事になってくる。そうすると、CMも細かいことは言わなくって、メーカー名や車名を連呼して、とにかく名前を忘れないでいてもらうことが目的になる。実は売る方も、誰にどのクルマがお薦めなのか、よくわかっていないかもしれない(笑)。

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