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サイゾー×プラネッツ『月刊カルチャー時評』VOL.23

【特別編】2014年の文化状況とメディアの未来

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批評家・宇野常寛が主宰するインディーズ・カルチャー誌「PLANETS」とサイゾーによる、カルチャー批評対談──。

 普段は、月々の話題コンテンツを取り上げて評している本連載だが、今回はちょっと趣向を変えて特別企画でお届け。本連載のホストであるところの宇野氏が、現在の日本のメディア状況を踏まえた文化論を展開する──。

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若きジョブズが表紙を飾る「WIRED」95年8月号。

 今回は月末に「文化時評アーカイブス」の今年度版【1】が出るということで、久しぶりに全体的な文化状況やメディア論について話したいと思います。

 僕は「サイゾー」の創刊時からの読者なのだけど、創刊(1999年)から15年経って、「文化」というものの位置付けが全然違ってきているという実感が僕にはある。一般的にそれはインターネットの拡大による変化だと思われているのだけど、僕が感じているのはもっと質的な変化、イデオロギー的な変化がこの国の文化空間にはあったと思っています。

 例えば15年前に小林弘人さん【2】日本版「WIRED」【3】の延長線上での男性誌として、初期「サイゾー」を作った。いま思えば当時の「WIRED」が象徴していたのは、アメリカ西海岸的なIT技術やコンピュータカルチャーによって、ポスト戦後的な新しいホワイトカラーのスタンダードができることへの期待だった。しかし、今現在、それはまだあまり実現していないように思う。少なくとも当時小林さんが考えていたものとは、だいぶ異なるものになっているんじゃないか。

 それは言い換えれば、団塊ジュニアは新しい日本を、政治的にも文化的にも作れなかったということでもあると思う。団塊ジュニアという世代は、頭の中身はもう戦後日本社会は戻って来ないとわかってる人が多い。しかし、身体の部分、労働環境や家族形態はまだまだ戦後的なスタイルに捉われていて、その結果彼らの仕事はなかなか戦後的なものから離陸できない。

 例えば僕はよく音楽市場を例に出すのだけど、団塊ジュニアの音楽ファンはいまだにマスメディア主導のタイアップで広まるベタなJポップと、メタで洗練されたマイナーなロックや現代音楽があるという構造を信じている。だけど、そんなものは現在の音楽市場のほんの一部でしかない。現代日本の音楽市場の主力と言っていいアイドルやV系、アニメソングやボーカロイドといったキャラクター・ミュージック群を最初から排除している。ただし、渋谷系にリスペクトのあるボカロPだけは名誉白人的に認める、みたいなね(笑)。

 これって単にオタク的なものを差別している、というのではなくてもっと根が深い問題だと思う。この期に及んでもまだ「全体」というものが存在して、メインストリームというものが機能していて、メジャーとマイナーが存在すると思っている人がアラフォー世代にまでたくさんいる、ってことなんですよ。小さなタコツボが乱立しているだけの世界が訪れていると理屈ではわかっていても、世界観自体を切り替えることができない。

 インターネットの使い方にもそれはよく現れていて、ひと言で言うと団塊ジュニアはインターネットを使って“第二のテレビ”を作ろうとしてきたのだと思う。

 確かに現在もテレビの中では、ネットもグローバリゼーションもなかったことになっているし、戦後的な標準世帯がいまだに支配的で、完全に昭和の延長線上にある世界なのだけど、では団塊ジュニアが作った今のインターネット社会はどうか。彼らの築き上げたネットの文化空間ではネトウヨと放射脳が跋扈していて、半月に一回生け贄を見つけてきては、失敗した人間や失言した人間を総叩きするのが恒例になってしまった。そして、文化人や著名人もそれを扇動することでポピュラリティを得ていて、そこに中立を装いながらライトに参加する人間が毎回良識的な知性として持ち上げられる──そんな世間がすっかり出来上がっているわけです。

 それは「テレビのポピュリズム」に対して「ネットのポピュリズム」があるだけで、どっちも変わらないと思うんだよね。団塊ジュニアのやりたかったことは結局、多様な価値観が共存できる社会じゃなくて、自分たちが幅を効かせる「平成の世間」を作ることだったのかという失望が、僕にはある。

 正直に言ってしまうと、現在の「サイゾー」の誌面にも、そういうことは感じています。僕が大学生の頃に読んでいたような、一般誌では拾えない内容をつぶさに拾っていくメディアでは、もうない。むしろ社会の中核にいる、団塊ジュニア世代のライトなカルチャー好きの、最小公倍数的な意見を拾うメディアになっているように思える。でも、かつての「WIRED」が持っていたような、団塊ジュニアが中心になったある種の文化運動が今、保守の側に回り始めていることに、自覚的なのだろうかと思います。

 もちろん、こうした状況については、自己批判も含めて話しています。僕の世代のネットから出てきた言論人にとっても、他人事ではない。5年後には自分たちのやってることもそう言われている可能性がある。

 そういう中で最近、以前から出していたブロマガを、週刊から日刊の毎朝配信に変更したんです【4】。現在のツイッター文化って、「百の投稿を見たけど一も残らない」じゃない? あまりに情報が供給過剰になっていて、ほとんどの人間がツイッターで回ってくる記事の見出しだけを見、リンク先を読まずにRTして、情報を消費した気になっている。実際、そうしないと情報がさばけない状況があるのも事実だけど、そういうツイッター文化に対して、「一を伝えて十を知る」ような記事を配信することはできないかと考えたんです。

 だから、メインの記事は毎日1本しか配信しない。それに、規模やサイズも徹底的に考えた。通勤時間の30分にだらだらタイムラインを見て過ごす人がいたとして、その時間を僕らの作り込んだ一つの記事をじっくり読ませることに使わせられないか。そんなふうに考えて取り組んだ結果、まだ最初の1カ月ではあるのだけど、僕自身もびっくりするくらいに購読者数がぐんぐん伸びています。

 よく「活字離れ」と言われるけど、僕は嘘だと思ってる。むしろ書かれた文字で人間がこんなにコミュニケーションしている時代はないとさえ思う。ほとんどの人が1日に平均して1万字は読んでいるだろうし、ホワイトカラーでパソコンを使う人になると、ソーシャルメディアでの会話まで含めれば、2万字から3万字は読んでいる。これを、いかに中身のあるものに変換していくか。ツイッターと戦って時間を奪い、しかし本のような閉じたメディアには引きこもらず、今のRT文化とは異なった開かれ方をすることで、消費者の時間を奪っていきたい。

 ただ、そこで忘れてはいけないのは、人間のライフスタイルの変化を考えることなんですよ。例えば、週刊誌が崩壊したのは、戦後的なサラリーマンが減ったから。首都圏でいうと、東京の西側に家を持っていて、専業主婦の妻がいて、1時間かけて都心に出てターミナル駅で乗り換える──そういう団塊世代を中心にした、戦後的なホワイトカラーが、キオスクで朝買って電車や会社で読むものとして週刊誌はあったわけでしょう。これは誰の目にも明らかで、だからこそ内容もそこに特化していた。

 でも、現在の都市部の社会人は、昔ほど都心には住んでいない。家庭は共働きで、誰もがスマホに常時接続されていて、朝起きたらすぐにメールとソーシャルメディアのチェックをするのが当たり前になっている。そういう彼らのライフスタイルにどう斬り込んでいくかから、本当はメディアを設計し直さないといけないのだけど、そういうことを意外とコンテンツ屋さんは考えていない。

 そこに対して僕みたいな、小さいけど機動力のある人間がいろいろ実験してみるというのが世の中にとって必要だと思うんだよね。そのときに当然、週刊誌の内容が戦後的なサラリーマンにとっての世間や教養や関心事と重なっていたように、僕の発信する記事もそういうものとつながっていたい。世の中には面白いことをやってる人間がまだまだたくさんいるのに、既存のメディアはほとんど拾えていない。そういう新しい世界の存在をどんどん僕のメルマガで紹介して、新しいホワイトカラーのスタンダードにしていきたい。

 これがかつて雑誌ファンで、赤田祐一さん【5】や小林弘人さんに憧れていた自分なりの、インターネット時代におけるケリのつけ方だと思っています。

2020年まで続いてゆく「裏オリンピック」計画

 ここまでは伝え方の話をしてきたけれども、少し内容の話もすると、何か社会的に大きな意味を持った文化的な提案を若い世代から出していきたいと思っています。

 そういう意味で最近、自分のプロジェクトチームとして手がけているのは、「オルタナティブ・オリンピックプロジェクト」です。これは20~30代の若い世代が中心になって、2020年の東京五輪のプランを提出する企画。次号の「PLANETS」の特集になる予定で、発売後も2020年までのイベントやシンポジウムや展示会、メディア露出を通じて社会に対して提案を続けようと思っている。

 これは実は、先の話とも繋がっています。ロサンゼルス五輪以降、オリンピックのマスメディア化はどんどん進んできた【6】。実際、テレビ業界は「これで20年まで生き延びられる」とホクホクしてる。

 そこに対して、僕らはインターネット時代のオリンピック・パラリンピックというものを提示したい。現代のオリンピックはテレビで観るものになってしまっていて、開催地の街にいる人はほとんどチケットが手に入らなくて閉め出されてしまうということが起こってる。そこに対してチケットを持っていない人間も、テレビ中継で観るだけではなく、スタジアムの空気に参加できるオリンピックを提案する。実空間を超えて空気を共有させるのは、まさに今のインターネット技術が非常に発達していて、しかも日本が強いところ。もちろん、都市開発についても、密接に情報化時代のオリンピックの興行形態と結びついたものを提案するつもりです。

 一方で、ナショナリズムの高揚装置としてではない、いわば21世紀の先進国の「バラバラのものをバラバラのまま共存させる社会モデル」の提示としてのオリンピックも考えている。その象徴として「裏オリンピック計画」というものを考えてます。

 20年は東京ビッグサイトがメディアセンターに使われる可能性があって、コミックマーケットの通常開催が難しい【7】。それを逆手にとって、夏コミを変則的に拡大開催してもらい、そこを中心にアニメやアイドルやゲームなど、さまざまな日本のポップカルチャーを包摂したイベントを集中的に行いたい。これについては、バラバラのものがバラバラのまま盛り上がるということでいいと思ってる。コミケだって、『黒子のバスケ』【8】のブースにいる腐女子と、『ひだまりスケッチ』【9】が好きで来る萌えオタは、ほとんど没交渉なんだよね。でも、僕はそれこそがいいと思う。こういうイベントで、オリンピックには乗っかれない僕らのような文化系のマイノリティたちも楽しめて、外国人観光客にカルチャーの面でも楽しませたい。

 ほかにも、雑誌の企画としてだけど、「オリンピック破壊計画」なんてのも考えてる(笑)。これは、テロで東京五輪を潰すならこういうプランがあると、ポリティカル・フィクションとして出すものです。目的は「セキュリティー意識の喚起」。それに、アニメ・特撮好きとしては、こういう形で今の日本でポリティカル・フィクション的なものが復活すると嬉しいな、と。

 僕はこのプランは、予算的にも技術的にも実現可能なものを提出するつもりです。何十億もするデカい箱物を作るような話には、絶対にしない。そして、現実化に動いていきたい。そうなったとき、初めて文化や言論が力を持てると人々は確信できるだろうし、僕ら若い世代が「自分たちが社会を作っていける」という実感が持てるんだと思うんです。

(構成/稲葉ほたて)

宇野常寛[批評家]
1978年生まれ。企画ユニット「第二次惑星開発委員会」主宰。批評誌「PLANETS」の発行と、文化・社会・メディアを主軸に幅広い評論活動を展開する。

【1】 「文化時評アーカイブス」の今年度版
「文化時評アーカイブス2013-2014」(小社刊)現在鋭意作成中。

【2】小林弘人
サイゾー創刊編集長にして現株式会社インフォバーン代表取締役社長。通称「こばへん」。近年は『FREE』(NHK出版)の監修などで知られる。

【3】日本版「WIRED」
1994年創刊、98年休刊。「サイゾー」創刊時はいくつか連載が引き継がれた。なお、2011年よりコンデナスト・ジャパンより再び日本版が刊行されている。

【4】ブロマガを~
ドワンゴが運営する「ブロマガ」にて発行されている「メルマガPLANETS」が、2月1日より「ほぼ日刊惑星開発委員会」に。

【5】赤田祐一
「Quick Japan」を創刊した編集者として知られる。ほかに雑誌「団塊パンチ」や『磯野家の謎』(飛鳥新社)などを手がけた。現在は「Spectator」編集部在籍。

【6】ロサンゼルス五輪以降~
1984年に開かれたロス五輪は開催都市の税金を使わずに作ることが目標とされ、放映権料や協賛金、入場料収入、グッズ販売という4本柱で費用を賄うこととなった。商業五輪の先駆けといわれ、マスメディアとビジネス的に切り離せない関係を結んだ大会である。

【7】2020年は東京ビッグサイトが~
五輪開催地はビッグサイトが、レスリング等の競技会場兼国際放送センター・メインプレスセンターとして利用される予定になっている。夏季五輪は毎年8月中旬に開催されるコミックマーケットと重なり、その場合コミケがどうなるのか、危ぶまれている。また拡張計画もあり、その場合は2020年のみならず前数年も使えない可能性が。

【8】『黒子のバスケ』
藤巻忠俊/集英社「週刊少年ジャンプ」09年~
バスケの強豪・帝光中学校に在籍する「キセキの世代」と呼ばれる5人の天才たち。しかし、実は「キセキの世代」には“幻の6人目”がいた──というところから始まるバスケマンガ。腐女子から絶大な人気を誇る。

【9】『ひだまりスケッチ』
蒼樹うめ/芳文社「まんがタイムきららキャラット」04年~
同じアパートに住む女子高生たちの日常生活を描いた四コママンガ。男性オタク人気高し。

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