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サイゾー×プラネッツ『月刊カルチャー時評』VOL.24

『クローズEXPLODE』――『クローズ』新章──大ヒットした『ZERO』2作を超えられるのか?

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批評家・宇野常寛が主宰するインディーズ・カルチャー誌「PLANETS」とサイゾーによる、カルチャー批評対談──。

宇野常寛[批評家]×松谷創一郎[ライター、リサーチャー]

 近年のヤンキーマンガの金字塔である『クローズ』が、最初に映画化されたのは07年の『クローズZERO』だ。小栗旬・山田孝之主演の“イケメン映画”としても人気を博してヒットを果たした同作は09年に続編『ZEROⅡ』も公開された。そしてこの春、さらなる“新章”として再び『クローズ』映画が登場。キャストも設定も一新された『EXPLODE』、そのワルさのほどは──?

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睨み合う鏑木(東出)と加賀美(早乙女)。転入生である鏑木と新入生・加賀美の競り合いが展開の鍵を握る。

宇野 『クローズ EXPLODE』(以下、EXPLODE)は今年の邦画の中では面白いほうだけど、『クローズZERO』【1】(以下、ZERO)、『クローズZEROⅡ』【2】(以下、ZEROⅡ)の前2作ほどのエポック感はなかったですね。野心的なことをやろうとした形跡はあるけど、あまり成功しているとは言えない。前2作は映画界全体と闘っていたというか、国内のエンタメシーン全般に対してインパクトがあったと思うんだけど、今回はすでに確立された『クローズ』ブランドの中での比較的大きい花火にしかなっていない感じがした。及第点と褒められる映画の中間くらいにある作品かな、と。

松谷 僕も同じ感想ですね。

宇野 松谷さんは本作を、今年の邦画の中でどう位置づけますか?

松谷 日本映画自体が去年から引き続いて低調な状況です。企画が細っている中で、「貴重なアクション映画」であることは特筆すべきことでしょう。日本映画は、アクションが弱いですからね。こうした中でシリーズものの『EXPLODE』は内容も及第点、興行収入もおそらく10億円を超えるでしょうから、十分に健闘してる。ただ、『ZERO』の興行収入25億円、『Ⅱ』の30億円と比べると弱いし、「Yahoo!映画」のレビュー点数が前2作に比べて異様に低い。原作や前作ファンが、かなりがっかりしていることがうかがえます。

宇野 一言でいうと、『ZERO』ってゼロ年代の邦画ブームの、一番いい時期の大花火だったんですよね。あの時期は、メジャーシーンでヒットを狙いながらも、いや、メジャーだからこその大予算を用いてチャレンジングなことをやれる空気があって、そして作品的にも成果を残したものがいくつかあった。その代表例が『ZERO』と『告白』だったと思う。

松谷 06年に21年ぶりに邦画のシェアが洋画を逆転し、以降現在まで好調な日本映画の波を作ってきた作品のひとつといえるでしょうね。07年に『ZERO』、09年に『ZEROⅡ』、10年に『告白』。ゼロ年代後期の日本映画を語る上で、『ZERO』はもっと見直されてもいい作品です。

宇野 そういういい流れがあったのに、その遺伝子が今はあまり残っていないんだなということが、今の邦画の状況をみるとよくわかる。その中で『EXPLODE』はすごく健闘しているんだけど、前2作や原作といかに闘うかというところで力尽きていて、独自の表現を確立するまでには至っていない。

松谷 マンネリ感もありますよね。ただ、それはキャストで克服できる問題だとも思いました。だって浅見れいなが一番よかったと思うくらい、前2作と比べてキャラが弱まっていた。主人公の鏑木旋風雄【3】役の東出昌大の演技も決して良くなかった。この撮影は『ごちそうさん』【4】の前でしょうしね。

宇野 『ごちそうさん』をやって鍛えられた後の今の東出くんなら、もっといけただろう、と。

松谷 そう。ただ、脇役もそんなに良くなかったんですよ。『ZERO』は、線が細くて作品的にはどうしても狂言回し的な役回りになる小栗旬【5】を、山田孝之や高岡蒼甫といった役者がしっかりとバックアップしていた。一応今回も、柳楽優弥(強羅徹役)【6】がいたけれど、それでも弱かった。

宇野 あとは勝地涼(小岐須健一役)【7】が与えられた役割を一生懸命こなしてるくらいかな。あれだけたくさん登場人物がいた中で、あの2人しか印象に残ってない。『ZERO』の2作を踏襲しようとし過ぎていて、例えば強羅のキャラクターって、ほぼ『ZERO』の芹沢多摩雄(山田孝之)【8】から貧乏っていう設定を抜いただけじゃない。というか、そもそも今回はキャラが多すぎたと思う。

松谷 キャラが立ってないんですよ。三代目J Soul Brothersの2人(ELLY、岩田剛典)は特にそうでした。例えば『ZEROⅡ』で漆原凌(綾野剛)【9】が傘を差して出てきたシーンはすごく記憶に残ってるじゃないですか。彼はあれが出世作になりましたよね。そういう掘り出し物な感じの役者が今回はいない。

宇野 今回でいうと早乙女太一【10】が本当はそうなるはずで、悪くないけど柳楽優弥に負けてたよ。藤原一役の永山絢斗【11】も同様で、悪くはないんだけど……という。総合点は決して低くないんですよね。主演の東出くんも、演技力には問題があったかもしれないけど、フィジカル的な存在感はあったと思う。脚本に関しても「これだけ勢力がいて話がまとまるのかな?」と思ったけど、終わった後には「よくまとめたな」という印象を持った。でもやっぱりヤクザやOBのオッサンのドラマに頼っているところが弱いとも思う。

 原作の『クローズ』の世界では大人や女性がほぼ出てこず、不良男子高校生だけが存在する世界になっているでしょう? あれって要は今でいう「マイルドヤンキー」的な世界観の先駆けだと思うんですよ。「守るべき女」とか「反抗すべき教師」や「超えるべき父」がいない世界で、ヤンキーはアウトローでもなんでもなく、趣味でケンカをしているだけ。

 けれど、今ようやくオヤジ論壇がマイルドヤンキー的なものに気づき始めたことが象徴的だけれど、東京の鈍感なホワイトカラー層を観客に巻き込むには、従来のヤンキー観やアウトロー観に接続するためのクッションが必要だったと思うんですよね。だから、『ZERO』では大人や女子を配置していて、まさに「ゼロ」というか『クローズ』の世界観の入門になっていた。その「『クローズ』とは何か」というメタ解説的な要素は今回も踏襲されていたけれど、『EXPLODE』の場合はそれを構造ではなくてセリフや安っぽいトラウマエピソードで説明していて、僕は「そういうのが全部キャンセルされているのが“鈴蘭”なのに」と思った。

 もっというと、『ZERO』2作はそのまま「高橋ヒロシ」と「三池崇史」だった。つまり、「マイルドヤンキー」的世界観の代名詞である『クローズ』と、三池監督が撮ってきた日本のヤクザ映画が、そのまま滝谷源治と父親(岸谷五朗)の関係になっていた。そうやってその2つの中間をうまく立てて、学園の外側の要素を本当に最小限にして「鈴蘭入門」のドラマを作ることができていたんだけど、『EXPLODE』はドラマを構成しているのが鈴蘭の外側にいる人たちになってしまっていた。

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