サイゾーpremium  > 連載  > 町山智浩の「映画でわかるアメリカがわかる」  > 【町山智浩】マッチョなカウボーイが戦った"エイズ"という暴れ牛とアメリカ政府
連載
町山智浩の「映画がわかる アメリカがわかる」 第75回

マッチョなカウボーイが戦った"エイズ"という暴れ牛とアメリカ政府

+お気に入りに追加

雲に隠れた岩山のように、正面からでは見えてこない。でも映画のスクリーンを通してズイズイッと見えてくる、超大国の真の姿をお届け。

『ダラス・バイヤーズ・クラブ』

その日暮らしで刹那的に生きてきた男性原理主義なカウボーイのロン・ウッドルーフ。彼はある日、自身が忌み嫌う同性愛者の病気と思われていたエイズにかかってしまう。そんなロンを、仲間たちは拒絶する。生き延びるために彼はメキシコへ渡り、抗エイズ薬の密輸のための組織を作り上げるのだった──。本作は、同名の実在人物の生涯を元に製作された。

監督/ジャン=マルク・ヴァレ 出演/マシュー・マコノヒー、ジャレッド・レト、ジェニファー・ガーナーほか 日本での公開は、2014年2月22日より


 マシュー・マコノヒーは露出狂スターである。男性ストリッパーを演じた『マジック・マイク』をはじめ、あらゆる映画で脱ぎまくり、そのムッキムキの体を見せびらかす。さらに、毎朝上半身裸で近所をジョギングするので有名だ。

 その筋肉男が骨と皮のように痩せた。『ダラス・バイヤーズ・クラブ』で実在のエイズ患者ロン・ウッドルーフを演じるため、体重を20キロ以上落としたのだ。ロンは1980年代終わり、アメリカ政府が認可しないエイズの治療薬を外国から密輸して多くの患者の命を救った。

 ロンもマコノヒーも絵に描いたようなテキサス男だ。カウボーイハットをかぶってウェスタンブーツを履く。ロンはその上、拳銃を振り回し、西部劇みたいに酒場でケンカする。そしてロデオが大好き。暴れ牛に乗っていられる時間を賭けて、稼いだ金をパッと使ってしまう。賭けに勝てば、娼婦とコカインで散財する。だから36歳になるのに貯金も家も家族もない。トレイラーハウスで気ままな独り暮らし。明日なんか考えない。

 85年10月、映画『ジャイアンツ』で豪快なテキサス男を演じたロック・ハドソンがエイズで死んだ。「がっかりだぜ」と毒づくロンたち。男らしいカウボーイたちは同性愛者が何より嫌いだから。その数カ月後、ロンは血液検査でこう診断された。

「エイズです。あと1カ月の命です」

ログインして続きを読む
続きを読みたい方は...

Recommended by logly
サイゾープレミアム

2026年11月号

ドーパミン時代の沼化するエンタメ業界

ドーパミン時代の沼化するエンタメ業界
    • 「沼化」するエンタメ業界
    • 膨らみ続けるグラビア市場
    • SNSがつくる「あなたの好み」
    • 映画界ハラスメントの実態
    • ゲーム実況者の高齢化問題
    • PS、ディスク販売廃止の衝撃
    • 私たちは「ドパガキ」なのか
    • AI時代の「生歌」の価値
    • 「ニコ生ホラー」とは何だったのか
    • テクノロジーが広げる学びの未来
    • AI時代のサイバー攻撃
    • リングを彩る美女たち
    • 〈Cosplay beauty〉もちむぎ

NEWS SOURCE

インタビュー

    • 滝藤賢一、名バイプレイヤーの境地
    • 唯一無二の音楽家・水槽
    • 小八重葵美が得たもの

連載

    • [マルサの女]高橋凛
    • 神保哲生×宮台真司の「TALK ON DEMAND」
    • 萱野稔人と巡る「超・人間学」
    • ドクター苫米地に聞け!
    • 井川意高の天上夜想曲
    • 韮原祐介の匠たちの育成哲学
    • 辛酸なめ子の「佳子様偏愛採取録」
    • GROOVE SEQUENCE
    • 笹 公人×江森康之の「念力事報」
    • 町山智浩の「映画でわかるアメリカがわかる」
    • 花くまゆうさく『カストリ漫報』
サイゾーパブリシティ