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萱野稔人の"超"現代哲学講座 第40回

覇権国アメリカの低迷と新秩序誕生

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──国家とは、権力とは、そして暴力とはなんなのか……気鋭の哲学者・萱野稔人が、知的実践の手法を用いて、世の中の出来事を解説する──。

第40回テーマ「覇権国アメリカの低迷と新秩序誕生」

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[今月の副読本]
『国際秩序 18世紀ヨーロッパから21世紀アジアへ』
細谷雄一著/中公新書(12年)/924円
2010年、中国は世界第2位の経済大国となり、軍事力が急増するや、世界のパワーバランスが崩れていく――。近代西洋の興亡から、“西側世界”の価値観が全面的に受け入れられない今、新しい世界の秩序を考える。


 アメリカの地位低下がここにきて加速化しているのではないか。そんなことを思わせるできごとが相次いでいます。

 アメリカは戦後の世界における覇権国です。強大な軍事力と経済力によって世界経済の「総元締め」となっていたのがアメリカです。しかしその覇権国の地位からアメリカは少しずつ降りつつある。それを象徴するようなできごとが最近たてつづけに起きています。

 とくにインパクトが大きかったのは、シリアでの化学兵器使用をめぐるアメリカの迷走ぶりです。オバマ米大統領はシリアでの化学兵器使用に対し、いったんは軍事介入を表明しました。しかしイギリスが議会の反対によって軍事介入に参加しないことを決定すると、オバマ大統領は軍事介入の正当性を得るために米議会での承認を求める姿勢に転換。しかしその議会の承認さえも得られる見通しがたたなくなり、まったく身動きがとれなくなってしまいました。そんなときロシアがシリアの化学兵器を国際的に管理しようと提案して、ようやくアメリカは振り上げたこぶしを下ろすことができたのです。

 この一連の迷走ぶりはアメリカの威信を大いに傷つけました。ロシアからの助け舟がなければオバマ大統領のメンツも保てなかったということ自体、アメリカにとってはかなりの屈辱でしょう。たしかにアメリカによるシリアへの軍事介入が回避されたことはよかったかもしれません。しかし同時にそれは、これまで中東における安全保障上の秩序を提供してきたアメリカの覇権が揺らぎつつあることを決定的に示しもしました。

 もともと中東におけるアメリカの支配的な地位は、イラク戦争後の状況をアメリカが有効にコントロールできなかったことで崩れはじめていました。2011年にエジプトのムバラク大統領が反政府デモの圧力によって退陣したのはその象徴です。なにせ、ムバラク大統領はアメリカの庇護のもと29年にわたってエジプトで独裁政権を維持してきたわけですから。ムバラク大統領の退陣はアメリカの退陣でもあったんですね。シリア問題をめぐる今回の顛末は、中東におけるアメリカの影響力をさらに低下させました。イスラエルやサウジアラビアといったアメリカの同盟国は、もうアメリカにばかり頼ってはいられないと、独自の行動を模索しはじめています。

 アメリカの地位低下を示すできごとはほかにもあります。

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