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神保哲生×宮台真司「マル激 TALK ON DEMAND」 第80回

「囚人のジレンマ」が導いた「なんとなく原発大国」

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ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

──7月の参議院選挙は、大方の予想通り自民党の圧勝で幕を閉じた。今回の参院選において、マスメディアで取り沙汰されたのは、「ネット選挙の解禁」や「憲法改正」などだった。電力各社が、原発の再稼働を申請する中で、なぜ原発は大きな争点とならなかったのか? 参院選直前の収録となった今回は、ジャーナリストの武田徹氏と共に議論を重ねた。

[今月のゲスト]
武田徹[ジャーナリスト]

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武田徹氏の著書『原発論議はなぜ不毛なのか』

神保 参院選直前の収録となった今回は、「なぜ原発は選挙の争点にならないのか」というテーマで議論したいと思います。

 慶應義塾大学の小林良彰教授が有権者に対して行った調査では、日本の選挙では目先の景気や経済状況などの「生活争点」が有権者の投票行動に最も大きく影響を与えていて、憲法や原発など候補者や党派によってはっきりと見解が分かれる「社会争点」は主要な争点にはなっていないということでした。実際に今回の選挙でも、アベノミクスや景気対策が話題の中心となっています。

宮台 本来は、第一院である衆議院が、生活争点をめぐる論戦をすべき場で、第二院である参議院が、もっとロングスパンの社会争点、つまり日本の未来に関してどんな価値に合意するのかを話し合う場です。だから参議院選挙は、本来なら社会争点をめぐるべきものです。

 そのため参議院の前身たる戦前の貴族院は英国のそれを見本にし、選挙を気にして目先の生活争点で利益誘導に走らないように終身身分でした。もちろん本来なら参議院には党議拘束があってはならない。なのにこの参院選は、雇用や景気に争点が誘導され、一国の総理が捻れ解消を唱う。浅ましい選挙です。

 短期の争点=生活争点に関心を持って当然ですが、それを吸い上げる場が昨年の衆院選。参院選では「対米依存ゆえに原発問題やTPP問題でフリーハンドを持てない状態のままで良いか」「脱原発に必要な対米自立――に必要な重武装と改憲――に必要なアジア信頼醸成を目指すべきではないか」などが論議されるべきです。

神保 そこで今回はマル激の司会としてもお馴染みのジャーナリスト、武田徹さんと共に、なぜ原発が選挙の争点にならないのかを考えたいと思います。武田さんは6月に『原発論議はなぜ不毛なのか』(中公新書ラクレ)という本を出され、原発の是非が選挙で争点にならない理由を論じています。まず、武田さん、今回の選挙戦をどうご覧になっていますか?

武田 選挙前ということもあり、特定の候補については言及しないほうがいいのかもしれませんが、”東京選挙区の5人目”が気になっています。つまり、山本太郎氏と鈴木寛氏のことですが、ふたりはネット上で相互に批判し合っている。【編註:山本太郎氏が当選。鈴木寛氏は落選となった】マスメディアでは争点になっていないものの、逆にネットでは原発問題についてのツイートやコメントが多く、少なくとも議論はあるのですが、この議論が不毛に思えてならない。山本氏と鈴木氏は両者とも反原発の立場なのに「即時停止」か「構造的な議論をしてから」か、というところで争っている。

神保 今のお話を補強するため、ここで原発をめぐる各党の姿勢を振り返っておきましょう。自民党は「原子力規制委員会が安全確認した原発は積極的に再稼働させる」という方針。民主党は「2030年代の原発ゼロを目指す」としており、多少の温度差はあるものの、維新、みんなの党も「2030年代ゼロ」を目指すとしています。公明党は「可能な限りすみやかに原発ゼロ」。共産、生活、社民、みどりの4党は、「再稼働・新増設認めず、即時原発稼働ゼロ」で一致しています。

 ところが今回の選挙では、唯一、原発推進の立場を取っている自民党が、幅広く国民の支持を受けている、という状況です。31ある1人区はほぼ自民党の原発推進候補が当選確実で、2人区以上の選挙区では、自民が確実にひとつを確保し、残りの議席を反原発候補同士で争っている状況です。

武田 その結果として「即時ゼロ」と「ゆるやかな脱原発」がつぶし合っている。特に今回の東京のケースは、当確ライン上の争いになったために、相手を落選させるための単なる批判の応酬になってしまった。例えば、民主党政権で文部科学副大臣を務めた鈴木寛氏は3・11直後の対応について「住民を避難させなかった」「20ミリシーベルトで妥協した」ということをずっと批判されており、鈴木氏側は「さまざまな政策過程を経た結果だ」と弁明をする。ただ、鈴木氏が何を言おうと「鈴木寛は子どもたちを危険に晒した。自分たちは子どもを守ろうとしているんだ!」という立場からの批判はやまず、議論がかみ合っていません。

宮台 自民が有利だから脱原発候補同士が争うのは仕方ないけど、脱原発派内での差別化でつぶし合うのは不毛。少し触れたけど、脱原発に必要な前提の構築をめぐっては、権威主義から参加主義へ、集権主義から分権主義へ、対米依存から対米自立へ、という内政外交上の政策価値が必要で、これをめぐるセンスを争うべきです。

 国民の多くは、昨年秋の原発ゼロシナリオを閣議決定する際、霞ヶ関官僚がアメリカのクレームを持ち出した途端、ゼロシナリオが頓挫した事実を知っています。ならば、日米関係を日本の不利益にならないようにどう変えるのかがポイントです。しかし両候補が日米関係について論争した形跡がない。これではダメです。

武田 ネット上でのつぶし合いは、脱原発を願う人の中に深刻なしこりや亀裂を残すでしょう。そして予想通り自民が参院選で大勝し、原発政策が3・11前に戻ろうとした時に、団結してそれに歯止めをかける力が削がれるおそれがある。

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