──今、マンガ好きの間で、猟師兼マンガ家の著者による『山賊ダイアリー』(講談社)という作品が注目を集めている。そこで、マンガには描けない“猟師の本音”を聞いてみた!
(写真/三浦太輔 go relax E more)
自分の手で獲物を狩り、食べる。そんなサバイバル生活は、昔からバラエティ番組の格好の題材だ。だが、テレビショーのように一時的にでなく、実際に猟師として生きているマンガ家がいる。「イブニング」で連載中の『山賊ダイアリー』(共に講談社)の著者、岡本健太郎氏だ。『山賊ダイアリー』では、食材として比較的なじみ深いイノシシから普通は食べないカラスまで、さまざまな獲物を罠や狩猟銃で狩って食べる様子などが描かれている。しかしなぜ、現代で猟師という生き方を選んだのか。
「子どもの頃、近所にいた猟師のおじいさんの影響で、マンガ家になってからも猟師への憧れはありました。あるとき、猟師生活をマンガにしたら面白いんじゃないかと考えて、猟師兼マンガ家という道を選ぶことにしたんです」
マンガを読むと、自分で獲物を仕留めてそれを食べるという生活はなんだか楽しそうで、自分も猟師になってみたいと思えてくる。とはいえ、実際猟師として生計を立てるなんて可能なのだろうか?
「猟での収入を当てにしている人はあまりいないですね。1年に3カ月程度の猟期で50~60頭獲物を獲って、何百万円も稼ぐ人もいますが、獲れなかったら収入は0ですから。結果的に猟で暮らしている人でも、猟期以外は農業をして暮らしている人が大半です」
今では地元の年金暮らしのおじいちゃんが“趣味のひとつ”のように猟をやっていることも多く、「(猟師って)意外と普通。今は“釣り師”なんかと同じような意味で“猟師”なんだと思う」と岡本氏は話す。
一方で、猟師はご近所づきあいの延長で、鹿やイノシシといった害獣対策を頼まれることもあり、地域社会に根付いている。「ただ、害獣駆除をしていると、逆に害獣に畑を荒らされた場合、『(狩猟者の団体である)猟友会が頑張っていないからだ』なんて苦情が農家の方から入ることもある。だけど、猟友会は猟友会で、ボランティアでは人手が足りず、限界があります。地域社会との折り合いは難しいところなんです」と、地元と密着しているからこその悩みもあるよう。そもそも、“害獣”の定義からして、猟師は振り回される。
「鹿なんて、何十年か前までは、数が少なくて捕獲が制限されていた動物です。それが、今でも多少制限はありますが、数が増えたため行政から捕獲が奨励されるようになりました。ちょっと人間の勝手すぎますよね。猟師は普通の人より法の遵守に敏感です。猟をするということは、生き物を殺すこと。だから、やましいことをすると、本当にうしろめたい気持ちになってしまうんです」
こうした猟師ならではの感じ方やルールはいろいろあるようだ。
「ほかにも、猟師は獲物の数を競ったり誇ったりしません。獲物を仕留めた、つまり『殺した』ことを自慢するのは、猟師にとっては行儀が悪いこと。マンガで描くときにも生き物の命を扱っているので、表現に気を使うことはあります。例えば、キジを獲って食べるためにキジの毛を焼く際、その場面を『儀式だ~!』とか言ってふざけてるようにマンガに描くのも面白いかと思ったんですが、猟師としてはまずい。編集者と話して表現を変えています」
ナイーブな倫理観が見え隠れする猟師の世界を描く際に、葛藤や苦労もあるのでは?
「そんな大仰な思いはないですね。僕のマンガは、ハリウッド映画的な“泣かせる作品”でなく、素人の10分ムービーみたいなもの。ドキュメンタリー的に、盛り上がる日もあれば、うまくいかない日もある。そういう暮らしをそのまま見せるのが、リアルで面白いんじゃないかと思ってます」
岡本氏の淡々とした作風や語り口こそが、都会にいてはうかがい知ることのできない、地方で生きる猟師の実態を描き出しているのかもしれない。
(文/小林 聖)
岡本健太郎(おかもと・けんたろう)
岡山県出身。マンガ家。会社勤めを経験後、マンガ家となり「ヤングマガジン」などで活躍。現在は岡山県にて、猟と執筆を続けている。著作に『愛斜堂』『笑える子羊』(共に講談社)などがある。
『山賊ダイアリー リアル猟師奮闘記』
狩猟免許を持つマンガ家である岡本健太郎氏が、東京から地元・岡山県に戻って、近くの山などで狩猟をして暮らす生活を描いたエッセイ風マンガ。作者の普段の生活を描きながらも、狩猟免許の取得や銃の扱い、野鳥やイノシシといった野生動物の狩猟法など、猟に関する知識を学ぶこともできる。現在、「イブニング」(講談社)にて連載中。既刊2巻。
発行:講談社 価格:570円(税込)