――雨穴や梨、背筋といった気鋭の作家による作品や、テレビ東京の深夜枠を騒がせる『TXQ FICTION』シリーズなど、空前の盛り上がりを見せる現代のホラー/フェイクドキュメンタリー。Jホラーブーム終焉後、「冬の時代」とされたホラーカルチャーを支え、現代の「考察型ホラー」の素地を築きながらも、今やあまり語られることのない、現代ホラーのミッシングリンクを解き明かす――。
寺内康太郎(てらうち・こうたろう)
映像監督。映画やテレビドラマのほか、『ほんとうに映った!監死カメラ』、『ほんとにあった!呪いのビデオ』など、数多くの心霊ドキュメンタリー作品に携わる。21年からはホラーエンターテインメント系YouTuberグループ「ゾゾゾ」と共に、YouTubeで『フェイクドキュメンタリー「Q」』を展開。また、テレビ東京の『TXQ FICTION』シリーズでは「イシナガキクエを探しています」「飯沼一家に謝罪します」「魔法少女山田」「神木隆之介」の監督・演出、脚本などを務める。
現在、エンタメ界において、ホラーというジャンルは再び盛り上がりを見せている。小説では雨穴氏の『変な家』(飛鳥新社)や『変な絵』(双葉社)がミリオンセラーを記録し、背筋氏による『近畿地方のある場所について』(KADOKAWA)、『口に関するアンケート』(ポプラ社)が次々と実写映画化されるなど、熱狂的な支持を獲得。テレビでも、「魔法少女山田」や「神木隆之介」など、テレビ東京の大森時生プロデューサーらが手がける『TXQ FICTION』シリーズ(テレビ東京系)は、放送されるたびに考察好きなネットユーザーを巻き込んでSNSのトレンドを席巻している。1990年代後半に映画館で人々を震え上がらせたジャパニーズホラー(Jホラー)の時代から一転、現在のホラーコンテンツの主軸にあるのは、ドキュメンタリーの体裁を取りながら虚構の物語を描く「フェイクドキュメンタリー(モキュメンタリー)」の手法と、読者や視聴者が作品内で提示された断片的な情報から推理を展開する「参加型の考察文化」だ。
こうした近年の盛り上がりは、過去のブームからの断絶を経て突如現れたわけではない。『リング』や『呪怨』が巻き起こした世界的なJホラーブームが2000年代半ばに沈静化し、地上波テレビから心霊特番が姿を消していった「ホラーの冬の時代」――00年代後半から10年代にかけて、この2つの時代をつなぎ、ホラージャンルにおいて独自の視聴体験を育んでいた文化空間があった。それが、ドワンゴが運営する「ニコニコ生放送」で夏を中心に毎年の恒例企画として開催されている「ニコ生ホラー百物語」企画、通称「ニコ生ホラー」だ。
最盛期には累計100万人以上の視聴者を集め、画面を埋め尽くすコメントと共にホラージャンルの怪作・珍作を消費し続けたこのネット空間こそ、実は現代の考察型ホラーの素地となっているのではないか。当時「ニコ生ホラー」にて『ほんとうに映った!監死カメラ』シリーズ(以下、『監死カメラ』)で人気を博し、現在は『フェイクドキュメンタリー「Q」』や『TXQ FICTION』シリーズに監督・脚本として参加する映像作家の寺内康太郎氏と、その文化的意義を追う。
コメント欄のツッコミと
スタッフのキャラ化
寺内氏によれば、00年代後半、不況やリーマンショックの影響で低予算映画が激減。映像会社は制作ラインを維持するため、数百万円程度で作れるセル・レンタル専用のホラーDVDを量産した。だが当初、それらは一部のマニアに消費されるにとどまっていた。
状況が一変したのは2012年。ニコニコ生放送で『リング』一挙放送が約36万人の視聴者を集めたことを機に、公式企画「ホラー百物語」が始動。約2カ月にわたる連日放送の枠を埋めるため、『ほんとにあった!呪いのビデオ』(『ほん呪』)をはじめとする作品群が次々と放送されることに。寺内氏の『監死カメラ』以外にも、白石晃士監督の『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』、永江二朗監督の『心霊写真部 劇場版』などが、ニコ生を通じて一気にカルト的なブレイクを果たした。【※参考記事:『今年もキタアアアア!!! 心霊体験もなんのその「ニコニコホラー百物語」企画担当者が明かす「ニコ生でホラーが受ける理由」とは』/ねとらぼ】
その結果、10年代の「ニコ生ホラー」は春・夏・冬とほぼ年中無休でジャンル作品を配信する、前代未聞のホラー・プラットフォームとして機能。当時名をはせた監督たちは、現在も白石氏が映画『近畿地方のある場所について』を手がけ、夏目大一朗氏が特番『バカリズムの10文字ホラー』(テレビ東京系)に携わるなど、現代ホラーの最前線で存在感を発揮している。
そんな「ニコ生ホラー」の最大の特徴は、映像作品そのものの完成度以上に、画面上にリアルタイムで流れる視聴者のコメントやツッコミによって、作品が本来の枠組みを超えて面白がられていく点にあった。
「ニコ生ホラーでは、作品としての完成度だけでなく、視聴者が反応したくなるツッコミどころも重要でした。ニコ生で放送されることで、作品が本来持っていたものとは別の面白さが引き出されるんです。視聴者のコメントが積み重なる中で、制作会社名やスタッフの言動がスラング化し、〝ニコ生ならではのお約束〟が形成されていく。一人で観るより、みんなで観ることで面白さが増幅される空間でした」(寺内氏)
こうしたツッコミ文化と並行して、映像に登場する「制作スタッフのキャラクター化」も進んでいった。
寺内氏によれば、少なくとも自身が手がけた心霊ドキュメンタリーでは、スタッフを画面に登場させたのは場面転換の理由付けや状況説明の整合性を取るための演出上の要請にすぎなかったという。しかし、カメラの前で愚痴をこぼし、怪異を前に取り乱す人間くさいスタッフの姿は、視聴者にとって格好の〝イジり〟の対象となっていく。
特に『監死カメラ』ではその傾向が顕著で、真面目な顔で素っ頓狂な言動をするADや廃墟マニアの常連投稿者などが、独特のキャラクターとして視聴者から愛されるようになる。ほかにも、夏目監督自らが出演して暴走する『心霊調査ビッグサマー』や、『コワすぎ!』の暴力的なディレクターと、それに振り回されるADとカメラマンのトリオなど、戯画化された登場人物たちが虚実のあわいで人気を獲得(『コワすぎ!』はフェイクドキュメンタリーの手法を使ったフィクションと明示)。かつてリアリティ担保のための舞台装置だった「スタッフ」は、物語を牽引する推進力へと変化した。
◉恐怖映像がコメントひとつで大喜利に!?
生配信が生んだ新たな楽しみ方
「ニコ生ホラー」3つの独自性ニコニコチャンネル「ホラー百物語チャンネル」2010年代のインターネットカルチャーにおいて、局所的かつ熱狂的な支持を集めた「ニコ生ホラー」。動画配信の黎明期に咲いたこの徒花の本質を、改めて総括する。
「ニコ生ホラー」とは、ドワンゴが運営する「ニコニコ生放送」において、2012年より展開されている公式ホラー配信企画の総称だ。毎年夏に数十日間にわたり連日放送される「ホラー百物語」を中核とし、最盛期には春や冬にも特番が組まれるなど、10年代中盤を中心にプラットフォームを代表する名物企画として君臨した。
『リング』や『呪怨』といった名作Jホラーや国内外のB級ホラー映画に加え、レンタル専用の低予算心霊ドキュメンタリーDVD群が人気を集めた。ほかにも、怪談師による百物語や監督・出演者との作品同時視聴会、タクシー会社・三和交通と組んで心霊スポットを朝まで巡る長時間の生中継など、配信ならではのライブ企画も定着。ネット特有の悪ノリと視聴者の熱量が、唯一無二の熱狂空間を作り上げていた。
特徴1 ツッコミどころ満載の粗さ
低予算作品ならではの「綻び」こそが、ニコ生ホラー最大の起爆剤だった。強引なプロットや不自然なCG合成、ぎこちない棒読み演技――映画としては欠点とされる粗さも、コメント欄にとっては絶好のトスになる。画面には空耳や迷言を拾ったコメントが飛び交い、低品質な作品を量産する制作会社名がスラング化するなど、即興の大喜利が次々と発生。本来は怖がるはずの怪異がコメントの弾幕で笑いを生み出し、視聴者は作品をみんなでイジって完成させる〝共犯者〟として夜な夜な画面に釘付けとなった。
特徴2 ホラー×他ジャンル
「怖がらせる」ことだけに固執しない、奔放なジャンルミックスもニコ生ホラーの真骨頂だ。本文でも触れた『コワすぎ!』や『監死カメラ』にとどまらず、『Not Found』や『オキナワノコワイハナシ』のように、あからさまにコメディへ振り切ったエピソードも日常茶飯事。さらには『シャークネード』をはじめ、現在ではB級の定番となった「サメ映画」もいち早く大量投入された。ホラーという器を借りてアクションやギャグ、サスペンスをごった煮にする雑食性こそが、深夜の視聴者を飽きさせない推進力となったのだ。
特徴3 スタッフのキャラクター化
心霊ドキュメンタリーの制作スタッフが、一種のキャラクターとして愛された点も見逃せない。怪異に翻弄される愚痴や情けない姿、スタッフ同士の生々しい人間関係に視聴者は親近感を抱き、「必死な裏方」や「ダメなおじさん」の言動を一喜一憂しながら見守った。「何が起きるか」以上に「あのスタッフがどう動くか」を楽しむ視線が定着し、ホラーを一種の人間ドラマとして消費する下地が完成。心霊スポット巡礼ではニコ生公式のディレクター自らがガイドを務めるなど、運営側と視聴者の距離の近さも熱気を後押しした。