なぜ日本だけが脱炭素社会に乗り遅れたのか?

――ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

[今月のゲスト]

飯田哲也(いいだ・てつなり)
[環境エネルギー政策研究所所長]

1959年、山口県生まれ。83年、京都大学大学院工学研究科修了後、神戸製鋼所入社。電力中央研究所勤務を経て96年、東京大学大学院先端科学技術センター博士課程単位取得退学。2000年、NPO法人環境エネルギー政策研究所を設立し現職。著書に『エネルギー進化論』(ちくま新書)など。


発足した岸田政権の政務秘書官として官邸を仕切るのは、経産省OBで事務次官まで務めた島田隆氏。さらに官邸には、同じく経産省の出身で安倍政権で、首席補佐官を務め、その後も原発産業を代弁している今井尚哉氏も参与として参画している。この人事を見る限り、現在の日本が世界の脱炭素化の潮流から取り残されているという危機感は感じられないという。

神保 総選挙が迫る中での収録(本編は10月16日配信)となりますが、今回はこれが選挙の争点になっていないことがいかに大問題なのかも含めて、エネルギー関連の議論をしたいと思います。

ゲストはマル激ではおなじみ、環境エネルギー政策研究所所長で再生可能エネルギー分野の第一人者、飯田哲也さんです。さっそくですが、飯田さんは今回の解散劇をどうご覧になりましたか。

飯田 環境エネルギー、原発に関連するところで言えば、菅政権で外れた今井尚哉さんが内閣官房参与に戻り、“経産省内閣”が戻ってきたという感じです。甘利明さんが幹事長として中心に座っていることも含めて(その後、辞任)、とことん古い政策を貫くぞと。

神保 菅政権は、政権のスタイルとしては安倍政権のままでしたが、河野太郎さんが入ってきて、脱カーボンだけは本気で進めようとしているように見えました。

飯田 政治構図で言えば、まさにあれが大坂城の真田丸で、河野さんがいて、小泉進次郎さんもいて、エネルギー政策について深く突っ込んでいた。それが今回、見事に切り離されました。

神保 非常に画期的ではあったものの、河野真田丸は今の自民党においては陸の孤島でもあったと。総裁選で河野さんのエネルギー政策が他の、まあ言うなれば“主流派”候補に徹底的に攻められたのは、そんな背景があったわけですね。そして岸田政権になり、政治体質的には安倍さんのそれを引き継ぎつつ、また経産省が戻ってきてしまい、わずかによかったかもしれない真田丸もなくなってしまったと。

宮台 加速主義者を自称している僕からすると、楽しくてなりません。既得権益をただただ軽くして、民を犠牲にする政治が過去25年続いてきたが、そのことに民が気付いていない。気付くためには何かが一挙に崩壊していく必要があり、2011年にその崩壊を見たと思ったが、原発は身の周りにないから、見えないことにできた。しかし、今回議論するエネルギーに関する問題は、どのみち我々の目にすぐ触れることになる現実です。

神保 総裁選の討論では、他の候補者たちが河野さんのエネルギー政策を徹底的に攻め立てました。

飯田 岸田さんたちがしゃべったことは明らかに経産官僚が下書きしており、本当にひどいと思ったのは、「核燃料サイクルをしたら10万年かかる核のゴミが、軽水炉サイクルで8000年になり、さらに長寿命の核分裂生成物を消滅させたら300年でできるんだ」と。これは完全にフェイクニュースです。経産省のサイトに、こんなデタラメが堂々と書いてある。

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