南北の差違を描く『愛の不時着』はなぜ生まれたか――社会のウラを暴き出すヤバい韓国映画の読み方

――韓国映画といえば、南北分断をはじめとする政治問題や実際に起きた事件、あるいは企業の腐敗や、社会から爪はじきにされたマイノリティ、そしてヤクザなど、社会の“裏側”をえぐり出す手腕に定評がある。日本では、そうした骨太な作品がビッグヒットになることはほとんどない。なぜ韓国では“裏社会”を描いた傑作が多数生まれ、ヒットしているのか?

『ユリイカ 2020年5月号 特集=韓国映画の最前線 ―イ・チャンドン、ポン・ジュノからキム・ボラまで―』(青土社)

 韓国発の映像コンテンツの勢いが止まらない。ポン・ジュノ監督の『パラサイト』が外国語映画として初めてアカデミー作品賞を受賞し、現在はNetflixでドラマ『愛の不時着』『梨泰院クラス』が日本で大ヒットしている。

 過去に話題になった韓国映画のラインアップを見ると、「なぜこんなエグいテーマの作品が多いのか?」と思うことはないだろうか。政治の腐敗、警察の汚職、ヤクザの暴力、弱者の受難……日本の映画ランキングであれば上位に入らないものばかりだ。『パラサイト』も、韓国社会に横たわる格差社会という大きな問題を主軸にしていた。

 もちろん、韓国でそうした作品しか生まれていないわけではない。『パラサイト』が公開された2019年に、同作を抑えて年間興行収入ランキング1位に輝いたのはコメディ系アクション『エクストリーム・ジョブ』であり、3位はサバイバル・パニックの『EXIT』だ。歴代興行成績で1位に君臨するのは、文禄・慶長の役(豊臣秀吉による朝鮮侵攻)を描いた『バトル・オーシャン 海上決戦』(14年/日本未公開)という歴史モノ。いわゆる社会の裏側を描いた作品だけが好まれているわけではないことがわかる。

 だが一方で、民主化運動を描いた実話ベースの『タクシー運転手 約束は海を越えて』(17年)や朝鮮戦争を描いた『ブラザーフッド』(04年)など、エンターテインメントど真ん中ではない名作が歴代興行成績ランキングの上位に入っている。そうした作品がコンスタントにヒットしていることは間違いない。

「まず大前提として、韓国には、国民が政治に敏感にならざるを得ない状況があります」と話すのは、韓国映画をはじめエンターテインメント産業の研究者である崔 圭皓・大阪商業大学総合経営学部准教授だ。

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