誰にもツッコミを入れさせない!『キャプテン・マーベル』“特徴レス”極めしヒーロー像

――サブカルを中心に社会問題までを幅広く分析するライター・稲田豊史が、映画、小説、マンガ、アニメなどフィクションをテキストに、超絶難解な乙女心を分析。

 ここのところポリコレ、ダイバーシティ、#MeToo旋風が吹き荒れまくっている意識高い系エンタメの王都・ハリウッドが、またもスーパーヒーロー映画に“そっち系要素”を全部乗せしてきた。『キャプテン・マーベル』である。本作は複数のアメコミヒーローが同一世界観上で活躍する「マーベル・シネマティック・ユニバース」の最新作……と言っても意味不明の方向けに翻訳すると、ドラえもんやパーマンやオバQが同じ世界に住んでいる藤子・F・不二雄ワールド(いわばFユニバース)上で、エスパー魔美が初めて単独主演で映画化されたようなもの。

 エスパー魔美に例えたのは、キャプテン・マーベル(本名キャロル・ダンバース)が女性だからだ。米空軍のエースパイロットだった彼女が、いかにして超人的能力を手に入れ、のちのアベンジャーズ(スーパーヒーロー集団)結成の遠因となったかが描かれるのが本作。Fユニバース風に説明するなら、「ここ10年ほどドラえもんやパーマンやオバQが共闘して敵と戦っていた状況下、実は彼らが活躍するよりずっと前に、エスパー魔美が活躍していたことを初めて描いた作品」である。

 早速“そっち系要素”の検証に入ろう。まず、監督は男女2人のコンビだが、マーベルスタジオ作品に女性監督が起用されるのは本作が初。脚本家は3名のうち2名が女性。原作では男性だったキャプテン・マーベルのメンターであるローソン博士も、女性に変更された。

 物語は、幼い頃から男勝りのおてんばだったキャロルが「女は出しゃばるな」と抑圧され、入隊した空軍では「コックピットは男の聖域」と不当な差別的扱いに辛酸を嘗め……といったテンプレ男性優位社会の洗礼に苦しむも、不屈の精神で己を貫徹して見事ヒーローになる内容。Fユニバースの“F”はむしろフェミ(以下略)。

“F”要素は随所に仕込まれている。キャロルが超人的能力を授かったのは、本人の意志とは無関係によるもの(≒出産をはじめとした生物学的女性機能の押し付け)。とある事情で本名のダンバースではなく“ヴァース”と呼ばれる(≒固有性の証である名前の剥奪、名字の強制変更も想起)。作中にはキャロルの恋愛対象たる異性や父性を担う男性が一切登場せず、キャロルの唯一の親友は“シングルマザー”の“黒人”女性、その子どもも“女の子”であり、先述のメンター・ローソン博士も先述の通り“女性”だ。

 全方位に漏れなく張られた“F”の弾幕。しかしその結果産声を上げたのは、マーベル映画史上もっとも印象に残らないヒロインだった。

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