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オトメゴコロ乱読修行【49】

『失恋ショコラティエ』を読んで女たちは“第二希望”にまみれた現実を受け入れた

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――サブカルを中心に社会問題までを幅広く分析するライター・稲田豊史が、映画、小説、マンガ、アニメなどフィクションをテキストに、超絶難解な乙女心を分析。

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「愛されメイク」「愛されコーデ」という言葉がある。男ウケのいい化粧やファッションのことを指すが、その先には「いい男をつかまえたい(≒高収入のイケメンと結婚したい)」という女たちの明確な目的がある。……とネット上で多少なりとも口にすれば、多方面から執拗な反発を食らうのが2019年の日本だ。

 今や男に媚びることを基本原理とした女の「愛され」欲求は、どんな文脈でどう言及しようがアウトであり、知的・進歩的・自立的・リベラルな同性からは蔑まれ、フェミ界隈からは激しく唾を吐きかけられる。そればかりか、女性の「愛され」欲求に1mmでも肯定的な見解を示した男性は、ツイッター界隈のフェミ警察に目ざとく発見され、吊るし上げられ、晒し者にされ、もし彼がメディア関係者や著名人であれば、社会的に息の根を止められるのが関の山だ。あなおそろしや。

 しかし2010年代前半、20代女性読者の圧倒的支持をとりつけた恋愛マンガのヒロインは、そんな「愛され」至上主義の権化だった。その作品とは『失恋ショコラティエ』。第36回講談社漫画賞・少女部門受賞、2014年には石原さとみ主演でドラマ化もされている。主人公は才能豊かなチョコレート職人・小動爽太(25歳)。その片想い相手である専業主婦のサエコ(26歳)こそが、この「愛され」至上主義の権化ヒロイン、その人だ。

 サエコはたいして美人ではない。知性にあふれているわけでも、キラリと光る個性やキャリアがあるわけでもない。高価な舶来チョコが好物で、イケメン好きな、単なるミーハー。サイゾー読者系男子からすると、まあ鼻につく。

 しかしサエコはモテる。高校時代から、怪物的にモテる。ほとんど魔性の女だ。その理由は、サエコと爽太の同僚・薫子との会話にほぼ集約されているので、少し長くなるが引用しよう。『失恋ショコラティエ』という作品の真髄は、ここに凝縮されていると言っても過言ではない。

サエコ「あたし、爽太くんに、あたしのこと好きになってほしいって、本気で思います。(略)頑張ってあたしのこと一番好きになってもらおうって。それが『本気で好き』ってことですよね」

薫子「いや、それは違うでしょ!! そういうのはゲームみたいなものでしょ!? それが遊びだって言うんですよ!! 野球や将棋じゃないんだから!!」

サエコ「(略)野球や将棋だって、やる人は本気で頑張ってますよ? 一生懸命自分を磨いて鍛えて…相手の気持ちや自分にできることを考えて…」

薫子「違う違う違う!! 全然違うよ!!」

サエコ「(略)えっ、じゃあ…どういうのが『本気で好き』ってことになるんですか?」
薫子「だからたとえば!!」

 しかし薫子は言葉を継げない。「本気で好き」を定義できず、サエコに論破されてしまうのだ。

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