奴隷道徳である「ルサンチマン」が「創造的」になると"道徳"を創りだし、社会を支配する

(写真/永峰拓也)

『道徳の系譜』

ニーチェ(木場深定訳)/岩波書店(40年)/780円+税
1887年に刊行されたニーチェの代表作のひとつ。西洋文明で築かれてきた道徳的な価値観の系譜を考察し、それを批判することによって根本的な価値転換の可能性を探る。現代に至るまで数多くの哲学者に大きな刺激と影響を与えた。

『職業としての政治』より引用
道徳上の奴隷一揆が始まるのは、《反感(ルサンチマン)》そのものが創造的になり、価値を産み出すようになった時である。
ここに《反感》というのは、本来の《反動(レアクション)》、すなわち行動上のそれが禁じられているので、単に想像上の復讐によってのみその埋め合わせをつけるような徒輩の《反感》である。
すべての貴族道徳は勝ち誇った自己肯定から生ずるが、奴隷道徳は「外のもの」、「他のもの」、「自己でないもの」を頭から否定する。
そしてこの否定こそ奴隷道徳の創造的行為なのだ、評価眼のこの逆倒――自己自身へ帰るかわりに外へ向かうこの必然的な方向――これこそはまさしく《反感》の本性である。

 読者のなかには「ルサンチマン」という言葉をきいたことのある人も少なくないでしょう。おもに“負け組”の人が“勝ち組”の人に対してもつ「反感」や「非難」「ねたみ」の感情をさす言葉です。

 たとえば私たちはうまくいっている人をみると何となくその人を非難したくなりますよね。ライバルだった同期社員が自分より早く出世すると「どうせアイツは上司にゴマばかりすっていたからたまたま出世できただけだ」と、つい思ってしまう。自分より早く出世した同期の実力を認めるどころか、ねたみからアラさがしをして相手を非難したくなるわけですね。これがルサンチマンです。

 金持ちがしばしば反感の対象となるのも同じです。私たちは金持ちに対してうらやましいと思いつつも、つい「お金があるからといって幸せとはかぎらない」などと考えてしまう。むしろうらやましいと思うからこそ、「お金があるからといって幸せとはかぎらない」と金持ちの「価値」を少しでも低くしようと思ってしまうんですね。これも「ルサンチマン」の典型です。

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