【坂井希久子】元"女王様"が愛を注ぐ一度もお立ち台に上がれない"ダメ選手"の英雄伝

――プロ入りから10年、ほぼ2軍で過ごした選手を描いた小説『ヒーローインタビュー』。まるで『プロ野球 戦力外通告』(TBS)のような物語を、人情話に仕上げた作家に、その想いを聞いた。

(写真/諏訪 稔)

 気鋭の作家・坂井希久子氏が昨秋上梓した、プロ野球・阪神タイガースを題材にした小説『ヒーローインタビュー』が、ペナント開幕前のこの時期、ひそかに話題を呼んでいる。プロ作家の登竜門であるオール讀物新人賞を08年に受賞した当時には現役の“女王様”であることでも脚光を浴びた彼女が、畑違いとも思える野球を題材に取った理由とは──。さっそく、ご本人を直撃した。

「ある日、角川春樹社長から直々に『食事をしながら打ち合わせをしましょう』ってことでお呼ばれしまして、その席で突然、『阪神の代打男の話を書かないか』とオファーされたんです。もちろん、その時点では野球のことなんて全然知りませんから、さすがに躊躇はしたんですけど、そのときごちそうになっていた鮎が、私の中の鮎の概念が変わるぐらいおいしかった。要は、食べもののチカラに負けて、『書きます』って言っちゃったんですね(笑)」

 かの川藤幸三(元阪神/野球解説者)が、まだ現役だった頃からこのモチーフを温めていたカリスマは、彼女の前作『泣いたらアカンで通天閣』(祥伝社)を読んで、即断即決。彼女の持つ人情味あふれる語り口と、そこで交わされるネイティブならではのコテコテな関西弁のやりとりに惚れ込み、白羽の矢を立てたという。

「最初はどうしたものかと悩みもしたんですけど、野球好きの担当編集さんが『野球は人間ドラマなんですよ!』って暑苦しく語るのを聞いて、『あっ、それなら書けるかも』と思ったんですね。なにも野球の試合そのものをおもしろく描く必要はないんやなって。

 だから、野球についてはそれなりに勉強もしましたけど、物語の本質としてはこれまでの作品とも基本的には変わってない。私のなかには、エロと変態と家族と人情っていう“4原則”がまずあって、その差し引きの割合で印象が変わっているだけなんで」

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