今も生き続ける肖像写真

1.『造花のリースに縁取られた若い女性の肖像』(制作者不明/アメリカ/1890年頃):写真の下には「AT REST(安らかに)」という銅のプレートが付けられている。故人の髪の毛で作られた花が写真の上部に付けられ、まわりはロウで作られた造花や蝶のペイントで飾られている。再生の季節である春を意味する装飾となっており、嗅覚をも刺激しそうなほどだ。

 東日本大震災発生から1カ月ほどが経過した4月の終わり頃、友人を訪ねて津波に襲われたある被災地を訪れた。一面の瓦礫の中で印象的だったのは、多くの写真やアルバムが「救出」されていたことだった。それらは遺体捜索の途中に自衛隊員や被災者によって見つけられ、道路脇のコンテナなどに集められたもので、ある小学校の体育館ではボランティアなどの手で洗浄された写真が、所狭しと吊るされていた。体育館中が「○○さん、結婚式の写真あったよ」「◯◯くんの卒業アルバムはここ」というような宛先不明のメッセージで溢れかえっており、中には洗浄の過程で剥がれ落ちてしまったものや、すでに遺影となってしまったものもあった。かつてこの街で営まれていた生活の痕跡が、写真という物質の上で辛うじて流されずに留まっているように見えた。

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