「牛河」の出現と「リトル・ピープル」の存在に垣間みれた村上春樹の"倫理"

「CYZO×PLANETS 月刊カルチャー時評」とは?

本誌連載陣でもある批評家・編集者の宇野常寛氏が主宰するインディーズ・カルチャーマガジン「PLANETS」とサイゾーがタッグを組み、宇野氏プロデュースのもと、雑誌業界で地位低下中のカルチャー批評の復権を図る新企画。新進気鋭の書き手たちによる、ここでしかできないカルチャー時評をお届けします。見るべき作品も読むべき批評も、ここにある!

──"ベストセラー"のハードルが下がる小説界に残された小さな希望……そんな良質な小説だからこそ! ここでは愛ある批評を捧げます。

今月の1本
『1Q84 BOOK3』

市川真人[賭博者(文芸)]×森田真功[ライター]×宇野常寛[批評家]

もはや説明不要のベストセラー小説『1Q84 BOOK3』だが、はたして中身も相応に評価されるべきものなのか──? 売れ続ける同書の真の価値を、今あらためて問い直す。

森田 まず、それぞれのBOOK3についての感想から入りましょう。僕は正直面白いと思えなかった。BOOK1・2は、ラブストーリーとして多くの読者が読んでいるものですよね。ところが3では牛河パートが加わって、サスペンスの部分が前面化する。探偵役を通して1Q84世界の謎に迫るわけです。これ自体は悪いことではないですが、僕個人としては、3の特徴を引き受けている牛河パートの結末にあまり感心できなかったのが問題ですね。

市川 僕は1・2に対しては否定的だったんですが、3は評価しています。前者が単に天吾と青豆の話を交互に並べているだけなのに対して、後者は牛河を登場させることでバラバラだった2つの物語を結び合わせることに成功している。

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