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二木信の東京ラッパー最前線【1】

東京ヒップホップ界で人気上昇中! 破天荒ラッパー・DOGMAが誕生するまで

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――日本語ラップのヘッズなどの間で話題となっている、ニコニコ動画の音楽バラエティ・チャンネル「サイゾー動画(c)」。そのチャンネル内の〈PARALLELZ〉という番組は、毎月、気鋭のラッパー/クリエイター1名の日常をドキュメントし、私たちの日常とは異なるもう一つの世界=パラレルワールドをあぶり出す、という趣旨のものだが、Vol.1では挑発的かつ破天荒なキャラクターで人気上昇中の東京のラッパー・DOGMAにフォーカス。

 その放送に先駆けて、同番組のナビゲーターであり、漢 a.k.a.GAMIの『ヒップホップ・ドリーム』(河出書房新社)を構成した音楽ライターの二木信氏が、DOGMAの密着取材レポートをサイゾーpremiumのために特別に寄稿! ここでは、その前編をお届けしよう。

 ステージに立つ小柄な男は挑発的な仕草をしている。目をカッと見開き、腕をくねくねさせながら指を立て、ダンスフロアの客に向かって巻き舌で言葉を吐いている。「ダイジョブじゃねえけど、ダイジョブかも! ダイジョブじゃねえけど、ダイジョブだよ!!」。尋常じゃない目つきと威勢の良さで暴走するヤクザ映画の役者のようだ。ハンサムだし二枚目と言ってもいい面構えをしている。が、愛嬌もあるし、どこか危なっかしく、すべてがパロディめいてもいる。

 ひと際異彩を放つその男はラッパーのDOGMA。現場は渋谷のSOCIAL CLUB TOKYOというクラブで、YENTOWNという東京のヒップホップ・クルーが主催する「YENJAMIN」というパーティのワンシーンだ。DOGMAの横にはYENTOWNのラッパー、JNKMNもいる。DOGMAとJNKMN、そしてDutch Montanaというラッパーが2015年にYouTubeにアップした「Daijoubu」という曲は再生回数が26万回を超え、日本語ラップ・ファンの間で話題を呼ぶ。なぜか。DOGMAとJNKMNが歌っていたこの曲のシンプルなパンチラインに、彼らの怖いもの知らずで、破天荒な態度が示されているからだ。

 DOGMAのキャリアは新宿出身のラッパー、漢 a.k.a.GAMIの“弟分”として始まっている。漢はインディ・レーベル〈9SARI GROUP〉のボスで、最近ではお笑い芸人とのゴシップで巷を騒がせたタレントの加藤紗里をサポートして制作したラップ・ミュージック「ガリガリサリ」のミュージック・ヴィデオ(MV)をYouTubeにアップ、その後、iTunesでフル・バージョンを配信、さらにそのMVが『サンデー・ジャポン』(TBS)や『情報ライブ ミヤネ屋』(読売テレビ)といったワイドショーでも紹介されバズを引き起こした。ヒップホップの世界では言わずと知れた絶大な影響力と人気を誇るベテラン・ラッパーである。

 そんな漢の下で長年経験を積んできたDOGMAは、特にここ1年で強烈な個性を発揮し始めている。15年3月に実質6曲入りの初ソロEP『gRASS HOUSE』を発表、その後も次々に楽曲をYouTubeにアップ、客演などでも主役を食う勢いで乗りに乗っている。べらんめえ口調の映画のセリフ回しのようなラップと挑発的な態度とドープな詩の世界、そして異様な“キャラ立ち”に中毒者が急増している。ということで、今イケイケのこのラッパーに昨年末から密着取材を試みることにした。

“いたずらっ子“が少年時代に見た東京の風景

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 東京都杉並区宮前に生まれたDOGMAは、下町育ちのチャキチャキの江戸っ子の父親と負けん気の強い母親の下で育つ。現在32歳、4つ下に弟がいる。3~4歳の頃まで西荻窪にある6畳間の安アパートに住んでいた。「ボロボロの実家だった」と本人は語る。

 歴史好きの父親はその趣味が高じて一風変わった旅行会社を立ち上げ、真珠湾やサイパンやスターリングラード、韓国と北朝鮮を分断する38度線やイスラエルをめぐるツアーなどを企画していた。「親父は冒険家であり、変人ですね。小さい頃に戦争映画や暴力映画を一緒によく観てた。でも、ちゃらんぽらんではなくて曲がったことが嫌いなタイプで、感情的でとっぽくて口が悪い……まあ、しゃかりきの江戸っ子ですね」。DOGMAの独特の“べらんめえラップ”は父親譲りのものだという。

 DOGMAは10代の頃に“不良の巣窟”という杉並区で育ったゆえに、その反動から不良ではなく、“いたずらっ子”というキャラクターを確立させる。

「杉並区の人間は東京の田舎者というコンプレックスがあるんですよ。そういうコンプレックスの裏返しで凶暴化していった側面があると思うですよ。中学の頃から何千万円ものカネを手にしてるレベルの違う不良もいて、カネ絡みでの裏切りやだまし合いも見たゆえに、不良になるとムダにするものが多すぎるから、真面目に生きているほうがいいと考えてもいました。でも、真面目になれなかった。オレのキャラは“いたずらっ子”になっちゃうんですかね(笑)。空き家を探して秘密基地を作ったり、友達にパトカーに火をつけちゃったヤツもいたし、原付に5人で乗って神田川の中を走るとか、そういういたずらばかりしていた。でも、オレが中1になる頃にはヤンキーをギャグにしたりする感じも出てきた。まあ、時代が変わったんですかね」

 DOGMAは父親の影響で幼い頃から映画に親しみ、音楽に開眼したのも映画を通じてだった。小学校の同級生が当時流行のポップスやアイドルの音楽を聴いている中、ひとり『パルプ・フィクション』や『レザボア・ドッグス』のサントラに夢中になるような早熟な少年だった。『gRASS HOUSE』の冒頭に収録された「NONFICTION」では、『パルプ・フィクション』の劇中にある、ヘロインを打ち込むシーンをサンプリングしている上に、『gRASS HOUSE』の字体も『デス・プルーフ』というクエンティン・タランティーノ監督のB級アクションへのオマージュ映画などを含むオムニバス映画『グラインドハウス』へのさらなるオマージュだ。

 DOGMAが西荻窪周辺に構える事務所兼遊び場には、『デス・プルーフ』に登場するアメ車の色とりどりのミニカーやギャングやアクションものをはじめとする映画のDVDがずらりと並べられ、毒ガスマスクやライフルのオモチャがコンクリート打ちっぱなしの壁に飾られている。この男から漂うパロディ感覚や役者魂、“オタク気質”の真髄がそのアジトには詰まっている。

 ヒップホップとの出会いもギャング映画好きの延長にあった。ビーフが最悪の結末を迎え、共に銃に撃たれて命を落とした1990年代のアメリカを代表するギャングスタ・ラッパーである2パックとノトーリアス・B.I.G.の2人が、DOGMAのラップへの見方を変える。「『ラップで殺し合いまでしちゃうの?』って驚いた」。だが、本人が本格的にラップに打ち込むようになるのはまだまだ先のことだ。

MC漢に導かれて踏み入れたヒップホップの世界

“いたずらっ子”だったDOGMA少年は高校卒業後、高い倍率を見事くぐり抜け、日本でも3本の指に入るというその世界では名の知れた造園屋に就職する。だが、1日に2~3時間しか寝られない期間が2週間も続くような過酷な労働環境だった。

「仕事はハードでしたね。2年間続けたんですけど、ぶっちゃけ造園業にはまったく興味がなかったんですよ。同期へのライバル心で続けてたのが9割ですね。ストレスでいろんなモノも覚えてしまいました(笑)。無邪気なもんですよ」

 そうしたハードワーク時代にたまたま先輩に連れて行かれたのが、漢がリーダーを務めるグループ、MSCのライヴだった。漢のライヴを目撃したことでDOGMAの人生は急転回し始める。いや、狂い始めたと言ったほうが正しいかもしれない。20歳(04年)のことだ。

「漢さんの捲し立てる言葉遣いに今まで経験したことのない衝撃を受けた。退廃的な街を突っ走って一般人を金属バッドでバンバン引っぱたいていく感じですかね。『世間のオトナはオレらのことをバカだの、アホだの散々言いやがる。でもよ、真っ当ぶってるお前らのほうがバカなことしてんじゃん』ってオレには聴こえたんです。アウトサイダーからの社会への反撃ですよね。仕事のことでむしゃくしゃしているときに漢さんのラップを聴くとブチあがった」

 一般社会の常識には反逆していくが、人の道に外れることはしない。そういう独自の倫理観とルールを持つ反逆スタイルを、漢とMSCの表現から感じ取ったという。それは、DOGMAにとって人生観を変えられる決定的な出来事だった。そして、その後MSCのライヴに足しげく通うようになったDOGMAは、ついに漢と初対面する。猪突猛進型のDOGMAらしい出会い方だった。

「漢さんがステージから客に向かって『新宿界隈の人間はぶっ飛んでてもお前らが言ったことを一語一句記憶してるからな!』と言ってて、それでオレは会場から『おーい! 何か持ってんのかよ!?』って大声で叫んだんです。そしたら漢さんが『お前、うるせぇからあとで来い』って返してきた。それでライヴ後に漢さんのところに行って、『さっきのいいですか?』と言ったら、超ウザがられてガン無視されましたね(笑)」

 しかし、その程度のことで諦めるやわなDOGMAではない。彼は吉祥寺のレコード屋や都内のクラブ、ライヴハウスで見かけたMSCのメンバーに話しかけているうちに、あるMSCのラッパーから「クルーの人間ですか?」と間違われるまでになる。そうやってMSCと親交を深めるようになっていった。だが、驚くことにラップすることにはまったく興味がわかなかったという。

「オレは、漢さんがラップの中で描くヤバい世界で、一緒にバカやって遊んでいたかったんです。しかも、オレには大きな悩みがあった。何を言っているかわからないぐらい重症のどもりだったんですよ。だから、『頼むからラップだけは振らないでくれ』という感じでしたね(笑)。でも、ラップに本気のMSCの先輩たちからすれば、ヘラヘラ遊んでいるだけのヤツは目障りじゃないですか。PRIMALさん(MSCのラッパー)に『MSCはストリート稼業か、ラップするか、セキュリティになるかの三択だぞ』と詰められることもあって(笑)」

 そんなハードコア・ラップ・クルーの“遊び専門”のDOGMAにも、当然ラップの洗礼のときがくる。23歳(07年)の頃だ。ある日、漢に「ラップを書いてみろ」と言われる。「今でも初めてのリリック(ラップの歌詞)を憶えてます。『香ばしい車内から見下す社会/見た目温かいがきな臭い黒社会』ってやつです。自分では韻も踏んで上手く言ったつもりが、とことんネタにされてバカにされ尽くした。もう絶対ラップなんてやらねぇと思いましたね(笑)」

 DOGMAは少しはにかみながら、初めて歌詞を書いたときのことをそう振り返るのだった。(後編につづく)

(取材・文/二木信)

二木信(ふたつぎ・しん)
1981年生まれ。音楽ライター。共編著に『素人の乱』、共著に『ゼロ年代の音楽』(共に河出書房新社)など。2013年、ゼロ年代の日本のヒップホップ/ラップをドキュメントした単行本『しくじるなよ、ルーディ』(P-VINE BOOKS)を刊行。漢 a.k.a. GAMI著『ヒップホップ・ドリーム』(河出書房新社/15年)の企画・構成を担当。


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