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宇野常寛の批評のブルーオーシャン 第21回

上からマリコ

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──既得権益がはびこり、レッドオーシャンが広がる批評界よ、さようなら!ジェノサイズの後にひらける、新世界がここにある!

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『上からマリコ』

 AKB48のニューシングル「上からマリコ」のPVを繰り返し見ている。通常、AKBのシングルは運営側の決定した選抜メンバーによって歌われる。当然、選抜は概ねメンバーの人気に基づいている。その人気をわかりやすく可視化しているのが、年に一度行われる「総選挙」だ。ファン投票によって1位から「圏外」まで、彼女たちの人気は明確に序列化される。総選挙で自分の「推しメン」に投票することは、そのまま彼女たちの向こう一年のAKB内での地位に直結し、ひいてはその人生も左右する。ファンとアイドルの一体化を推し進め、その上でビジネスに結びつけた極めて洗練されたシステムだ。しかし、秋元康はここでまた、周到な「混ぜっ返し」を行う。この総選挙の順位(を参考にした運営側の「選抜」)が年に一度だけ無効化されるイベントが用意されているのだ。それが2010年から始まった「じゃんけん選抜」だ。これは文字通りメンバー(ほぼ)全員参加のじゃんけんによって、選抜メンバーを決定するイベントだ。AKBというシステムを根幹から支える総選挙を年に一回だけ無効化し、完全に「運」だけで決定されるゲームを設定する──この絶妙な混ぜっ返しによって、システムは決定的に豊饒さを増している。例えば2010年のじゃんけんクイーンに輝いた内田眞由美は、当時ほぼ無名だった。彼女の優勝とそれに伴うメディア露出の増加は、総選挙の持つ過酷なイメージを緩和すると同時に、無名のメンバーをピックアップすることでAKBの、誰もに可能性が開かれたシステムとしての側面をアピールした。

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