マル激 TALK ON DEMAND
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神保哲生×宮台真司 「マル激 TALK ON DEMAND」 第60回

貧困、会社人間、国家の罠......映画でわかるアメリカの暗部【中編】

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『フェア・ゲーム』に見るブッシュ政権の陰謀

神保 続いて『フェア・ゲーム』です。フェア・プレーという言葉は日本でも馴染みがありますが、フェア・ゲームはそれとは意味が異なり、「標的にされた獲物」という理解でいいのでしょうか?

町山 例えば「鹿がフェア・ゲームになった」と言えば、禁猟期間が明けて「撃っていい」状態になった、ということです。

 この作品は、ブッシュ政権下で現実に起きた「プレイム事件」を映画化したものです。ヴァレリー・プレイムという実在の女性CIA工作員が、「イラクのフセインが、核兵器の材料を買っている」という情報の真偽を確かめる捜査を行うことになったが、否定的な情報しか出てこなかった。それをCI Aとしてチェイニー副大統領に報告したものの、ブッシュ大統領は、一般教書演説で、逆に「CIAの調査によると、イラクは核兵器を開発している」と語ってしまう。ブッシュ政権は、イラク戦争を起こすために、CIAの情報を無視して暴走したんです。

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神保哲生×宮台真司 「マル激 TALK ON DEMAND」 第60回

貧困、会社人間、国家の罠......映画でわかるアメリカの暗部【前編】

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ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

今月のゲスト
町山智浩[映画評論家]

──覚せい剤の精製に手を染める貧しき白人たち、リーマンショックの影響でリストラされ、住宅ローンが支払えなくなったエリートサラリーマンの絶望と希望、ブッシュ政権下で起こった実在の事件を元に、事実を歪曲され、自身も国家の中枢から裏切られたCIA工作員の活躍など、アメリカのリアルを描いた作品が揃った今秋。政治問題、社会問題、そして人種問題にまでも踏み込んだ良作を、本誌連載陣のひとりでもある、映画評論家の町山智浩氏と共に見ていこう──。

神保 今回は映画評論家の町山智浩さんを招き、「映画」をテーマに議論していきます。町山さんにピックアップしていただいた映画は、マル激では珍しく、比較的メジャーな作品が多く、10月29日公開の『ウィンターズ・ボーン』と『フェア・ゲーム』、9月23日から公開されている『カンパニー・メン』、すでにDVD化している『アザー・ガイズ』の4作品です。

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神保哲生×宮台真司 「マル激 TALK ON DEMAND」 第59回

野田政権が掲げるべき増税の対価と日本の未来像【前編】

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ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

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今月のゲスト
青木理[ジャーナリスト]×萱野稔人[哲学者]

──9月2日に野田政権が発足したが、これまで各政権が抱えていた財政赤字や社会保障の問題に加え、震災の復興問題も重くのしかかるも、それらに明るい見通しは立っていない。さらに、世界各国で危惧されている金融破綻が追い討ちをかけ、日本経済の不透明さは増すばかりだ。そんな中「そもそも日本社会は終わっている」と言い放つ社会学者・宮台真司氏は"市民主導による政治"を根底問題の解決に掲げているが、日本政府が行うべき施策はどこにあるのだろうか? 本誌連載陣のひとり、哲学者・萱野稔人氏とジャーナリスト・青木理氏とともに、野田政権が抱える問題と日本の政治の現状について考えてみたい。

神保 今回はジャーナリスト・青木理さんと、哲学者・萱野稔人さんのお2人を招き、新しく発足した野田政権を引き合いに、日本の政治の現状について議論をしたいと思います。メディア報道を見る限り、世間一般の受け止め方は好意的な印象ですが、僕自身はこれで政権交代の意義は「終わったな」との印象で受け止めています。なんのための政権交代だったのか、わからなくなったという意味です。

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神保哲生×宮台真司 「マル激 TALK ON DEMAND」 第59回

野田政権が掲げるべき増税の対価と日本の未来像【中編】

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財政赤字と増税......現政権が示すべきビジョン

神保 野田政権について見ていく上で、まず増税の是非について議論したいと思います。日本の消費税は現在5%。それでも日本では国民皆保険があり、生活保護や老人医療保険など、いろいろ課題はあるにせよ、先進国としてはある程度の社会保障が備わっているといえるでしょう。一方で、この社会保障が、現在の財政を圧迫している最大の要因です。「小さな政府」が国是となっているアメリカよりも低い消費税で、社会保障は市場任せのアメリカよりも充実した公的社会保障を提供しているわけですが、前の菅首相が消費税について、つい「10%」を口にしたが最後、たちまち参院選で大敗してしまいました。日本ではこれまで増税をして支持率が下がらなかった政権はありません。

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神保哲生×宮台真司 「マル激 TALK ON DEMAND」 第59回

野田政権が掲げるべき増税の対価と日本の未来像【後編】

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失われた20年に対する「新しい成功への道」

神保 ただ、日本には一般の有権者が選挙か世論調査以外の方法で、政治に参加したり、自分たちの政治的意思を表明する場が極端に少ないですよね。まだ民主主義が未熟なのかもしれませんが、元々一般の市民は政治との接点が少なく、いわゆる民意を吸い上げるチャンネルが整備されていないと思う。さらにマスメディアの政治報道が政局一辺倒というひどい有様です。

宮台 以前、マル激で市民科学者について取り上げ、「民主の科学化」「科学の民主化」の両方必要という話になりました。「民主の科学化」とは、〈引き受けて考え〉た上で〈知識を尊重する〉ことです。〈任せて文句を言う〉だけに終わったり〈空気に縛られる〉ようじゃいけない。「科学の民主化」は、科学を理解可能な形で伝え、人々が科学的に思考できるようにすること。例えば内部被曝によるがん増加。「統計的に有意なデータはない」と言われますが、「数値が微妙すぎて」確たることは言えないのでなく、「サンプルが少なすぎて」母集団について推定しきれない。母集団の有意な推定が可能になるサンプル数が得られるのは物凄い大災害が起こった時。でも僕らが追求したいのは、大災害が起こる前に原発をどうするか決めること。「統計的に有意なデータがない」から何もしないのは、合理的じゃない。「民主の科学化」には「科学の民主化」が不可欠。そこではマスメディアが、社会心理学者ラザースフェルトの言うミドルマンを擁し、アカデミズムとピープルを媒介すべきです。ところが日本のメディアは、高い専門性を有したミドルマンを欠きます。

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神保哲生×宮台真司 「マル激 TALK ON DEMAND」 第58回

ブータンと水俣市に学ぶ震災後のあるべき日本の姿【後編】

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日本を幸福にする「地域の価値」の再評価

神保 日本とブータンの違いは、よくわかりました。それでは、日本はどうすればブータンのような幸せな国になれるのか、そのために今、我々がすべきことはなんなのかを考えていきたいと思います。それを考える上で、役に立つかもしれない事例として、日本にもブータンのように、「地域の価値」を作り出すことに成功している熊本県水俣市の事例を草郷さんはよく紹介されていますね。

草郷 水俣は、日本の経済発展によっていい思いをした時代もありましたが、それにより大きな十字架を背負った町だといえます。十字架とはもちろん、工場の誘致によってもたらされた水俣病のことです。

 14年間をかけた汚染土壌の処理プロジェクトが90年に完了した後、行政から「今後の水俣をどうしたらいいか考えよう」という動きが出てきました。市民の中にも自発的に地域の今後を考えるグループが生まれ、議論が活発化する中で、92年に水俣市は日本初の「環境モデル都市づくり宣言」を行いました。環境でダメージを受けた水俣だからこそ、環境モデル都市に生まれ変わらせよう、という宣言です。そして、後にくしくも政府が「環境モデル都市」制度を作り、08年に水俣は最初に選ばれた6つの都市に入りました。

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神保哲生×宮台真司 「マル激 TALK ON DEMAND」 第58回

ブータンと水俣市に学ぶ震災後のあるべき日本の姿【中編】

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なぜブータンの人々は幸福を感じるのか?

宮台 キーワードは"自信"です。亜細亜主義の嚆矢・岡倉天心とも親交が深いタゴールは、対華二十一箇条要求を悪しき西欧摸倣だと批判、中国の自信と日本の自信のなさを対比しました。亜細亜主義者には、タゴール同様に本気で欧米はアジアに劣ると考える者がいました。大川周明です。博覧強記な大川は日米開戦直後にNHKラジオで英米文化と英米外交史を講義、『米英東亜侵略史』として出版します。そこで彼は英米のアジア侵略史を語り、欧米列強の野蛮と劣等を言い切ります。背後にあるのは、イスラムを含めたアジア文明への絶対の自信。日本は戦後それを失いましたが、ブータンには今も根付いています。

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神保哲生×宮台真司 「マル激 TALK ON DEMAND」 第58回

ブータンと水俣市に学ぶ震災後のあるべき日本の姿【前編】

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ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

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今月のゲスト
草郷孝好[関西大学社会学部教授]

──東日本大震災から半年がたった現在、わずかではあるが復興事業は前へ進みつつあるように思われる。だが、日本全体を覆う暗い陰は、いまだ晴れる様子はない。そんな中、「日本を本当に幸せな国に変えるには、ブータンと熊本県水俣市の取り組みを学ぶべきだ」と、関西大学社会学部の草郷孝好教授は語る。国民の生活水準だけを見ると、決して豊かとはいえないアジアの小国ブータンは、高い国民総幸福量を誇るが、水俣市は長い間、公害に悩まされてきた都市として知られている。お金や物資に頼らない"本当の幸せ"とは、どのようにもたらされるのだろうか? 震災後のあるべき日本の姿について、考えてみたい。

神保 東日本大震災を奇貨として、日本をより幸せな国にするために、我々は何をすればいいのか。今回はその一例として、ヒマラヤ山脈麓の小さな国・ブータンと、意外な共通点がある熊本県水俣市の取り組みを見ていきたいと思います。

 まず、ブータンといえばGNH(Gross National Happiness/国民総幸福量)が有名ですが、宮台さんはどんなイメージを持っていますか?

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神保哲生×宮台真司 「マル激 TALK ON DEMAND」 第57回

スマートグリッドが実現しない日本型民主主義の悪しき慣習【前編】

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ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

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今月のゲスト
高橋 洋[富士通総研経済研究所主任研究員]

──通信と電力を融合させ、より効率的に電力を供給できるシステム----それがスマートグリッドだ。情報と通信技術を融合させ、世界各国へ網のように張り巡らせたワールドワイドウェブを例えに挙げられることも多いが、スマートグリッドとは「供給の分散化」「需要の自律化」「蓄電池の発達」を結ぶ網のことだと考えられている。だが、独占企業ともいえる日本の電力会社にとって、「スマートグリッド=電力の自由化」ととらえられているため、その見通しは決して明るくない。「原発は是か非か」という二元論に陥りがちなエネルギー問題を、また別の角度から考えてみたい。

神保 マル激では、原発や電力の自由化、再生可能エネルギーなど、電力に関するさまざまなテーマを取り上げてきました。その中で、日本はこれまで電気の発電も送電も何もかも電力会社10社にすべてを「おまかせ」してきたことがわかった。日本の電力は地域独占ゆえに送電網はしっかりしているし、停電も少ないが、その一方で、我々はその体制が多くのリスクを抱えていることに目を向けてきませんでした。結果として、電力会社に権益も権限も集中し、誰も抑えられないガリバー産業になってしまった。今回は、エネルギー政策に詳しい、富士通総研経済研究所主任研究員の高橋洋さんをゲストに迎え、原発問題が起きる前から注目を集めていた新たな電力配分システム「スマートグリッド」を取り上げながら、この先、日本のエネルギーをどう運営していくべきかを議論したいと思います。

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神保哲生×宮台真司 「マル激 TALK ON DEMAND」 第57回

スマートグリッドが実現しない日本型民主主義の悪しき慣習【中編】

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スマートグリッドはなぜ日本で浸透しない?

神保 ここからは世界に目を向けて、スマートグリッドの普及状況を見ていきたいと思います。アメリカやヨーロッパではスマートグリッドが日本より普及しているものの、まったく違う位置づけになっているそうですね。

高橋 アメリカでは、そもそも送電網自体の設備投資が遅れています。アメリカは人口が増加しており、需要が増えているのに供給力が追いつかないという状況です。そのため、消費者の側で電力消費をコントロールしてもらおう、という発想になっている。大規模な投資をして新たな発電所を造るよりも、メーターを置き換えて、需要者にインセンティブを与えたほうが設備投資も少なくて済むのではないかと考えているのです。オバマ大統領のグリーン・ニューディール政策も絡み、09年から、スマートメーターの設置がかなり進んでいます。政府は電力会社にタックス・インセンティブや補助金を出しており、これには景気刺激策という側面もあります。

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未来からのシナン-目指せ!
田中圭一の
未来からのシナン
『現代のビジネスマンたちの悩みを解決する、超SFマンガ。』

おなじみのアフロ君がくさす、毎月の気になるニュース。
花くまゆうさくの
カストリ漫報
『おなじみのアフロ君がくさす、毎月の気になるニュース。』

宇野常寛の批評
宇野常寛の
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『さらば、既得権益はびこるレッドオーシャン化した批評界!』


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