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第1特集
ソーシャル・インクルージョンにフォーカスする時代へ

家族・結婚・自殺…アジアのZ世代が追い求める幸せのカタチ

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――アジアには世界人口の約60%が住み、GDPの地域別シェアは1980年から約4倍になるほど爆発的な経済発展を遂げてきた。だが、社会の変化に伴い、所得格差や貧困問題、少子高齢化に非婚化、自殺率の高さなど多くの問題が顕在化してきている。これからの時代を担うアジアのZ世代の心情を、ドキュメンタリー映画を通して探ってみよう。

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中国のネット事情で忘れてはならないのが、「グレートファイアウォール(金盾)」の存在だ。規制された箱庭の中でも、実世界同様の熾烈な競争を強いられる。

新しい時代への扉の鍵を握るのは、いつだって若い世代だ。時代の変動期にあるアジアのZ世代は、今どんな状況にあるのだろうか。アジアを中心に40カ国のドキュメンタリー映画を配信する「アジアンドキュメンタリーズ」の代表・伴野智氏に、アジアの若者たちの内情を映し出している作品をピックアップしてもらい、ネット社会、家族の在り方、自殺、学歴、兵役といったキーワードからその実像に迫った。

華やかで残酷なネット内のもうひとつの中国

「中国を題材にした作品は海外出資のものが多く、変動の激しい中国の影の部分も含めて客観的に描いているのが特徴です。中国の不動産バブルはすでに終わっているものの、北京や上海といった大都会は、東京よりも近代化されています。社会全体のデジタル化も進んでおり、キャッシュレスが定着し小銭を持ち歩いている人はほとんどいません」(伴野氏)

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【1】『デジタル人民共和国』2018年/94分/製作:アメリカ

そんな中国のデジタル界隈における若者の行動原理がよくわかる作品が、インターネットの世界を舞台にした『デジタル人民共和国』【1】だ。ネット先進国でもある中国では、ライブ配信中に商品を紹介して視聴者をECサイトなどに誘導して販売するライブコマース市場が、世界の10年先を進んでいると評されている。中でも急成長を遂げているのがエンターテインメントの分野。2020年の調査では、ライブ配信の利用者数は6億人を超え、市場規模は3兆円に達するという。

中国の最大手ストリーミングサイト「YY live」の華やかな世界を覗くと、個性豊かなホストたちが、さまざまな衣装で歌い、踊り、軽妙なトークで、ユーザーたちを楽しませている。ユーザーは自分が推すホストに仮想ギフト(投げ銭)を贈ることで、自身の存在をアピール。毎日がお祭りのような賑わいで、懸命に応援するその様子は、日本のアイドルオタクと変わらない。

この作品でクローズアップされるのは、オンラインセレブと呼ばれる男女2人のホストだ。ひとりは22歳になる元看護師のシェン・マン。かわいらしいルックスと歌声で多くのファンを魅了する。多くの男性ファンは、シェン・マンをバーチャルな恋人として慕い、連日の応援に励んでいる。

もうひとりの主人公は、お世辞にもイケメンとは言えない25歳のビッグ・リー。彼は地方出身で、建築現場などの肉体労働を転々とし、たどり着いたのがライブストリーミングの世界だった。自分の日常生活を面白おかしく語るだけだが、正規雇用に就けずにいる下流男子たちからは「負け組の皇帝」として支持されている。

「ふたりとも特に優れた芸を持っているわけではなく、庶民にとっては、自分の夢を代わりに叶えてくれている存在のようですね。日本の配信サービスでも投げ銭機能が付いているものはありますが、14億人もの人口を誇る中国では一人あたりの投げ銭額は少額でも、トータルにすると大変な金額になる。ネットの収入のみで、オンラインセレブたちの優雅な生活は成り立っているんです」(伴野氏)

シェン・マンは月に4万ドル、ビッグ・リーは6万ドルを稼ぎ出す。「YY live」の運営会社はホストたちからの仲介手数料で潤い、この“投げ銭ビジネス”の成功は大きな話題となった。だが、光が差すところには影も生じる。シェン・マンもビッグ・リーも、自分の人気をどうすればキープできるかに頭を悩ませ、精神的に追い詰められていく。人気ホスト同士の競争を煽るように、「YY live」はNo.1ホストを決めるコンテストを開催する。

投げ銭と共に飛び交うのは、「シェン・マン、おっぱい見せろ」「俺と寝て」といった卑猥な言葉だ。中国政府は犯罪行為や政治的な発言でない限り、ストリーミング界への過度な干渉は控えているようだ。若者たちが欲望と不満を吐き出す、壮大なバーチャル共和国が中国には存在する。

無職の父親と若い継母と同居するシェン・マン、妻との離婚話がたびたび浮上するビッグ・リー。オンラインセレブの日常生活を、リアリティショーさながらにカメラは追っていく。その一方、彼らを応援するファンの素顔もカメラは映し出す。華やかなバーチャルの世界とは裏腹に、何もない暗い部屋でパソコンだけが光を放ち、画面に釘付けになっている若者の顔を照らしている。

彼らは応援するホストのパフォーマンスに一喜一憂するが、勤め先の工場では終始うつろな表情。月に日本円にして約4万円や6万円の稼ぎながら、推しホストのために気前よくギフトを贈る。バーチャルの世界と現実世界との落差が、あまりにも激しい。

「中国では“寝そべり族”と呼ばれる若者たちが増えています。これまでは政府の指示に従い、経済成長を遂げ、その世代は大きな恩恵を受けたわけです。しかし、今の中国は経済成長は低く、失業率が高い状況です。今の中国の若者たちはインターネットを通して広く世界のことを知っているので、指導者の言うことがすべて正しいとは思っていません。でも、自分たちの力で政治や社会を変えるのは難しいこともわかっている。2019年の香港の民主化デモに参加した市民たちがどうなったかを、彼らは見ていますから。お金もなく、海外へ脱出できるコネもない若者は、ただ寝そべって、手が届くものだけで暮らすしかないんです」(伴野氏)

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