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NewsPicks後藤直義の「GHOST IN THE TECH」【23】

誰も知らなかった1兆円のニッチ市場――黒人女性の「かつらビジネス」

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――あまりにも速すぎるデジタルテクノロジーの進化に、社会や法律、倫理が追いつかない現代。世界でさまざまなテクノロジーが生み出され、デジタルトランスフォーメーションが進行している。果たしてそこは、ハイテクの楽園か、それともディストピアなのか――。

今月のテクノロジー『メイブン』

2013年に誕生した、黒人起業家のディシャン・イミラが創業したスタートアップ。黒人女性たちが安く、良質なウィッグをヘアサロンで買えるプラットフォームを作り、見えざる1兆円市場を掘り起こした。本社はカルフォルニアのオークランドにあり、かつてラッパーの2パックも暮らした、黒人カルチャーの中から生まれた。

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「米国は、もっとブラウン(茶褐色)になる。これは超大切なことだ」

 先月、米国ロサンゼルスに住んでいる、アフリカ系アメリカ人(黒人)の投資家にインタビューをした。名前を、マーロン・ニコルズという。

 彼が経営しているのは、いわゆるスタートアップに投資をするVC(ベンチャーキャピタル)の一種であり、これまでなかなかお金を集められなかった、マイノリティ人種の創業者たちにスポットライトを当てているのが特徴だ。

 シリコンバレーに住んでいるとわかるのだが、ここはスタンフォード大学やハーバード大学を卒業した白人であったり、アジア人たちがゴロゴロしている。一方で、黒人の創業者を目にすることは、ほとんどゼロに近い。

 5年以上もGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)の取材をしてきたが、これまでインタビューした相手の多くが、白人もしくはアジア人であり、記憶の限り黒人は1人もいなかったように思う。

 そんな状況に風穴をあけるように、マーロンはとてもおもしろいマイノリティ出身の創業者であったり、マイノリティを対象にしたサービスを掘り起こしている。

 そのひとつが、黒人女性たちに安くて、良質なウィッグ(かつら)を売りまくるプラットフォーム「メイブン(Mayvenn)」だ。

 実はアフリカ系の女性たちは、クルクルとカールしている髪質が特徴であるため、ヘアケアにとてもお金や時間をかけることで知られている。

 そしてメディアであったり、街中で多く見かけるカラフルなストレートヘアは、実はウィッグ(かつら)であることがとても多い。

 長い間、多くのアフリカ系の女性たちは、ショッピングモールや街なかにあるビューティーショップに行って、ピンからキリまであるウィッグを吟味しては、まずそれを購入していた。そして購入したウィッグを持って、美容室などに行き、自分のヘアスタイルとしてフィットするように美容師さんの手を借りていた。

「誰も知らないけれど、黒人女性のウィッグビジネスというのは、米国で90億ドル(約1兆円)の巨大市場なんだ」(マーロン)

 そして、実はアフリカ系の女性向けのアイテムにもかかわらず、そこから生まれる利益のほとんどは、別の人々の手に渡っていたのだ。

壊れた救急医療を、立て直すベンチャー

「米国で売られているウィッグの98%は、韓国系の資本によって経営されているビューティーストアで売られていたのです」(マーロン)

 そこでメイヴンの創業者は、中国などから良質で安価なウィッグを仕入れて、米国全土の黒人女性が通っているヘアサロンが、在庫リスクもなく、こうしたウィッグをお客さんに売ることができる「かつらのプラットフォーム」を立ち上げた。

 これまでのショップで売っていたウィッグには、不要な仲介手数料であったり、マーケティングコストが含まれており、しかも原価もあいまいなアイテムだった。その無駄を極限まで省いて、美容院のスタイリストたちが、上質なウィッグを女性たちに提案できるようにしたのだ。

 メイヴンによればすでに米国5万店以上のスタイリストが、このメイヴンのウィッグを使っている。これによって、従来の半分のコストで、黒人女性たちはウィッグを新たに購入できるようになったという。その成長に目をつけて、名門VCのアンドリーセン・ホロウィッツなども投資をしており、時価総額は100億円をはるかに超えた。

 マーロンの投資先には、ほかにもこうしたマイノリティの需要をつかんだ、おもしろいスタートアップが多い。

 たとえば「レディ・レスポンダー」というスタートアップは、いわゆる救急医療サービスのUber(ウーバー)といわれる、ヘルスケアビジネスを広げている。

 もし心臓に痛みを感じたり、事故で大ケガをしてしまったときに、まずはこのレディ・レスポンダーのサービスにアクセスする。

 すると同じ地域にいる、非番のために手が空いている救命士や看護婦たちが、まずはスマートフォンなどで、応急処置などについてアドバイスをくれるのだ。

 米国では、911番をダイアルして、救急車を1回呼ぶためにかかるコストは100万円以上だ。高額な医療保険に加入していない貧しい人たちには、とても払えない。また貧困地区では、そもそも救急車がなかなか来てくれないことも多いという。

「僕が育ったニューヨークの地元の近くには、ブロンクス(貧困黒人層が多く住んでいるエリア)があった。“911 is a Joke”という、ヒップホップの曲があったけど、それが現実だったんだよ」(マーロン)

 だからこそこのサービスは、ニューオーリンズ(ルイジアナ州)や、ロサンゼルス(カリフォルニア州)など、貧しいマイノリティ人種が多い都市から立ち上がっている。そのほかにも、コンピューターエンジニアになるための教育機会を、人種などを問わずに提供するサービス「カタライト」も、マーロンのお気に入りの投資先だ。

 スタンフォード大学やMIT(マサチューセッツ工科大学)に行けなくても、独自のテストをクリアすると、6カ月にわたるエンジニア教育を受けられる。そして終了後は、同社のITコンサルタントとして仕事を始められる仕組みだ。

白人たちが、マイノリティになる日

 多くの読者が誤解しないように伝えたいのは、これは決して、ボランティア精神や慈善的な活動によって、マイノリティを助けようという話ではない。実際は、その逆だ。

 米国の推定人口(2020年、米国勢調査局)は、約3億3000万人。そのうち白人は約60%、ヒスパニック系が18.5%、アフリカ系が12.2%と続く。そしてアジア系の米国人は、わずか5.6%にすぎない。つまり、圧倒的に白人がメインストリームなのだ。

 ところが60年までに、事態は逆転する。いくつかの人口予測では、米国における白人人口の占める割合は40%を割るといわれており、マイノリティとなっていく可能性が高い。

 そうなったときに、多種多様なカルチャーや人種たちのニーズにフィットするような、新しいプロダクトやサービスをつくることができなければ、もちろんビジネスチャンスを逃すことになる。

 だからこそ、マーロンのような黒人投資家たちの視点が今、注目されているのだ。

 女性歌手のリアーナが17年に立ち上げた、有色人種の女性をターゲットにした化粧品ブランド「フェンティ・ビューティ」は、一躍大人気ブランドになった。とりわけ黒人女性の肌色にフィットする、ダークカラーのファウンデーションなどはすぐに売り切れに。事業開始から40日間で、100億円以上のセールスを記録している。

「異文化を知っていることは、新しい時代のカレンシー(通貨)になる」(マーロン)

 私が暮らしているサンフランシスコやシリコンバレーは、今でもテクノロジー業界で成功している人たちのほとんどが、白人かアジア人の男性エリートたちだ。

 しかし、米国がこれからもっと「ブラウン(茶褐色)」に変色していったときには、もっと多様で、ダイバシティあふれる産業エリアであってほしいと思う。もちろんそこでは、予想外のビジネスがたくさん生まれるはずだ。

(文/後藤直義・NewsPicks)

後藤直義(ごとう・なおよし)
1981年生まれ。青山学院大学文学部卒。毎日新聞社、週刊ダイヤモンドを経て、2016年4月にソーシャル経済メディア『NewsPicks』に移籍し、企業報道チームを立ち上げる。グローバルにテクノロジー企業を取材し、著書に『アップル帝国の正体』(文藝春秋)など。

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