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『海上自衛隊のすべて』(宝島社)

 今年初め、横須賀基地配属の護衛艦で30代の男性隊員が首をつって自殺した問題で、先日その背景にあった海上自衛隊(以下、海自)のいじめの実態が明らかになった。

 海自の発表によれば、男性隊員は上官である1等海曹から、頭を殴られるなどの暴行や土下座の強要といったいじめを繰り返し受けていたという。さらにこの1等海曹が、"指導"と称して隊員から預かった携帯電話を隊員の死亡後に海に投げ捨て、証拠隠滅を図ろうとしていたことも明るみになった。

 しかしこの「公式発表」に関して、海自の護衛艦乗組員の幹部・A氏はこう疑問を投げかけた。

「発表の中では公表されませんでしたが、事件が起きた護衛艦は『はたかぜ』というミサイル護衛艦でした。実はこの艦には、帝国海軍以来の『甲板整列』という悪習が残っていたんです。隊員は上官の1等海曹による"個人的な"いじめにより自殺したのではなく、"組織的な"いじめを苦にして自殺したんですよ」

「甲板整列」とは、上官による指導、特に"体罰"に当たる指導を指す。過去には、目玉焼きができるほど太陽光で熱せられた鉄板の上で数十分にわたり腕立て伏せの姿勢をとらされたり、つま先に鉄板の入った安全靴で太腿にローキックされるなどといった行為が行われていたという。

「このような暴力的な指導はこれまでに何度も問題視されており、海自ではほぼ"絶滅"したはずだったのですが……『はたかぜ』では、これが日常的に行われていたのです」(A氏)

 A氏によれば、「はたかぜ」では今回自殺した男性以外にも、上官から殴られたり蹴られたりする体罰を受けていた隊員が多数存在するという。

 しかし、なぜ護衛艦「はたかぜ」にだけ帝国海軍以来の悪習である「甲板整列」が残っていたのだろうか。その質問に対し、同氏は「それは『はたかぜ』の特殊な事情が背景にありますが、秘密事項なので私の口からは言えません……」と口を閉ざした。

いじめ自殺の現場は500億円の欠陥商品

 はたして、護衛艦「はたかぜ」に関する秘密事項とはなんなのか。護衛艦勤務の長い別の幹部自衛官・B氏は、こう耳打ちしてくれた。

「実は、いじめの現場となった『はたかぜ』は、"欠陥護衛艦"なんですよ」

「はたかぜ」とは、海自が世界に誇るイージス艦導入以前に建造されたミサイル護衛艦。いかにも軍艦らしいその外見のため、日本の海自が所有する護衛艦で"最も美しい護衛艦"とも呼ばれている。

 ところがB氏は、そんな「はたかぜ」型が2隻しか建造されなかったことに、同艦に悪習が残ってしまった秘密が隠されていると指摘しているのだ。

「護衛艦の建造費は、1隻あたり500億円程度と言われています。そのため、少しでも費用を抑え、整備や作戦運用の効率を高めるため、通常海自では同じ型の護衛艦を5隻程度、多い場合には10隻以上も建造するのです。しかし、件の『はたかぜ』型は、2隻しか建造されませんでした。エンジンと動力装置の構造に問題があり、長期間の航海ができない船だったのです」

 しかし、欠陥護衛艦と暴力的指導である「甲板整列」にどのような関係があるというのだろうか。

「一般的な護衛艦は、年間170~200日程度航海しています。ところが長期間の航海ができない『はたかぜ』は"岸壁の守り神"と呼ばれるほど、航海日数が少ないことで有名なんです。同時に、優秀な隊員は同じミサイル艦ならイージス艦を希望し、そちらに配置されますので、実任務に従事しない護衛艦に二流の隊員が集まっている、というのが『はたかぜ』の現状なのです」(同)

 試合という見せ場が与えられずに練習だけを続けている二軍のような存在だった「はたかぜ」は、こうして注目されない日陰の存在となっていき、その閉塞感をより強めていったという。結果、悪習絶たれぬ状況も、表に出ることがなかったのだ。

「ミサイル艦」「CIC」が“負”のキーワードに?

「はたかぜ」自殺事件の取材を進める中で、当時の艦内の雰囲気を良く知る海上自衛官・C氏にもインタビューすることができた。

「自殺した隊員も指導した上官も、電測員と呼ばれる職種に就いていました。電測とは、各種レーダーや情報処理装置を取り扱う護衛艦乗りのエリートのこと。そして彼らは、CIC(戦闘情報中枢)と呼ばれる『特紡区画』で勤務しているのですが……このCICは護衛艦の頭脳であるため、たとえ幹部であっても、指定された乗組員以外は立ち入れない区画だったんです」

 12年に起きた「護衛艦たちかぜ暴行恐喝事件」でも、加害者である上司がCIC内において、サバイバルゲームと称して部下隊員をエアーガンで射撃していたことが明らかになっている。閉鎖された護衛艦内のさらに閉ざされた空間で、こうしたいじめが相次いで起きたのだ。

「もともと、『はたかぜ』艦内で『甲板整列』が行われていたことは事実です。しかし、加害者を擁護するようですが……護衛艦は高度にシステム化された武器体系なので、乗組員もまた、戦闘員というより技術者としてのスキルが求められます。『甲板整列』は多くの場合、訓練において上官の求める技術レベルに達してなかった場合に行われてました。いじめというよりも行き過ぎた指導であり、肯定的にとらえれば"愛の鞭"であったとも言えるのではないでしょうか……」(同)

 C氏は「甲板整列」を"愛の鞭"と表現したが、例え厳しい訓練や指導であったとしても、もしもそこに本当に"愛"や上官としての情熱や義務感があれば、指導を受けた隊員は自殺することはなかったのではないだろうか。海上自衛隊に詳しいジャーナリスト・D氏は、 「事件当時の状況は自衛隊の警察である警務隊が捜査していますので、詳しいことは裁判で明らかにされるでしょう。しかし、海自が抱えている問題点は根深いのです」と続ける。

「海上自衛隊の定員不足が叫ばれる中、テロ対策特別措置法に基づくインド洋派遣、アデン湾での海賊対処行動などの任務が付与され、隊員によっては、2年間のうちに半年間の海外派遣を2度も経験するといいます。

 このような実任務の行動には危険が伴いますので、隊員たちのストレスも高くなる。しかし、任務を終えて帰国したからといって、自由な生活が待っている訳でもなく……護衛艦と言えども防衛省の行政組織のひとつであるため、帰国後はお役所仕事としての膨大な事務と共に、実任務中にできなかった訓練も消化しなければならないんです。こうした任務の増大による現場へのしわ寄せが不満となり、いじめなどにつながっているのではないでしょうか」(D氏)

 事実、前出の幹部A氏と隊員C氏は口をそろえて「海上自衛隊の現場はとにかく疲弊しきってます」と訴える。

 防衛省は、「イージス艦情報漏えい事件」「イージス艦衝突事故」と立て続いた不祥事に対応するべく「海上自衛隊の抜本的改革」を打ち出したが、現場隊員の話を聞く限り、改革の効果はまったく得られていないばかりか、むしろ現場に新たなストレスを与えているのが現状だ。結果として、いじめによる新たな自殺者まで出してしまった責任は重い。

 現在、安倍政権は集団的自衛権の行使容認を閣議決定し、関連法案の審議・成立を目指しているが……安倍総理は自衛隊の視察で一体何を見てきたのだろうか。戦車や戦闘機に乗ってメディア向けにポーズをとる前に、現場の真摯な声を吸い上げていただきたいものだ。

(取材・文/山野一十)

不祥事を呼ぶ男・河野克俊海上幕僚長

 海上自衛隊の護衛艦で上官からいじめを受けていた乗組員が自殺した問題に関して、今月2日、河野克俊海上幕僚長が釈明会見を行った。その様子を横目で見ていた防衛官僚は、「河野さんは事件、事故を呼び寄せてると言われるけど、その通りだな」と苦々しく呟いた。

 河村氏が海上自衛隊の最重要ポストである海幕防衛部長に就任以降、海上自衛隊は次々に不祥事を引き起こして世間の注目を集めている。2008年には、当時最新鋭であったイージス護衛艦「あたご」と千葉県勝浦市漁協所属の漁船「清徳丸(せいとくまる)」が衝突した「イージス艦衝突事故」が発生。12年には護衛艦の乗組員が上官からのいじめを苦にして自殺した「護衛艦たちかぜ暴行恐喝事件」と、事件後に海上自衛隊が行ったいじめに関する実態調査アンケートの隠蔽問題が発覚。そして先述のいじめ自殺問題に続き、4日には沖縄県うるま市の海上自衛隊沖縄基地隊所属の掃海艇「くろしま」の乗組員に対する上官からのいじめも発覚した。今年5月には、東京高裁が「たちかぜ事件」に関して国の責任を認める判決が確定したことを受けて、河野氏自ら自殺した隊員の遺族に謝罪したばかりであった。


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