サイゾーpremium  > 連載  > 佐々木俊尚のITインサイドレポート  > 「モノのインターネット」時代という新潮流
連載
佐々木俊尚の「ITインサイド・レポート」 第67回

人体や下水管までもがネットにつながる「モノのインターネット」時代という新潮流

+お気に入りに追加

進化の歩みを止めないIT業界。日々新しい情報が世間を賑わしてはいても、そのニュースの裏にある真の状況まで見通すのは、なかなか難しいものである――。業界を知り尽くしたジャーナリストの目から、最先端IT事情を深読み・裏読み!

 PCやスマホ、タブレットなど、ネットにつながるデバイスの種類はどんどん増えている。そして2020年間近になると、今度はそうした情報機器だけでなく、我々自身の身体のように、本来はネットワークに接続されないアナログな物体までもがつながる時代が来るかもしれない──。

1401_net.jpg
『イラスト図解 インターネットのつながるしくみ』(日東書院本社)

 自動走行車が注目を集めている。グーグルが先行して情報を公開してきたが、トヨタや日産など自動車メーカーによる開発も急ピッチだ。トヨタは2015年には高速道路での運転補助を行ってくれるタイプを発売予定で、日産は20年までに完全無人のタイプを発売。またグーグルはNHKの取材に「4年以内に実用化する」とコメントしており、15年から20年にかけてが自動走行車の実用化ラッシュになるかもしれない。

 自動走行車は、センサーの塊だ。車載のカメラやレーザーなどさまざまな種類のセンサーを搭載し、自動車の周辺に何があるのか、信号機の状況はどうなっているか、渋滞状況はどうか、前を横切っている人はいないかといった膨大な情報を処理している。データ量は毎秒1ギガバイトにも及ぶという。

 こうしたセンサーの活用は、各方面で進んでいる。

 例えば米インディアナ州のサウスベンド市は、老朽化した下水管システムに対処するため、全面的に作り替えるのではなく、センサーを活用する方法を考えた。下水管は設置から50年以上経つ古い機械的なバルブによってコントロールされていたが、全長500マイルの下水路の100カ所にセンサーを取り付けることで、今どのぐらいの下水が流れ、どの程度の空き容量があるのかを市の担当者がリアルタイムで把握することができるようにした。また降雨のときに汚水がどのぐらい増えるのかというデータも蓄積され、事故防止に役立てることができるようになったという。同市の下水システムの年間予算は3000万ドルだったが、新しいセンサーシステムには600万ドルを投入しただけで済み、全体としては1億2000万ドルのインフラ予算を節約できたそうだ。

 これまでのインターネットは、サーバやパソコン、スマホ、タブレットといった情報機器を相互に接続しているだけだった。しかし今後やってくる「モノのインターネット」の世界では、情報機器以外のさまざまなモノがネットにつながっていくことになる。しかし通信モジュールやマイクロプロセッサによってネットにすぐにつながることのできる情報機器と違い、世の中にある大抵のモノ、古くからあるモノは、そのままではネットにはつながらない。例えば冷蔵庫やエアコンだったら、ネット接続対応の新製品を出して対応していくことができるだろう。しかし下水管のようなアナログな設備はネットには対応していない。これは自然にある河川や森林、さらには動物や植物、そして人間の身体も同じである。

 そこで、このようなアナログなモノをネットにつなぐための「媒介役」として、センサーが重要になってくるということなのだ。アナログなモノそのものはネットにつながらなくても、モノの状態をセンサーで測り、そのデータを通信モジュールによってクラウドに送信することで、擬似的にネットにつながることが可能になる。これによって、この物理空間に存在しているありとあらゆるモノをネットにつなげていくことができるわけだ。

高度な身体の情報を個人にフィードバック

 最近話題になっているグーグルグラスや、アップルが近く発売するとされているスマートウォッチなどのウェアラブルデバイスも、このモノのインターネットの潮流の中に位置付けるべきものである。つまりウェアラブルの重要な役割のひとつとして、センサーによって私たちの身体をモノのインターネットに組み込んでいくということがあるわけだ。これこそがウェアラブルの大きな可能性である。

 サムスンなどがすでに発売しているスマートウォッチは、スマホやタブレットと連携し、メッセージ着信通知や天気予報などスマホの内部情報を表示するだけのデバイスに留まっているが、その程度の機能しかないデバイスは多分普及しないだろう。

 ウェアラブルは、従来のスマホやタブレットではできなかった身体情報取得を、さらに高度化することができる。スマホが手に持っているカバンやズボンのポケットに入れられていたのに対し、手首や顔などの身体に密着しているウェアラブルは身体の情報を得やすくなり、五感とも連携しやすくなるからだ。例えば脈拍、歩行速度、運動量、さらには体温や血圧、血糖値、食べたカロリー量などまでさまざまな数値がセンサーで計測できるようになっていく。またウェアラブルは外に露出しているから、センサーで外界の状態を測ることもできる。温度計や湿度計、マイクロフォンなどを実装すれば、ユーザーが今いる場所がどのような状態なのかをさらに正確に読み取れる。温度や湿度をクラウドに送信してたくさんの人の現在の情報を集めれば、ピンポイントの天気予測などが、もっと精密にできるようになるだろう。

 またグーグルグラスのような眼鏡型であれば、人間の視野とカメラの視野を一致させ、より効果的なAR(拡張現実)を実現できる。

 今年発売されたiPhone5sには、指紋認証センサーが採用されている。今後は指紋だけでなく、心拍や発汗、モーションセンサー(加速度計)を使った身体の動き方の傾向を記録しておくことによって、より包括的な生体認証も可能になるだろう。これはデバイスのロック解除だけでなく、店頭でクレジットでお金を支払ったり、クルマのドアロックを外したりといったことにも使えるようになる。実際、このようなウェアラブル製品を開発する企業はすでに現れている。カナダのバイオニム(Bionym)が予約販売しているNymiというブレスレット型のウェアラブルは、心拍で認証を行い、パソコンの前に座るだけでシステムにログインしたり、オンラインショッピングで決済したり、手を振り上げることでクルマのトランクを開けたり、テレビのスイッチを入れたりと、生活のさまざまなシーンにある「オン」の操作の多くを、「手首を振る」という行為だけで代替できるようにしているのだ。

 しかしこうしたセンサーによる情報収集は一方で、プライバシー侵害の懸念も生むだろう。今年6月、JR東日本がSuicaのデータを日立製作所に販売し、日立がデータを利用してマーケティング情報として契約企業に提供するサービスを行うと発表した。だが直後から「プライバシーの侵害だ」という批判が高まり、7月には販売中止に追い込まれてしまった。このようなケースが今後も続出することは予測される。この問題がウェアラブルとセンサーが普及していくための大きなハードルになっていくのは間違いないだろう。

 ここを突破するためのひとつの方向性は、マーケティングや疾病の発症傾向を調べるなど、データを丸ごとそのまま使うというマクロな利用方法だけでなく、データを分析した結果をユーザー本人に「おすすめ」などで還元するということをきちんと行っていくということだ。Suicaのケースではそうした還元がなく、情報が第三者に転売されるだけだったため強烈な反応を引き起こしたのではないか。

 センサーを使って得られる身体の情報は、ユーザーにフィードバックしやすい性格を持っている。例えば「今日は○○ぐらいの運動をしました」「今日は発汗量が高めになっていますね」「体温が少し上がり気味なので体調を整えましょう」といった、健康を維持するための情報提供が行われ、ユーザーが情報を還元してもらえているという感覚を持つことができれば、受け入れてもらえる可能性は高いだろう。

1311_ITinside.jpg

佐々木俊尚(ささき・としなお)
1961年生まれ。毎日新聞、アスキーを経て、フリージャーナリストに。ネット技術やベンチャービジネスに精通。主著に『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『「当事者」の時代』(光文社新書)ほか。6月5日に『レイヤー化する世界』(NHK出版)を上梓。


ネットに接続される デバイス数予測

750億個
■2013.10.14 全人類80億人全員にひとり9.4個ずつ!
インターネットに接続されているデバイスの数は2000年のPC時代には2億、これにスマホやタブレットが加わって2012年には87億になった。そして今後「モノのインターネット」時代には接続機器数が爆発的に増え、2020年には750億台と予測されている。

【佐々木が注目する今月のニュースワード】

■Uber
接客の良いタクシーをスマホのアプリから呼び、アプリ上でタクシー料金も決済できるサービス。このほど日本に上陸し、東京・六本木周辺で数台のタクシーを使って運用開始した。今後の規模拡大が期待される。

■PrimeSense
マイクロソフトのキネクトにも採用されているジェスチャー操作技術の企業。アップルがなんと360億円で買収した。今後、ウェアラブルなどではジェスチャー操作が中心になっていくか。

■ハコビジョン
QRコードを読み取って動画再生したスマホを上に乗せると、建物を模した小さな食玩にプロジェクトマッピングされるバンダイの玩具。わずか500円で、最先端のプロジェクトマッピングが手のひらサイズで楽しめる。

ログインして続きを読む
続きを読みたい方は...

Recommended by logly
サイゾープレミアム

2022年6・7月号

目指すはK-POP? ジャニーズ進化論

目指すはK-POP? ジャニーズ進化論
    • 音楽業界からの【賛辞と批判】
    • 【芸能プロ】的戦略が抱える2つの“矛盾”
    • 令和の【ジャニーズ・シングル】20選
    • 20年代のジャニーズ【ミュージックビデオ】

移ろいゆくウクライナ避難者

移ろいゆくウクライナ避難者
    • 移ろいゆく【ウクライナ】避難者

NEWS SOURCE

インタビュー

連載

サイゾーパブリシティ