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法社会学者・河合幹雄の法痴国家ニッポン【15】

広島LINE殺人事件に見る少年犯罪の"不気味な"少なさ

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法と犯罪と司法から、我が国のウラ側が見えてくる!! 治安悪化の嘘を喝破する希代の法社会学者が語る、警察・検察行政のウラにひそむ真の"意図"──。

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「広島LINE殺人事件」
2013年6月、広島県呉市で、16歳の無職少女がSNSアプリ「LINE」上での口論をきっかけに元同級生の16歳の少女を暴行、殺害し、遺体を呉市の山中に遺棄した事件。広島県警は、母親に付き添われて自首した少女を死体遺棄容疑で逮捕。少女の供述から、ほかに6名の男女が暴行に加わっていたことが判明し、県警は計7人を強盗殺人、監禁などの容疑で再逮捕した。

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『少年犯罪〈減少〉のパラドクス(若者の気分) 』(岩波書店)

「少年犯罪は増加凶悪化、特異化している」

 日本のマスコミは、少年犯罪を報じる際、とかくこの点を強調したがる傾向があります。2013年6月、広島県呉市で16歳の少女らが元同級生の少女を殺害した事件に関する報道などはまさしくその典型で、SNSアプリ「LINE」でのトラブルがきっかけとなったことや、主犯の少女らが"接客業"で大きな利益を得ていたことなどをセンセーショナルに取り上げました。

 そうしたマスコミの風潮は、1995年の地下鉄サリン事件以降の体感治安の悪化や、97年に当時14歳の男子中学生が5名の児童を殺傷した神戸連続児童殺傷事件、いわゆる酒鬼薔薇事件などを契機に強まったもので、それが現在まで続いています。しかし、実はそうした認識が誤りであることは、後述のようにデータから一目瞭然であり、また一般にもようやく浸透しつつあります。

 とはいえ、データをより詳細に見てみると、少年犯罪の近年の特徴といえるものが存在するのもまた確かです。そして何より、その背景について考察すると、「犯罪が減った」と単純に喜んでばかりもいられない日本の現状が浮かび上がってくるのです。

 少年による刑法犯の検挙人員の推移には、51年(16万6433人)と64年(23万8830人)、83年(31万7438人)をそれぞれのピークとする3つの大きな山があります。これは、各時代に実施された非行防止キャンペーンなどの警察活動が大きく影響していて、実数としてはもっとなだらかな曲線になると考えられる。しかし、基本的にはここ30年間、少年犯罪は確実に減り続けていて、11年には検挙人員11万6089人となっている。つまり現在、少年犯罪は戦後最少レベルにまで減少しているわけです。

 殺人をはじめ凶悪犯罪に関しても同様のことがいえます。例えば少年による殺人の検挙人員。46~69年の間、年間250~450人で推移していましたが、75年以降、100人を超えることは稀になり、ここ数年間は50人前後で"安定"しています。58年に4649人でピークを迎えた強姦についても、89年に500人を割り込み、11年には79人にまで減少しています。余談ながら、強姦の検挙人員は56年を境に急増し、再度56年のレベルまで低下するのに以後10年以上かかっています。これは明らかに56年の売春防止法の成立による負の影響です。それはともかく、少年犯罪については、多くのデータが増加や凶悪化とはまるで正反対の状態を示しているのです。

 そうした全体状況において注目すべき変化があるとすれば? それは、少年による刑法犯の検挙人員に占める女子の比率です。戦後しばらく10%程度だった女子の比率は、60年代頃から急速に高まり、70年代半ばから現在まで、18~25%で推移している(11年は19.2%)。その理由については後ほど詳しく説明します。

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