サイゾーpremium  > 特集2  > 「演歌歌手は、単なる人柱に過ぎない!」 ...

──ここまで、演歌とヤクザの深い関係について見てきたが、ではいったいなぜ演歌歌手とヤクザはここまで密接につながってきたのか?そしてこれからはどうなっていくのか──? 暴排条例と演歌歌手を取り巻く状況を、国際犯罪学者で、組織犯罪に詳しい加藤久雄氏に聞いた。

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加藤久雄氏のホームページより。

さまざまなタレント、芸能人がいる中、こと演歌歌手が暴力団とつながりやすい理由は、意外と単純なんです。ポップスやロックのミュージシャン以上に、歌手自身が出身地を売りにしがちな上に、演歌の定番ジャンルのひとつにご当地ソングがある。それだけに、全国各地の興行主としては、演歌歌手はイベントやコンサートに呼びやすいんですよ。そして、その興行主とは、当然地元のテキヤといわれる暴力団であることが多い。一方、演歌の世界には、日本全国を行脚して、歌を披露しつつ、自らレコードやカセットテープを手売りする、いわばドサ回り的な営業手法が根付いている。だからお声がかかれば、地方興行にも喜んではせ参じるし、興行主である暴力団とも懇意にするのも、善悪を別にすれば、当然といえば当然です。  

 また、歌手が来てコンサートが開かれれば、その街の暴力団や音響制作会社、照明会社はもちろん、チケットを刷る印刷業者や仕出し弁当屋までもが潤います。地域としても、暴力団の仕切る演歌興行を"産業"のひとつとして大事にしている側面もあるようです。 

 しかし、今年10月より、47都道府県すべてで暴力団排除条例が施行され、捜査当局や行政がいよいよ暴力団排除の動きを強め始めたため、芸能界やメディア業界は、暴力団の広告塔になりかねない人物を排除し始めた。 

 これが、最近の演歌歌手への風当たりの強さの正体なんでしょうね。 

 ただ、演歌歌手との関係を絶たれたからといって暴力団が弱体化するかといったら、もちろんそんなことはありません。より世間の目に触れにくい、アンダーグラウンドな別のシノギを見つけるだけでしょう。もしそうなれば、地元の小さなホールにおじいさん、おばあさんを集めた演歌の興行を開くよりも、より稼ぎは大きくなり、組織もより強大になります。

 それに「暴力団"排除"条例」というのも、おかしな話なんです。 

 確かに一部の建築業者など、暴力団と懇意にしている「密接関係者」に注意の目を光らせることは肝心ではあるものの、暴力団を根絶するなら、なぜ捜査当局や行政が直接手を下さないのか。例えば、ドイツには犯罪的組織の結社を取り締まる法律があり、スイスではインターネットカジノの開設自体を禁じている。マフィア組織やバクチの胴元そのものを、組織させないようにしているわけです。

 ところが日本では、我々市民に「暴力団を排除しましょう」と呼びかける。先月、暴力団の構成員からスーツを受け取るなどしたとして、大阪府警の巡査部長が懲戒免職になる事件がありました。捜査当局や行政には暴力団を取り締まれない、言ってしまえば、蜜月の関係にすらあるからこそ、本来自らの責務であるはずのことまで我々市民に丸投げしてしまっているんですよ。司法への不信が募ったからといって裁判員制度を導入したのも、いい例ですよね。本当なら、司法当局の人間が司法への不信を払拭するように努めるべきなんですから。 

 そして、市民の中にも同様の感覚はある。麻薬を使用した人はこぞって叩くのに、売人の逮捕には誰も注目しないし、売買春を行っていた人に後ろ指をさしても、管理売春組織には目くじらをたてない。誰か人柱を見つけて溜飲を下げているだけ。これでは何も解決しないし、そもそも「窮屈な世の中になったなぁ」という印象しか受けません。
(文/成松哲)

加藤久雄(かとう・ひさお)
法学博士、弁護士。元慶應大学教授。大阪大学大学院にて博士課程修了後、ミュンヘン大学客員教授やケンブリッジ大学研究員として赴任。08年に慶應大学教授退職後は、弁護士として活動している。組織犯罪や刑法を中心に暴力団対策法の制定にも携わり、『暴力団』(岩波書店)などの著書も執筆している。

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