「米倉涼子離婚スクープ」で露呈した芸能メディアの"慣れ合い"問題

――数々の芸能スクープをモノにしてきた芸能評論家・二田一比古が、芸能ゴシップの“今昔物語”を語り尽くす!

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 週刊文春の「米倉涼子離婚決断」のスクープ記事は「お見事」の一言しかない。

 時間をかけた詳細な取材内容。材料を揃え米倉と夫にほぼ同時に直撃。口裏を合わせられないようにすることは取材の基本。これが本来の記事の作り方だろう。

 テレビ、新聞、他の週刊誌などの同業者たちは「さすがは文春」と褒めたたえている。今の文春は、他紙の記者が束になってかかっても敵わないだろうと思う。しかし、昔はすべての芸能マスコミがスクープを競い、文春に負けないスクープを放っていた。記者の間でも「スクープされたらスクープで返せ」とそれぞれがライバル心剥き出しで戦っていた。時には相手のスクープを潰すこともあった。

 昔、大物作曲家と女優の不倫現場を捕えるべく、青山にあった女優のマンション前で張り込みをしていた。張り込みは相手にばれたら終わり。見つからないようにマンションの真ん前ではなく、反対側から車の中に望遠レンズを構えたカメラマンを配置させ作曲家の出入りを狙っていた。

 張り込みに確かな手ごたえを感じ、後は時間の問題と思っていた矢先だった。見知らぬワゴン車がマンションの真ん前に停車しだした。明らかに張車(張り込み用の車)。他紙が我々を邪魔するように張り込みを始めたのだ。これでは決定的な写真は敵に撮られる。とはいえ「こっちが先に張り込んでいるのだから、止めろ」とも言えない。張り込み現場は天下の公道。あまりにオープンな張り込みに肝心の作曲家が気づき、失敗に終わった。

 後日、聞いた話だが、「我々の張り込み車を見つけて、なにかあると張り込みをしただけで、ターゲットはそのときは知らなかった」と言っていた。ライバルの動きをキャッチするのも取材の一環だった。それが高じて、「○○週刊誌がオタクの女優を張り込みしていますよ」と親しい事務所にご注進する者もいた。当然、こちらの張り込みは失敗する。やられたらやり返す時代でもあった。

 こちらも相手の邪魔をすることもあった。ある人物に某レポーターが直撃という設定の元、ワイドショーで生放送するという話ができていた。その人物は著者と信頼関係があり、私に何気なくその話をしてきた。テレビは毎日、放送できるが、週刊誌は週一回。先にレポーターに話をされたら週刊誌でやる意味がなくなる。その人物を「やめたほうがいい」と説得。しかも本番ぎりぎりだったため、レポーターは家の前ですでにスタンバイしていた。それを「緊急で用事が入った」とドタキャンさせた。当然のことながらレポーターや番組スタッフは怒り心頭だったそうだ。

 今の記者会見などは和気あいあいとしていて穏やかなものだが、昔の現場は常に殺気だっていた。

「現場にいるのは同業者で顔見知り。始まる前は仲良く世間話をしていますが、腹の中では『こいつの脚を引っ張ってでもこちらのほうがいい写真を撮るぞ』とカメラマン同士はライバル心むき出しでした。写真を撮るときにわざと肘を張り、たまたまぶつかったという恰好で邪魔するのは当たり前。頭が邪魔になると後ろからフィルムをぶつける。テレビカメラと衝突することも多く、コードを持つADの足をひっかけて倒すこともしていました。常に現場は怒号が飛び交っていました。理不尽な要請には現場で邪魔する芸能プロのマネージャーとも、普通に喧嘩していましたが、今の現場は事務所に言われるとおとなしく従う時代ですからね。これでは同じ絵しか撮れませんよ」(ベテランカメラマン)

 芸能界とマスコミは持ちつ持たれつの関係。仲良くなることも大切ではある。しかし、最近は「仲良し」ムードが充満している。あまりの仲良しぷりに芸能レポーターは「芸能サポーター」と呼ばれるほどだ。

 ただ、昔と今の決定的な違いは、仲良しの中身。昔は「五分と五分の付き合い」での仲の良さ。だから、芸能人にスキャンダルが持ち上がれば、容赦なく公平に報道する。今は「九対一のぐらいの付き合い」による仲の良さ。これでは芸能人に都合の悪い話はできなくなる。結果、あまり付き合いのない事務所二所属するタレントのスキャンダルになると堰を切ったように叩く。要は弱い物イジメである。

 昔のように五分と五分の付き合いをすれば、また芸能マスコミは活気づくはず。常にニュートラルな姿勢で芸能ニュースを報道する「週刊文春」だけが芸能界と一線を引きながら戦っている。

ふただ・かずひこ
芸能ジャーナリスト。テレビなどでコメンテーターとして活躍するかたわら、安室奈美恵の母親が娘・奈美恵の生い立ちを綴った「約束」(扶桑社刊)、赤塚不二夫氏の単行本の出版プロデュースなども手がける。青山学院大学法学部卒業後、男性週刊誌を経て、女性誌「微笑」(祥伝社/廃刊)、写真誌「Emma」(文藝春秋/廃刊)の専属スタッフを経て、フリーとして独立。週刊誌やスポーツ新聞などで幅広く活躍する。現在は『おはようコールABC』(朝日放送)、『今日感テレビ』(RKB毎日放送)などにコメンテーターとして出演。

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