第7話終了後も酷評ばかりの『安堂ロイド』がほかのジャニーズドラマより“期待できる”理由

 10月より続々と放送がスタートした秋のテレビドラマも、いよいよ折り返し地点。今クールには、錦戸亮主演の『よろず占い処 陰陽屋へようこそ』草なぎ剛主演の『独身貴族』(共にフジテレビ)、長瀬智也主演の『クロコーチ』(TBS)、亀梨和也主演の『東京バンドワゴン』(日本テレビ)、そして木村拓哉主演の『安堂ロイド〜A. I. knows LOVE?〜』(TBS)と、ジャニーズドラマも多数ラインナップされている。そんな中、前クールの大ヒットドラマ『半沢直樹』の後枠であり、その斬新な内容などによって特に注目を集めているのが、11月24日に第7話の放送を終えた『安堂ロイド』だ。

『安堂ロイド』公式HPより

 同作は、03年にTBSの同枠で放送され、平均視聴率30.6%、最高視聴率37.6%を記録した大ヒットドラマ『GOOD LUCK!!』以来、木村拓哉と柴咲コウコンビが久しぶりに復活した作品。さらには、『ケイゾク』『SPEC〜警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿〜』という大ヒット作を生んだ、プロデューサーの植田博樹と脚本家の西荻弓絵が再びタッグを組み、『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズを手掛ける庵野秀明がコンセプト・設定協力で参加するなど、その豪華なスタッフ勢にも注目が集まっている。

 しかし、2113年の世界からやってきたアンドロイドをキムタクが演じる“SF作品”という斬新な設定がなかなか受け入れられなかったのか、降下する視聴率についてや「おもしろくない」という酷評ばかりが聞こえてくる。いくら視聴率が落ちているとはいえ、6話までの平均視聴率は13.72%で、『Doctor-X』(テレビ朝日/21.94%)、『リーガルハイ』(フジテレビ/18.57%)に続いて第3位につけており、『Doctor-X』『リーガルハイ』が以前ヒットした作品の新シリーズであるのに対して、『安堂ロイド』が完全オリジナルで戦っていることを考慮すれば、いささか酷評ばかりなのには疑問も残る。

 そこで「サイゾーpremium」では、1997年より「テレビドラマデータベース」を運営するテレビドラマ評論家・古崎康成氏に、今期のテレビドラマ作品における『安堂ロイド』の現在までの評価を聞いてみた――。

――早速ですが、古崎さんは『安堂ロイド』について、どう評価されていらっしゃいますでしょうか? 今期はジャニーズドラマがほかにもたくさんありますので、その中での評価も含め、教えてください。

古崎康成(以下、古崎) 前置きをさせていただくと、私自身はジャニーズ所属の役者が出ていようとジャニーズドラマと呼び別扱いすることはないのですが、あえて今期のジャニーズ主演のドラマを“ジャニーズドラマ”と呼んでそれに絞って見ていくと、木村さんの『安堂ロイド』は視聴率を取りに行っていないところがむしろ功を奏していて、作品としての期待値は高いと考えています。それから長瀬さんの『クロコーチ』に関しては、高学歴の経験不足のヒロインが相棒を務めるといった設定にどこか既視感が漂うのですが、話を次回に引っ張る要素が的確に放り込まれているので、続きを見たくなる構造がしっかり保てているのではないでしょうか。

 対して、錦戸さんの『陰陽屋へようこそ』、亀梨さんの『東京バンドワゴン』は全体に新鮮さが今ひとつ不足していて、展開も迷走気味で、ちょっと計算違いだったのではないかなという印象です。そして草なぎさんの『独身貴族』は、やや生硬な作りで、今ひとつ盛り上がりにかけるように思います。作り手側が何を描きたいのか、それ自体が今ひとつまとまっていないのかもしれませんね……。

 率直に申し上げて、最近の、まさに久々のドラマブームといったものにジャニーズドラマは乗り切れていません。むしろ“非ジャニーズドラマ”にこそ、人気が集まっているかのようにも思えます。それはやはり、“キャスティング先行”のドラマ作りが限界を迎えつつある、というところに焦点があるような気がするのです。

 そうした中においても、私は、『安堂ロイド』はとても健闘しているように思います。同作には、“非ジャニーズ的な面白さ”が尊重されているのです。

――その“非ジャニーズ的な面白さ”とは、どういった部分なのでしょうか?

古崎 同作における“非ジャニーズ的な面白さ”というのは、企画が“お仕着せ感”のあるもの、つまり「ジャニーズドラマだから」「キムタク主演だから」という、型にはめられたものにはなっていないところにあります。

 木村拓哉主演で、しかも前が『半沢直樹』ですから、当然、一定以上の視聴率を出すことが暗黙に求められている。普通なら、できるだけ多くの視聴者にとって取っ付きやすい、無難な作りを目指してしまい、小さくまとまったお話にしてしまいがちなところでしょう。しかし同作は、それをやらず、あえて冒険的な作りを志向しているのです。

 とはいえ、冒険的な作りといっても、ゴールデンタイムのテレビドラマゆえに一定の制約があります。お茶の間で見ている、普段SFに接したことのないような人にでもそれなりに興味をもって視聴してもらえる配慮が必要となるからです。そういう視聴者でもなんとかついてこられるところを拾いながらSFの先端をめざし走っている……そのギリギリ感がスリリングで興味深いのです。

――それがまさしく、冒頭でおっしゃられていたような、キャスティング先行での企画構成ではなく、制作サイドのやりたいことにキムタクが乗っかっている……ということですよね? 

古崎 その通りです。それがどこでわかるかといえば、本作は明らかに、作り手の、過去の作品からの成長過程で作られていることが見て取れるところにあります。たとえば、プロデューサーの植田博樹さん、脚本の西荻弓絵さんといえば、『ケイゾク』『SPEC』で知られる人たちです。それらの作品が目指していた世界観の上に『安堂ロイド』がたっていることが判るのです。

 また、同作は、植田さんが昨年プロデュースした中居正広さん主演の『ATARU』の延長線上にある、と言ってもいいかもしれません。『ATARU』も、『ケイゾク』や『SPEC』の系譜にあるドラマですが、同作では中居さんにサヴァン症候群の役柄を与え、“無機質の人格”というものを演じさせたことで、見事、彼の新しい境地を見せることにも成功しています。

 今回の木村さんのアンドロイド役もその系譜にあって、さらにSF寄りの企画にしてきたということなのでしょう。したがって、“木村拓哉のために企画した”というより、そういう企画が先に頭にあって、それに“木村拓哉が乗ってきた”というところが、キャスティング主導のドラマ作りとは大きく違うのです。

――ただ今回は、キムタクが演じるアンドロイドに“感情”を持たせることで、心を持った殺人マシーンの“葛藤”を描くことにも挑戦をしています。その結果、アンドロイドならではの無機質感があまりなく、そこについての酷評も散見されました。ロボットなのに食事をしたりと、人間らしさを感じさせる設定も「チープだ」と言われていますが、その辺りはどのようにご覧になられていらっしゃいますでしょうか? 同じアンドロイドなら、『Q10』の前田敦子さんのような無機質感のあるキャラクターに振り切ったほうが、新境地になったのではないかと思うのですが……。

古崎 まだ最終回までいっていないので、木村拓哉の新境地になったかどうかについては過去形では語れないと思うのですが、安堂ロイドの人間的な設定は、後半の展開が生きるように構成されているものではないか、と私は見ています。

 今でこそ、『Q10』の前田さんのアンドロイドもよかったと言われていますが、放送中は否定的な意見も多かったですよね。しかし、後半のストーリー展開によって、「非人間的な設定が哀しさを増幅させた」と評価されたわけですから、『安堂ロイド』の人間的な設定も、後半で生きてくる可能性は十分あるでしょう。前半が終わった段階では、よいと断言はできないが、悪くもないという認識だと思います。

――『安堂ロイド』に限らず、冒頭では、ほかのジャニーズドラマに比べると『クロコーチ』も評価されていらっしゃいました。共にTBSドラマになりますが、局別による作品のクオリティの差などもあるのでしょうか?

古崎 TBSには80年代前半までの「ドラマのTBS」という伝統が生きているんです。それぞれの演出家やプロデューサーが確固たる独自のカラーを持っておられて、役者さんたちをそのカラーに手繰り寄せて使うことが得意なのだと思います。対して、フジテレビや日本テレビはよくも悪くもキャスティング先行のドラマで伸びてきた局です。両局の演出やプロデュース陣も優秀なのですが、まずキャスティングを土台に発想していく制作体制から抜けきれていない。結果として「これが作りたい」という思いを強く押し出すことができないのかもしれません。

 そして、そうしたTBSのよき部分をうまく活用しているのが、木村さんの企画部隊や、中居さんの企画部隊なのではないでしょうか。彼らは、TBSとフジとで、だいたい交互にドラマ出演をするようにしていますよね。これには、フジ的なキャスト先行のドラマ作りで“アイドルドラマ”的な位置を押さえつつ、TBSによる作り手先行のドラマ作りで、「アイドル」の枠に留まらない、別のラインでの飛躍をうかがうという戦略なのではないでしょうか。

 逆に、同じSMAPのメンバーでも、草なぎさんは少々フジに寄りすぎている印象です。彼は、『僕の生きる道』(フジテレビ)で見事な飛躍を遂げられたわけですが、まだまだ伸びるよさを持っているのにも関わらず、その期待値と比較すると追いついていないように映ります。もっと飛躍できる役者さんのような気がしますね。

 また、KAT-TUNの亀梨さんも、ここしばらく出演しているのは日テレのドラマが大半です。日テレもフジもやって、さまざまな局の企画と組んだことがいい方向に作用している嵐の櫻井翔さんのように、彼もまた、もっといろんな局の制作現場を経験し、新しい血を取り込むべきです。今年の4月にフジテレビで放送された櫻井さんの『家族ゲーム』なんて、とても素晴らしかった。新しい境地をどんどん開いていこうとしている彼の企画部隊の認識もまた、冴えているのだと思います。

――今期のドラマの中で、ほかにも評価されていらっしゃる作品はありますか?

古崎 今期ですと、『安堂ロイド』のほかに、『ハクバノ王子サマ』(日本テレビ)『ごちそうさん』(NHK)『リーガルハイ』(フジテレビ)もおもしろく視聴しています。

『家政婦のミタ』(TBS)、『カーネーション』、『あまちゃん』(共にNHK)、『半沢直樹』(TBS)とヒットが続き、最近はテレビドラマも再評価されてきて、注目が集まりがちなんですよね。それ自体は喜ばしいことなのですが、連ドラ開始から間もない段階で、成功か失敗かを取り沙汰する傾向が高まって、中にはいささか乱暴な評論が横行しているように映ります。

 視聴率が10%だったとしても、関東地区だけで180万世帯の人が見ている勘定になりますし、『鈴木先生』(テレビ東京)のように、視聴率が低くても優れたドラマもあるわけで、テレビドラマの圧倒的な発信力を考えると、あまり早くから結論を急がないほうがいいように思います。

 まだ終了していない、中盤まで放送されたドラマのよし悪しについては、「少しでも視聴者に作品への興味をもってもらえるよう努力しているかどうか」というゴールデンタイムのテレビドラマに与えられた宿命をクリアしていることを大前提に、

(1)作品に何か作り手の伝えたい思いが込められていると感じられるかどうか?
(2)作品を後半に向けてどのように展開させていくか、作り手に一定のビジョ
ンが存在しているかどうか?

といった、巨視的な目で評価していくしかありません。細かい設定などについては、後半で生かされる可能性を踏まえると、まだまだその是非を見極めることはできないのです。

 そう考えた時、今期私が注目している4作品には、何か作り手の強烈な思いが感じられるのです。木村さんの安堂ロイドが人間的な設定にされているのも、視聴者の興味を引いて作り手のやりたいことを押し通すための、ギリギリの選択なのかもしれません。

***

 第6話でロイドは、「安堂麻陽を守るのは俺の意志だ」と言い放っていた。後半戦に向けて、アンドロイドによる“人間らしい”葛藤がより濃さを増してきた同作は、これからどんな展開を迎えるのか――?

 序盤で見るのをやめてしまった……という人も、ここから最終回までの展開に注目してみてはいかがだろうか。
(編集部)
 

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