哲学者・萱野稔人が語る禁煙ブームの本質──もはや“健康ファシズム”に抗うのは不可能! 不寛容さがもたらした規制と逆説

──ここまでは行政の規制のあり方から禁煙・嫌煙ブームを検証してきたが、その本質はどこにあるのだろうか?本誌連載陣のひとりでもある、津田塾大学准教授の萱野稔人氏が解説する。

萱野稔人氏の著書『新・現代思想講義ナショナリズムは悪なのか』

 まず、個人的な話から始めましょう。

 私がタバコをやめたのは今から15年前の1997年、フランス留学時代のことです。実は、それまでもタバコをやめようと何度かトライしたんですが、当時の日本ではまだまだ喫煙者が多数派で、「禁煙をしている」なんて言うと、周りから「何バカなことしてるんだ」とタバコを勧められたりして、なかなかやめられませんでした。タバコの値段も高く、勧めてくる人間もいないフランスで、私はやっとタバコをやめることができたんです。

 その頃と比べると、タバコをめぐる日本社会の状況は大きく変わりましたね。厚生労働省のデータ『国民健康栄養調査、成人喫煙率』を見ると、男性の場合、96~97年には50%を超えていた喫煙率が、この頃から減少トレンドに移行し、99年には50%を切るようになります。そして05年には40%を切り、09年の調査では、男性38・9%、女性11・9%、全体では25・4%となりました。

 今では、酒の席でタバコを勧めてくる人もいなくなったどころか、喫煙者自体が少数派に転じてしまいました。少数派に転じたことで立場も弱くなり、政治の場でもタバコの増税などをめぐって強い声を発することができなくなっています。この傾向は今後強まることはあっても弱まることはなく、喫煙者の立場はどんどん悪くなっていくでしょう。

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2024.4.29 UP DATE

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