石原都知事はゲイを叩く前に二丁目に遊びにいらっしゃい!!(怒)

 依然としてはるな愛などのオネエタレントが元気な一方、夜な夜なオネエ言葉が飛び交うゲイの街・新宿二丁目が、石原慎太郎東京都知事の手によって存続の危機にさらされている。生来のゲイ嫌いと見られる石原都知事のゲイバッシングに対し、二丁目ゲイバーのママたちが怒りの逆襲!

写真左/SHUNさん、中央/福島光生さん、右/まぁがりんさん

──新宿二丁目が危機的状況にあるとのことで、本日は二丁目にあるゲイバーの人気ママ3人にお集まりいただきました。事の発端は、06年9月2日付・東京新聞朝刊の「『東京五輪』招致 石原都知事に聞く」というインタビュー記事にて、石原都知事が「新宿二丁目と歌舞伎町は美観とはいえないよね。(中略)景観法ができたし、規制力のある条例を今年中に作ります」と語り、2016年夏季五輪の招致に向けて、二丁目への規制を公に明言したことによります。石原都政といえば、04年に始まった"歌舞伎町浄化作戦"で、歌舞伎町を一変させたことがあまりにも有名。エステやマッサージ店を装って性的サービスを行うなどの違法風俗店を大規模に摘発したり、迷惑防止条例を一部改正して客引き・スカウトを一掃するなどした結果、確かに歌舞伎町の安全面は向上しました。しかし、その一方で町全体の活気や客足は明らかに減ってしまっています。最近の二丁目も3〜4年のサイクルで新しいゲイバーが開店しては潰れ、客足も徐々に減りつつあるとのことですが、規制はもう始まっているのでしょうか?


福島 もとから二丁目では客引きなどの迷惑行為はないですし、石原都知事の言う"規制力のある条例"もまだ施行されていません。ただ、新宿二丁目を管轄している四谷警察が、110番で出動したついでにゲイバーを回って「管轄の警察署に深夜営業届(=深夜酒類提供飲食店営業届)を出しているか」と確認しているという話は聞きますね。いつ頃からだっけ?

SHUN 2年前の暮れに大きな取り締まりがあったのよ。ゲイバーは普通のバー・スナックと同様に「深夜酒類提供飲食店」の扱いだから、管轄の警察署に深夜営業届を出して、保健所で飲食店営業許可の手続きを取っていれば営業はできるの。ただし、カウンター越しに注文を取ったり、世間話をする程度なら問題ないんだけど、カウンターやボックス席でお客さんの隣に座って接客してしまうと、風営法違反になっちゃうんだけどね。

──それはなぜですか?

SHUN "接待"と見なされて、「社交飲食店」として風俗営業許可の手続きが必要になるの。そうすると、0時以降に営業できなくなっちゃうのよ。

──店を回っているのは、それを取り締まる目的もあるんでしょうね。筆者の知るゲイバーでは、私服警官が酔った客を装い潜入捜査していたそうです。

福島 そのように風営法が改正されたのは84年のことなんですが、当時はそれをきっかけにカウンターだけの構造に変えるゲイバーが相次ぎました。一方、カウンターだけにできないディスコのようなお店は、苦肉の策として「焼きそば」とか書かれたメニューを置いて、「スナック」に業種変更したり(笑)。

まぁがりん えー! そんなことがあったんですかぁ!?

ゲイの宿敵(?)石原都知事。

福島 そうなの。で、いつまたお上が一方的なことを言ってくるかわからないし、もし言ってきたら、個々のお店では対応できずに泣き寝入りするしかない。僕が現会長を務めている「新宿二丁目振興会」は、00年に始まったレインボー祭り(毎年8月に新宿二丁目で開催されるセクシャルマイノリティのお祭り)を行う目的で、先代会長が01年に立ち上げたものなんですが、現在は商店会として"個人商店を保守する役割"や"二丁目全体の活性化を図る役割"も担えればと思っています。

──具体的にはどんな活動を?

福島 加盟店で配布している「二丁目瓦版」の発行や、年末年始に「二丁目スタンプラリー」を開催したりしています。スタンプラリーは何軒かのお店を回ってスタンプを集めると、商品券などの懸賞に応募できる......言うなれば、商店会の福引きみたいなものかな。


──SHUNさんやまぁがりんさんのお店も、二丁目振興会に加盟されているんですよね。SHUNさんに至っては、同会の副理事とか。

SHUN レインボー祭りを開催するに当たっては、会長とアタシで四谷警察へ交渉しに行ったの。それから会長はよその町会の会合にも行くし、アタシも各地域の会長さんとお話させていただいたりしてる。こうして区民生活をちゃんと営んでいるということを見せていけば、行政の方々も理解を示してくれるんじゃないかと思うのよね。それに、万が一、二丁目潰しが現実味を帯びてきたとしても、振興会ならば行政やマスコミに働きかけやすいし。反対を述べる人の頭数が揃えば、機関も聞く耳を持ってくださるじゃない。

福島 ありがたいのは、昔から近隣地域に住む方々が協力的でいてくれること。「二丁目の活気が失われてしまうのは寂しい」とか「ゲイバーが繁盛しないと、地域全体の盛り上がりに欠ける」とか、そういう意識を持ってくれている。それに比べて、石原都知事は二丁目をひとつの側面でしか見ていない。「美観とはいえない」って、"汚い""雑多"とおっしゃりたいのだろうけど、それこそが繁華街の文化なのに。

オネエブーム、ゴミ、騒音......二丁目に渦巻く問題点

毎週、カリスマおネエたちが、メイクやファッションなどのトレンド情報を紹介する『おネエMANS』。かつてほどの人気はなく、もはやブームは去った!?

──最近は二丁目のゲイバーで、ノンケ(=異性愛者)の姿が日常的に見られるようになりました。これは、テレビ番組の『おネエMANS』(日本テレビ)などが影響しているのでしょうか?

まぁがりん その傾向は20年前にはすでにあったから、『おネエMANS』はそんなに関係ないでしょう。ていうか、アタシはあの番組ってよろしくないと思うわ! 出演しているゲイたちって、仕事だからあんなピエロになりきっているわけでしょう。でも、二丁目にいるゲイの中であそこまで様子がおかしい人は、おそらく1%もいないと思うの。もっと普通の格好をして、普通の感覚を持って、普通に生きてる人が大半よ。それなのに、あんな面白おかしいものと期待されてノンケに二丁目に来られちゃ迷惑!


福島 僕も『おネエMANS』はゲイにとって弊害があると思う。彼らがオネエキャラで売っているのは、あくまで自分の仕事にメリットがあるからで、それと二丁目にいるゲイたちを同一視しちゃダメ。ただ、ノンケを主な客層としている「観光バー」と呼ばれる店では、バリバリのオネエ言葉で接客してるママさんもいたりしますけどね。

SHUN いるいる~......ってアタシもそうだから、人のこと言えないんだけどさ! ところで客層の幅が広くなった分、二丁目のゲイシーンにまとまりがなくなってしまった気がするわ。

福島 歌舞伎町や六本木、銀座などから「二丁目なら朝方までやってるから行こうぜ」と流れてきたり、二丁目近辺でオープンしたホストクラブのお客さんが遊びに来たり......以前はゲイばかりの街だったのに、すっかり様変わりしてしまった。

──メディアの影響で二丁目が観光地化したことによって、ノンケの客足は増えた半面、リラックスできなくて窮屈な思いをしているゲイも多いと聞きます。この傾向は、大体いつ頃から始まったのでしょうか?

SHUN 96〜97年頃から急に変わり始めたわね。おそらく原因はネットの普及と、テレビなどメディアの影響で二丁目が広く知られるようになったこと。お店側も軒数が少なかったときは、店同士の連帯感がすごく強かったのよ。だけど、若い世代が経営するお店やらが増えて、店ごとに客層のターゲットを絞るようになってくると、次第に店同士のつながりも希薄になり......。昔からある先輩方のお店では、深夜0時を回るとカラオケのボリュームを下げるとか、近隣住民への配慮が見られるけど、若い世代のお店だと盛り上がってくるのが午前3時以降。かといって生活が懸かっているわけだから、一概にアタシたちが注意するわけにもいかず......。ただ、そうやって二丁目全体で保ってきた社会性が欠け始めているのは事実。中には明け方まで営業していて、収集車が行った後にゴミを出す店まであるし。そうでなくても、ゴミの不法投棄が増えているのにさ!

福島 年末になると、二丁目はゲイバーが開店する時間までゴーストタウン化するから、それを狙って捨てに来る奴がいるんだよね。振興会のある会員さんが発見したときは、わざわざトラックでやって来て、ゴミ捨て場にどんどんゴミを積んでいったらしい。それで慌てて通報したんだけど、警察から「その場で言ってくれないと対応できない」と言われてしまったって。そういう問題が起きてしまうと、行政に悪印象を持たれかねないから厄介だよね。

SHUN あと、二丁目ってこんだけ店がひしめき合っている上に住居地域も伴っているから、ノンケが外でギャアギャア騒いでいたりすると、すぐに通報されちゃう。現に騒音問題での通報率が、ちょっとずつ高くなってきているのよ......。おかげで08年のレインボー祭りは、警察から開催の許可がなかなか下りなかったわ。「騒音による通報があった場合、来年は自粛します」って念書まで書かされたもの。

かつてほど活気のない、新宿二丁目のメインストリート「仲通り」。

福島 「年に一度のお祭りで、しかも限られた時間内だからいいじゃないか」と考えてしまいがちだけど、実はそうじゃないんだよね。古くから住んでいるわけではない近隣住民の方々からすると、「一年中深夜の騒音に苦しめられているのに、さらにまたでかい音を出すとはどういうつもりだ!」と思ってしまう。そして、その気持ちはすごく納得できるんです。

──特に最近は二丁目付近に住居ビルが続々と建ち始めているので、そうした逆風はさらに強まりそうですね。

福島 ええ。ただ、そうやって二丁目付近に住居ビルを増やすことで、都政が徐々に圧力をかけている......という考え方もできるんですよ。表立った規制がない一方で、そういった勢力に我々はジワジワ囲まれ始めているのかもしれません。


SHUN そんな手に屈しないためにも、今後は地域ぐるみでモラルを向上させていくことが必須だと思うわ。お掃除もちゃんとしなきゃ!

ゲイは"ゲイになること"を選んだわけじゃない

──過去に「俺はナマコとオカマは大嫌いだ」という暴言を吐いたとされるなど、石原都知事には以前からゲイに対して差別的な兆候が見られます。そのことについてはどう思われますか?

SHUN 嫌いなら嫌いで結構よ! でもさ、ほとんどのゲイって一生独り身だから税金の控除額も少ないわけだし、ぶっちゃけノンケの方々よりお国のために多くお金を支払っていると思うのよ。アタシたちゲイバーのママだって、所得税、住民税、消費税、事業税を納め......それも、朝方まで働いているのに、お役所や銀行がやってる時間帯にわざわざ出向いて納めてるわけよ。この不況のご時世に、従業員も雇用しているし。正直、ゲイバーをやるよりコンビニとかで堅実に働いたほうが幸せになれると思うんだけど。お弁当チンするときに、やけどしちゃったりするかもしれないけどさ! でも、そうやって真面目に生きている都民の生活の場を、ひとつの側面だけでとらえて、まるで汚いかのような物言いをされるのは心外だわ。

福島 そもそも石原都知事には、根本的にセクシャルマイノリティに対する大きな誤解があると思う。ゲイっていうのは、選んでなったわけじゃないからね。ノンケの方々は思春期に異性に対して興味を抱くけれど、我々はなぜか同性に対して興味を持っただけで。

まぁがりん そう、たまたまなのよね。

福島 体に障害がある人や、うつ病を患ってしまった人も、別に自ら選んでそうなったわけじゃない。だからこそ、苦しんでいるわけで。我々だってさまざまな苦しみや葛藤を乗り越えて、"ゲイとして生きること"を選んだとはいえ、決して"ゲイになること"を選んだわけじゃないんですよ。そういう人々が集まっている場所に対して「美観とはいえない」と発言するなんて、「お前らは汚いから目障りだ」と言っているのと、なんら変わらない。

──そうですね。そして、ああいった発言を迷うことなく載せてしまう東京新聞側にも疑問を感じます。

福島 00年の「三国人発言」に匹敵するくらい、差別的な表現ですよね。ただ、こういう主張を我々ゲイシーンが声に出して主張してこなかったことにも問題があります。その溝を埋めるためにも、今後もレインボー祭りなどでアピールしていくつもりではいますが。

まぁがりん でもさ、『おネエMANS』みたいな番組がゴールデンタイムに成立するってことは、それだけゲイに対する需要が高まっているってことだと思うの。実際に二丁目にもノンケが出入りするようになって、もうゲイだけのアンダーグラウンドな場ではなくなっているわけだし。そうやってノンケとゲイは共存共栄してきているのに、石原さんってば、いつの時代の価値観で物事を考えているのかしら!? 一度も来たことなんかないくせに!!

SHUN 東京都の職員さんたちは、大勢飲みに来てるけどねぇ(笑)。本気で規制したいなら、ちゃんとご自分の部下に「二丁目には行ってはいけません」ってくぎを刺しとかなきゃダメじゃないねぇ~。

まぁがりん ゲイバーが1つの地域に200店舗以上密集しているという点で、新宿二丁目は"世界一のゲイタウン"とも言われているんだから、日本の文化としてもとらえられると思うの。

──おっしゃる通りです。もうこの掲載誌、石原都知事に送ってやりましょう。ということで、最後に石原都知事に向けてメッセージをお願いします。

福島 繰り返しますが、セクシャルマイノリティは選んでなったわけじゃない。みんなそれぞれ苦しみを抱えて、それを受け入れた上で新宿二丁目に集まってきているのに、そこをどうしていじめるんですか?

SHUN 今の新宿二丁目がどうして納得いかないのか、またどのように変わったら納得できるのかということを、アタシたちにも理解できるように示してもらいたい。「美観とはいえない」の一言だけで済ましてしまうのは、いささか人道的ではないわね!

まぁがりん アンタが都知事としての任期を終えたって、アタシたちオカマの任期は続いていくんだからね! アンタには屈しないわよー!!


(構成/アボンヌ安田)
(写真/田中まこと)

みんな石原都知事にプンプン! 左から・SHUNさん 1971年生まれ。93年、新宿二丁目にゲイバー「10count」をオープン。ゲイの客がリラックスできるように、紹介以外での女性の入店は断っているそう。新宿二丁目振興会副理事。/福島光生さん 1958年生まれ。97年、新宿二丁目にゲイバー「メゾフォルテ」をオープン。こちらも週末は、基本的に女性の入店は断っているとのこと。新宿二丁目振興会会長。ライターとしても活躍し、共著『ソメイヨシノは、実をつけない』(メディアファクトリー)がある。/まぁがりんさん 1971年生まれ。93年、新宿二丁目にゲイバー「あっぱれ!」をオープン。テレビや雑誌などのメディアでも活躍中。新宿二丁目振興会会員。


二丁目初心者のノンケがやっちゃいけないご法度

ノンケが出入りするようになったとはいえ、未経験者にとってはまだ敷居が高い新宿二丁目。ノンケのお客も多いゲイバー「あっぱれ!」のママ・まぁがりんさんに、"ノンケがゲイバーでやってはいけないご法度"を聞いた。

「アタシはもうこの道長いから、ちょっとやそっとのことじゃ怒らないけど、それでも過去15年くらいのうちに、女の子の客を3人追い返したことがあるわねぇ~。ドアを開けて外に出して、荷物もバーンと投げつけて『お金いらないから帰んな!』みたいな。そういう子はねぇ、"お金払えば何したって許される"と思ってるのよ。たとえば初対面のゲイのお客さんを指さして『アンタ、どんな男がタイプなの!?』とか『どんなセックスしてるの!?』とか失礼なことを聞いたり。アタシたちお店のスタッフは何を言われても構わないけど、ほかのお客さんに対して失礼なことをする子は、ちょっと困っちゃうわね。この街でアンタたちは"ホーム"ではなく"アウェイ"なんだってことを忘れないでいただきたいわ。

ノンケの男性のお客さんではあまり嫌な思いをしたことがないんだけど、強いて言うならそうね、知り合いに連れてこられて席に着いたはいいけど、あとはダンマリ......みたいな人は困るわね。だからといってアタシが下ネタの話をしたときに『オカマ気持ちわりー』とか、そういう発言はNGよ? できたら勝負パンツとかはいてきて、それをチラッと見せてもらえると、アタシたちのテンションも上がるんで、よろしくお願いしまーす(ハート)」

ちなみに、ノンケはゲイよりもチャージ料金が少々高め(500円など)に設定されているのが一般的だったり、店によっては一見さんお断りのところもあるので、初めて行くときは経験者を伴ったほうが、戸惑わずに済むかも。

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