マスコミに不信感を抱き続ける、北朝鮮拉致被害者家族たちの「恨15年」

――拉致被害問題を報じるマスコミの様子がどうもおかしい。キム・ヘギョンさんをインタビューしたフジテレビほか、拉致被害者やその家族に単独取材を行った「週刊金曜日」「週刊朝日」などには、世論のみならず、マスコミ内部からも批判が集中した。一方で、多くの報道に「腰が引けた」ところを感じるのも事実だ。今、マスコミと拉致被害者サイドの間には、いったい何が横たわっているのか?

拉致被害問題はメディアにも大きな影響をもたらした。

 今年1月26日。「北朝鮮による拉致被害者の家族連絡会」(家族会)の会合が、東京・芝で開かれていた。横田めぐみさんの父・滋さんが希望していた訪朝を当面見送る方針がこの場で決められ、直後の記者会見で発表された。民放の女性記者2人が相次いで「年末の段階では訪朝を希望していたが、心情が変化したのか?」との質問を投げた。

 茂さんが「心情的には、まったく変わっていません」と答える。拉致被害者の蓮池薫氏のアにで、家族会事務局長の蓮池透氏が、後に物議を醸すことになる発言をしたのは、このときだ。

「質問した人に聞きたいんだけど、横田さんを訪朝させたいんですか?」

 質問した記者2人は「そういう意図ではありません、横田さん自身が、相当にお悩みになったのではないかと思って」と答えた。しかし蓮池氏は、激高して叫んだという。「だから、もう決まったって言ってるじゃないか!」「家族会で決めたって言ってるじゃないか!」

 その2日後、新聞、放送、出版などの各社・団体でつくるマスコミ倫理懇談会の例会が、蓮池透氏を講師に招いて開かれた。ここで、参加者の新聞社幹部が蓮池氏に質問した。

「われわれは一面だけに偏らない報道をする役割を担っている。場合によっては、被害者にとって不本意かもしれない報道をする必要があると思う。あなたは、それすら今は報道すべきではないとお考えか」

 しかし、蓮池氏はこう切り捨てた。

 「拉致問題については、多様な意見というのはありえない」

 思わず質問者が返す。「だとすると、あなたの意見は北朝鮮の言い分と変わらないような気がする」

 知らない人も多いだろうが、北朝鮮拉致問題をめぐり、記者会見や懇談会の席では、こうした激しい“戦い”が延々と繰り広げられている。しかもその戦いでは、マスコミ側が一方的にパンチを浴びせられている状態だ。たとえば「週刊朝日」が今年1月、地村保志夫妻に単独取材を敢行し、家族会と「北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会」(救う会)から激しい批判を浴びた件。同誌の取材のあり方をめぐる議論はほとんど行われないまま、朝日側は全面謝罪。編集長の停職処分などをいち早く発表してしまった。いったい拉致報道の現場で何が起きているのだろうか。

 そもそも、拉致問題をめぐる報道では、かなり異常な取材ルールが取り決められている。

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