映画でわかるアメリカがわかる
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町山智浩の「映画がわかる アメリカがわかる」 第44回

素朴な田舎者に宿る古き良きアメリカの魂

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雪に隠れた岩山のように、正面からは見えてこない。でも、映画のスクリーンを通してズイズイッと見えてくる。超大国の真の姿をお届け。

シダーラピッズ

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主人公のティム(エド・ヘルムズ)は、しがない保険のセールスマン。自らが生まれ育った小さな町からも出たことがなかった彼に、大都市シダー・ラピッズで行われる保険組合の研修に出席するよう命令が下る。研修の場で出会った3人の保険マンに振り回されるティムに、さらなる不幸が訪れる......。

監督/ミゲル・アルテタ 出演/エド・ヘルムズ、ジョン・C・ライリー、アン・ヘッシュ、シガニー・ウィーバーほか 日本での公開は未定

 ウィスコンシン州はNFLの強豪グリーンベイ・パッカーズとミルウォーキーのビール、それに乳牛で有名だが、アメリカでは評判がよくない。ケヴィン・スミス監督のコメディ映画『ドグマ』(99年)では、神に反逆した堕天使がウィスコンシンに追放されてしまう。「退屈すぎて地獄よりつらい場所だから」という理由で。

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町山智浩の「映画がわかる アメリカがわかる」 第43回

会社人間とアメリカが夢見る再建への道

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雪に隠れた岩山のように、正面からは見えてこない。でも、映画のスクリーンを通してズイズイッと見えてくる。超大国の真の姿をお届け。

『カンパニー・メン』

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ボストンの船舶会社に勤めていたボビー(アフレック)は、公私共に充実した日々を送っていた。しかし、08年の金融崩壊の余波を受けて行われた会社の人員削減により、彼はリストラの憂き目にあってしまう。同時にこのレイオフによって職を失った50代のウィル(クリス)や元重役のジェン(トミー・リー)、それぞれが再起をかける姿を描いている。
監督/ジョン・ウェルズ 出演/ベン・アフレック、クリス・クーパー、トミー・リー・ジョーンズほか 日本での公開は未定

「このCompany man(会社人間)め!」

 映画『摩天楼を夢みて』(92年)で、アル・パチーノ演じる不動産のセールスマンが、官僚的な支店長(ケヴィン・スペイシー)をそう言ってなじる。「会社人間」という罵倒はアメリカにもあるんだなあ。

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町山智浩の「映画がわかる アメリカがわかる」 第42回

ウォール街の保安官を"ハメた"のは誰だ!?

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『クライアント9/エリオット・スピッツァーの興亡』

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 圧倒的な票差により、07年のニューヨーク州知事に就任したエリオット・スピッツァーをめぐる政治ドキュメンタリー。あまりの人気ぶりに、一時は「米国大統領に」との声も聞かれたスピッツァーだが、高級デートクラブの上客だったことがニューヨーク・タイムズで報じられた。州知事就任前の州司法長官時代、多くの売春組織を摘発したという彼の経歴が、件のスクープにつながったと見る向きもあるが......。

監督/アレックス・ギブニー 日本での公開は未定。

 2008年3月10日、ニューヨーク・タイムズ紙が、FBIによる高級デートクラブ摘発を報じた。裁判所に提出された書類によると、首都ワシントンのホテルでコールガールと会っていたクライアント(顧客)ナンバー9は、ニューヨーク州知事エリオット・スピッツァーだった。FBIは電話盗聴でその事実を確認した。

 スピッツァーはニューヨーク州の司法長官として徹底的に大企業と戦ったヒーローだった。株の違法捜査や独禁法違反を取り締まり、NYSE(ニューヨーク証券取引所)の会長すら収賄で起訴し、「ウォール街の保安官」とたたえられた。ソニーがラジオ局に払っていたペイオーラ(賄賂)を摘発して莫大な罰金を払わせたこともある。

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町山智浩の「映画がわかる アメリカがわかる」 第41回

アメリカを賢くする! スーパーマンの狙い

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雪に隠れた岩山のように、正面からは見えてこない。でも、映画のスクリーンを通してズイズイッと見えてくる。超大国の真の姿をお届け。

『スーパーマンを待ちながら』

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 荒れた教室、少ない教育予算、やる気のない生徒と教師たち......。優秀な留学生が各国から集まるため、高等教育はピカイチだが、国民の教育水準は先進国最低クラスだというアメリカでは、現在、政治レベルで教育の見直しが議論されている。だが、拡大する貧困層には、子どもの教育にかまっている余裕はない。結果、負のスパイラルへと陥っていくが、そこで注目を集めたのが独自の教育カリキュラムだ──。アカデミー賞受賞作『不都合な真実』の監督が教育問題に斬り込んだ意欲作。
監督/デイヴィス・グッゲンハイム 日本での公開は未定。

 『スーパーマンを待ちながら』──このドキュメンタリー映画の奇妙なタイトルは、ニューヨークの黒人街ハーレムで育った教師ジョフリー・カナダの言葉から取られている。

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町山智浩の「映画がわかる アメリカがわかる」 第40回

Facebook創業者は裏切り者か英雄か?

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雪に隠れた岩山のように、正面からは見えてこない。でも、映画のスクリーンを通してズイズイッと見えてくる。超大国の真の姿をお届け。

『ソーシャル・ネットワーク』

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 世界最大のSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)「Facebook」の創設者マーク・ザッカーバーグの半生を描いた若きIT長者の人物伝。ハーバード大学に通う19歳のマーク青年は、友人とともにSNSを開発、公開した。瞬く間に拡散した同サービスは、やがてナップスターの開発者と出会うことで爆発的なブームを巻き起こすが......。監督/デヴィッド・フィンチャー 脚本/アーロン・ソロキン 出演/ジェシー・アイゼンバーグ、ブレンダ・ソング、アンドリュー・ガーフィールドほか。日本では2011年1月15日より公開。


 映画『ソーシャル・ネットワーク』は、世界一のSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)、フェースブックの創成期の物語だ。

 フェースブックの会員は自分のページに名前、顔写真、仕事、趣味などの個人データを掲載する。その人とフレンド(友達)になりたい人はリクエストを送って受理されるのを待つ。2004年に始まったフェースブックはものすごいスピードで友達の輪を広げ、現在の会員は全世界に5億人。全人類の14人にひとりの計算になる。

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町山智浩の「映画がわかる アメリカがわかる」 第39回

経営者、経済学者、官僚 金融業界の犯罪者たち

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『INSIDE JOB』

 08年に起こった世界的な金融危機──世界各国では、数百万人もの人々が職だけではなく住居までもを失った。だが、大手金融機関の幹部らは、天文学的な報酬を受け取り続けている。ここに矛盾はないのだろうか? そして、最悪の金融危機を引き起こした犯人は誰なのだろうか? 金融業界や学術界、政治家らへの濃密な取材から、問題点を浮き彫りにするドキュメンタリー映画の注目作。

監督/チャールズ・ファーガソン ナレーション/マット・デイモン ※日本での公開は未定。


 映画『ウォール・ストリート』は、『ウォール街』の23年ぶりの続編だ(ややこしい邦題だなあ、もー)。

『ウォール・ストリート』は、前作でインサイダー取引によって逮捕されたカリスマ株取引人ゴードン・ゲッコー(マイケル・ダグラス)が、2001年に刑務所から出てくる場面から始まる。21世紀になって携帯電話は小さくなったが、ウォール街は巨大化した。デリバティブ、CDO(債務担保証券)、レバレッジ、ヘッジファンド......証券マンは庶民から預かった年金を使ってギャンブルする。ゲッコーは言う。

「今のウォール街に比べたら、私のインサイダー取引なんて駐車違反だよ」

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町山智浩の「映画がわかる アメリカがわかる」 第37回

アメリカ軍部が隠蔽した英雄の死と味方の誤射

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『THE TILLMAN STORY』

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 02年、9.11の悲劇を受けて、NFLのスター選手にもかかわらず、多額の契約金を蹴ってまで陸軍に志願したパット・ティルマン。だが、訓練を終えた彼は"アメリカの正義"を疑いつつも、祖国のために戦地に赴くことに。その結果、不幸にもアフガンで名誉の戦死を遂げた。ところがその後、彼の死が味方の誤射によるものだと調査部隊により発表されたのだ。国家への不信と隠蔽工作を疑うティルマンの親族は、軍の高官を公聴会に引きずりだしたが......。アミール・バーレヴ監督のドキュメンタリー映画。※日本での公開予定はありません。


「バットは神になんか召されていない」

 アフガニスタンで戦死した兄パット・ティルマンの葬儀で、弟のリッチ・ティルマンは、列席した軍や政治、スポーツその他各界の名士たちに向かって、吐き捨てるように挨拶した。「兄貴は宗教なんか信じちゃいなかった。あんたらがどんなに彼を聖人にしたてようとも、兄貴はただ死んじまっただけだ!」

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町山智浩の「映画がわかる アメリカがわかる」 第36回

虚言か陰謀か? 資本主義とオイルビジネスの崩壊

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【今月の映画】

『COLLAPSE』
 CIAと麻薬製造の関係を調査するクリス・スミスは、かつてロサンジェルスの警官だったマイケル・ルパートに出会う。だが、彼の口から発せられたのは、麻薬の話ではなくオイルビジネスと国家崩壊の密接なつながりだった。ブッシュ政権のイラク侵攻やバイオエタノールの開発まで、知られざるエネルギーと国家の関係が浮き彫りになるが......。

監督/クリス・スミス 出演/マイケル・ルパート


『コラプス(崩壊)』は、トーキョーMXテレビで毎週金曜夜11時半から放送中の『松嶋×町山 未公開映画を観るTV』で10月に放送予定です。

 2009年2月、ドキュメンタリー映画作家クリス ・スミスは、CIAのコカイン密売についての映画を作るため、取材をしていた。

 CIAは過去に2度、麻薬密売にかかわっている。最初は1960年代の終わり、ベトナム戦争の最中。ベトナムの隣国ラオスの社会主義勢力を抑えるため、CIAは密かに地元の山岳民族を反共ゲリラへと育てた。その時、山岳民族は、ケシの実から作るヘロインを密売して資金を稼いでいたのだ。

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町山智浩の「映画がわかる アメリカがわかる」 第35回

ベトナムの二の舞か? アフガン戦争の真実

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【今月の映画】

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『RESTREPO』
 アフガニスタンの中でも最悪とされる戦闘に従事した、アメリカ兵たちに密着したドキュメンタリー作品。銃弾が飛び交う中で回されたカメラが映したものは、兵士1人ひとりの真実だけではなく、一般人への被害や治安維持、さらには復興といったアフガン戦争の側面を浮き彫りにしている。2010年、サンダンス映画祭ドキュメンタリー部門受賞作。

監督/ティム・ヘザーリントン、セバスチャン・ユンガー 日本での公開は未定。


 今年6月、アメリカ軍アフガニスタン方面総司令官のスタンレー・マクリスタル将軍が辞任した。ロック雑誌「ローリングストーン」に彼がバイデン副大統領をはじめオバマ政権の閣僚を批判するインタビューが掲載されたからだ。酒の席での失言だったが、文民統制の原則に反するとされた。マクリスタル将軍はアフガニスタンでCOIN作戦を推進していた。その作戦の実態を描いたドキュメンタリー映画『レストレポ』が皮肉にも将軍辞任と同じ週にアメリカで公開された。
 
『レストレポ』は2007年5月、第173空挺部隊の兵士たちがアフガニスタンに到着するところから始まる。兵士はみんな20歳前後の若者たち。装甲車に乗って険しい山を登っていく途中で爆音と共に画面が白煙に包まれる。路肩爆弾だ。待ち伏せしていたタリバンからの銃撃。反撃する米兵。怒号と銃声。開巻数分で、観客は戦場に引きずり込まれる。

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町山智浩の「映画がわかる アメリカがわかる」 第34回

ダニによる奇病なのか? 米医師会が揺れる大論争

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【今月の映画】

『UNDER OUR SKIN』
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アメリカの医師会に疑問をなげかける医療ドキュメンタリー。これまで抗生物質の投与で完治していたかに見えたライム病。だが、治療後も、さまざまな病状を訴える患者が続出。だが、医師会は関連性をみとめようとはしなかった。その裏にはアメリカの歪んだ医療保険システムがあった──。

監督/アンディ・アブラハム・ウィルソン 出演/マンディ・ヒューズ、ジョーダン・フィッシャー・スミスほか。『アンダー・アワー・スキン』は東京MXテレビ毎週金曜夜11時半からの「松嶋×町山 未公開映画を観るTV」で8月以降に放送します!


「ハイキングに行くなら、ダニにだけは気をつけて」

 コロラド州ボウルダーというロッキー山脈の麓の町に住んでいた頃、近所の人にそう言われた。 「ロッキーに住むダニは凶悪なの。私は高校時代に山登りした時、チクって刺されて、そのまま歩いていたら目がくらくらして気がついたら山の斜面をゴロゴロ転落してたわ」

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マル激 TALK ON DEMAND
神保哲生×宮台真司の
マル激 TALK ON DEMAND
『ゲストと共に“ワンテーマ”を掘下げるネット発の時事鼎談。』

宇野常寛の批評
宇野常寛の
批評のブルーオーシャン
『さらば、既得権益はびこるレッドオーシャン化した批評界!』

“超”現代哲学講座
哲学者・萱野稔人の
“超”現代哲学講座
『国家、権力、そして暴力とは何か?知的実践による解説。』


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