安倍晋三元首相銃撃事件から3年が経ち、ようやく始まった山上徹也被告の裁判。本来であれば世間からも重い判決が望まれるところだが、被告が受けた旧統一教会による宗教的虐待に同情の声が相次いでいる。しかも、殺害の背景だけでなく、使用された手製銃の口径も問題視されている。この裁判の争点について考える。
凶弾に倒れた安倍晋三元首相の国葬。(写真:Universal History Archive/Universal Images Group via Getty Images)
「安倍元首相の家族には何の恨みもない。この3年半つらい思いをしてきたと思う。私も肉親が突如として亡くなる経験をしていて、弁解の余地はない」
2022年7月8日、奈良市内で参院選の応援演説中だった安倍晋三元首相を銃撃して殺害したとして逮捕・起訴された山上徹也被告の公判が、25年10月28日に奈良地裁で始まった。冒頭の言葉は、12月4日に行われた第14回公判で山上被告の口から語られた。
同被告は銃刀法違反や武器等製造法違反など5つの罪状で起訴されているが、新たな証言や被告の過去が語られることで、世間の見方は徐々に「被告寄り」になりつつある。
11月18日に開かれた8回目の公判には第7回に引き続き被告の母親が出廷し、「私が加害者」と認め謝罪を繰り返したものの、世界平和統一家庭連合(以下、旧統一教会)から脱会していないことを明らかにしており、人々はその強烈な信仰心に驚かされた。
さらに同月19日の9回目の公判では被告の妹が出廷して証人尋問が行われ、母親について「母の皮をかぶった信者が母のふりをしていると思った」と証言。
1億円もの多額の献金によって家庭が崩壊したことなど、山上被告の母親を通しての「宗教的虐待」も公判の大きな焦点となっている。
だが、山上被告は初公判の罪状認否で「すべて事実です。私がしたことに間違いありません」と述べ、日本を震撼させた事件の殺人罪を認めている。そのため、「テロリスト」として非常に重い刑罰が適用される可能性もあるのだ。
山上被告は極刑となるのか、それとも宗教的虐待が考慮され、期限付きの懲役刑となるのか──。
「元首相という極めて著名な人物を標的とし、しかも手製の銃を使用した事件であるため、社会不安を強く喚起しました。そのため、量刑は相当重くなるものと予想されます」
そう語るのは、グラディアトル法律事務所新潟オフィスの清水祐太郎弁護士。
「ただ、最近の報道では被告の生い立ちや家庭環境も詳細に伝えられており、公判ではそうした事情も一定程度考慮されるでしょう。それらがどこまで量刑に反映されるかが、最大の注目点となります」(同)
山上被告に適用されている殺人罪や、旧統一教会の関連施設が入るビルに対する建造物損壊の罪などについては、検察側・弁護側双方に争いはない。
しかし、両者の主張が真正面から対立しているのが、銃刀法違反の「発射罪」をめぐる部分である。発射罪とは、公共の場などで銃を発射した行為を処罰する規定だ。
「今回の争点のひとつは、被告が使用した手製の銃が『拳銃』や『砲』に当たるのかです」(同)
山上被告が使用した手製銃は全長約40センチ、全高約20センチ。この「手製」の銃が法的な評価をより複雑にしている。検察側はこの手製銃が銃刀法上の「砲」に当たると主張。砲は「拳銃等」に含まれ、これに該当すれば銃刀法の「発射罪」に問うことが可能となる。法定刑は無期または3年以上の有期懲役という、極めて重いものである。
これに対して弁護側は「山上被告の手製銃は砲には当たらない」と反論。砲どころか「拳銃等」にも該当せず、銃刀法に基づく発射罪は成立しないと主張している。
「量刑そのものは拳銃か砲かで大きく変わるわけではありません。ただ、『砲に該当するかどうか』は発射罪の成立に直接関わります。仮に砲に当たらなくても、火薬を使って弾丸を発射する装薬銃砲に該当すれば、別の銃刀法違反が成立する可能性はあります」(同)
しかし、その場合は発射罪に当たらない。
「だからこそ、検察と弁護側は『砲に該当するかどうか』を最大の争点としているのです。ただ、個人的には検察側の主張どおり『砲に該当する』と判断され、銃刀法違反も認められる可能性が高いという印象を受けます」(同)
一方、刑法には「一個の行為が複数の罪名に触れる場合は、最も重い刑で処断する」という「観念的競合」の原則がある。そのため、仮に殺人罪が適用されれば、銃刀法違反による加重が量刑に反映されないのでは?