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『ケアを紡いで』大宮浩一監督インタビュー

ステージ4のがんの妻とその夫を映したドキュメンタリー映画『ケアを紡いで』が伝える「生きる喜びと葛藤」

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映画『ケアを紡いで』より。©大宮映像製作所

――映画では、ご夫婦が富士山に登ったり、結婚パーティーを開くようすも映し出しています。体力的には負担だったと思いますが、それでもやりたいという思いが強かったのでしょうか。

大宮 そうですね。様々なリスクを抱えながらも、それでもやりたいというゆずなさんの思いが強かったのでしょう。富士山に登るためには、低い山から練習して、すごく時間をかけて準備したようです。そんなゆずなさんを全面的に受け止める翔太さんの姿も素敵だと思いましたね。

――また、ゆずなさんが居場所として通うようになったNPO法人「地域で生きるナノ」に集う、高次脳機能障害の谷口正幸さん(代表の谷口眞知子さんの長男)をはじめ、さまざまなハンディキャップがある人たちや、支援者たちも映し出されていて、その素顔が印象的です。社会のなかで生きづらい事情や障害のある人が過ごせるこのような場所があることにホッとしました。一方で、ゆずなさんは「同年代の友達と集まると、仕事や子育ての話ばかりで、自分がそこに入っていけないのを感じる」とも語っていて、本当は同じ年代の女性たちと一緒に過ごしたかったのかな、と思うと切ない気持ちにもなりました。

大宮 ゆずなさんと翔太さんのご夫婦だけではなく、「地域で生きるナノ」の人たちと一緒に過ごしたり聞き役になっているゆずなさんの姿を映すことも、ゆずなさんの想いを伝えるには必要だと思って撮影させてもらいました。看護師だったゆずなさんですから、「地域で生きるナノ」で過ごしていても、ついつい周りに気配りしてしまう。自分のことだけを心配していればいいのに、と思うこともありました。また、「地域で生きるナノ」に通ってくる人たちは、さまざまな背景を持っている方々なので、撮影の許可をいただくのは簡単ではありませんでしたが、時間をかけて話し合い、それぞれの想いを語っていただけました。

――特に、後半だんだん体力が弱っていくゆずなさんを見ているのはつらかったです。そんななかでも、心に残ったのは常にお互いへの思いやりを忘れないゆずなさんと翔太さんご夫婦の温かい笑顔でした。

大宮 ゆずなさんはたくさんの人たち、特に自分と同世代の人たちにこの作品を見てほしいとおっしゃっていました。いわゆる闘病ものにはしたくなかったし、大変ななかでも小さなことにも喜びを見つけられるのが人間だと思います。この映画は、ゆずなさんご夫婦とその周辺の方々の言葉や表情を直球で伝えたつもりです。『ケアを紡いで』というタイトルには、これまで看護師としてケアをする側にいたゆずなさんが、ケアを受ける側になり、さまざまなことを感じていく。それを記録したこの映画が、また見た人のケアになっていってほしい、という想いを込めています。ゆずなさんからのボールを受けていただき、さまざまなことを感じてほしいです。

(取材・構成/里中高志)

『ケアを紡いで』

4月1日(土)よりポレポレ東中野にて ほか全国順次公開
公式サイト:https://care-tsumuide.com/

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大宮浩一
1958年生まれ。映画監督、企画、プロデューサー。『ただいま それぞれの居場所』(2010)で文化庁映画賞〈文化記録映画大賞〉を受賞。『季節、めぐり それぞれの居場所』(12)で山路ふみ子映画賞〈山路ふみ子福祉賞〉を受賞。『石川文洋を旅する』(14)でSIGNIS JAPAN(カトリックメディア協議会)による〈シグニス平和賞〉を受賞。近作に『夜間もやってる保育園』(17)、『島にて』(19)など。


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