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――ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

[今月のゲスト]
柴山哲也[メディア研究者、ジャーナリスト]

――総務省の接待スキャンダルが底なしの様相を呈している。菅首相の長男が幹部を務める衛星放送事業者の東北新社による、総務省の幹部クラスに対する接待攻勢はその後、接待の主体がNTTに、接待対象が野田聖子、高市早苗両総務大臣経験者へと飛び火した。この根底には、日本の放送利権、とりわけ政府による放送免許の付与権の独占問題があるという。

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『いま、解読する戦後ジャーナリズム秘史』(ミネルヴァ書房)

神保 今回のテーマであるメディア問題は、マル激では20年前の番組開始当初から何度も取り上げてきました。そして、いつまでたってもこの問題が広く共有されないところに、宮台さんの言う「鍵のかかった箱の中の鍵」問題がある。つまり、メディア自身が利害当事者のためこの問題を報じないので、なかなか世の中がその存在を知ることができず、結果的にこんな初歩的な問題がいつまでたっても解決しない。今回のような(総務省の)接待スキャンダルが起きても、案の定、根底にある放送免許の問題はまったくといっていいほどメディアには取り上げられていません。

 実はNTTを含めた通信行政と放送行政の問題は、日本の二大伏魔殿と言っても過言ではない、岩盤規制の最たるものです。それが結果として高い通信料や劣悪な放送コンテンツにつながっており、ご多分に漏れずそのツケを払わされているのが市民社会なのに、それが当の一般市民にわからないようになっている。今回はそこをきちんとやろうではないかと。

宮台 これも原子力行政や原子力に関わる経済界と同じ、上流/下流問題です。

神保 原発事故の後、電力市場の問題を語るとき、放送局は決して「垂直統合」という言葉を使いたがらなかった。それは、放送業界こそがまさに制作と放送がひとつになった「垂直統合」という利権構造を持っているからです。だから彼らは発送電分離という言葉を発明して使っていました。

 日本の放送行政は先進国としては異常なもので、政府が直接、放送局に免許を付与しています。そんな国はG7諸国の中では日本だけですし、OECD加盟国の中でも日本以外にそんなことをやっている国はポーランドとトルコくらいしかないと聞きます。それは言論・報道機関として政府を監視する役割を担っている放送局が、監視対象の政府から免許をいただいているようでは、その機能を果たせるはずがないからです。

 ところがそんなことをテレビで指摘しようものなら、もうテレビ局からお声がかからなくなってしまう。それは現在の免許制度がテレビ局にとっては、直接免許を与えられることで政府に首根っこを押さえられることの見返りに、政府は新規参入を認めず、1社たりとて潰れることがないよう、放送局を守ってくれる都合のいいものだからです。そんな中でこの話を正面からしてくださる数少ない方をゲストにお招きしました。ジャーナリストでメディア研究者の柴山哲也さんです。

柴山 よろしくお願いします。確かにメディア研究者でもこの問題に言及する人はおらず、昔はいらっしゃったようですが、最近は誰も言いませんね。下手をすると、放送法がどういう秩序というか、もともとどんな建付けを持っているかということを、皆さん本当にご存じないのでは、とさえ思います。

神保 さっそくですが、柴山さんは、今回の東北新社による総務省高級官僚への度を超えた接待問題について、どうご覧になっていますか。

柴山 総務省とメディアの関係は、もともと正常ではないと思っています。しかしメディアがちゃんと権力監視の役割を果たしていれば、今回のような総務省の度を越した接待事件が起こるはずはありません。それにしても総務省担当記者たちが内部腐敗を知らなかったのか、知っていても書かなかったのか、不思議です。この背景には、総務省に限らず官庁と癒着した記者クラブの問題があります。官庁等の記者クラブはだいたい役所内に部屋代も支払わずに部屋を借りている。クラブ所属の記者が転勤になると送別会をやってくれる役所も昔はあった。今はそこまでのことはないかもしれないが、餞別をくれるところもありました。それでも、私が新聞社にいた頃は、「記者クラブにあまり依存するな」と思っている記者もたくさんいて、役所発表やリークに頼らず、自分で独自に調べて特ダネを書くことがあり、そうした調査報道は社内でも褒められて、ある意味で名誉なことでもありました。

 記者教育のスタートはサツ回りから始まりますが、特ダネ競争とともに、多くの新人はここで権力組織の監視が新聞記者の役割と知るはずです。しかし今はそういう風潮がどんどん薄れてきて、若い記者でもクラブにベッタリの様子です。官邸の会見でも無言でパソコン叩いてる記者が多いですね。

 記者クラブの弊害は戦後ずっと言われてきたことですが、以前より癒着の度合いは酷くなっています。

神保 BS/CSではありますが、放送事業者である東北新社が、総務省の放送行政に関わる幹部をあそこまで接待する必要があったのでしょうか。

柴山 新興のメディア会社が総務省から新しい電波の許認可を受けるのは大変なことでしょう。そのための人脈作りの過剰接待だったと思います。

 かつて新聞社には波取り記者がいて、地方に放送局ができるとき、新電波を自社の系列子会社へ誘導する目的があったといわれます。

 クロスオーナーシップにより日本の大新聞社はテレビ局を系列子会社化しています。経営体としてのメディア企業のM&Qは欧米にはありますが、放送コンテンツの中身を独占系列化するクロスオーナーシップは言論の寡占行為として欧米民主主義国では禁止されている。新聞社と民放テレビ局は親会社/子会社の関係になり、コンテンツが寡占され、巨大メディアにより系列化した挙句、政治権力の支配力がメディア全体に及んできているというのが現在の政治圧力を生み出す構造の原点ではないかと私は考えています。またテレビ局の免許更新は、自民党政権と通じた総務省の機嫌を損ねるとかなり面倒なことになるようです。1993年、テレビ朝日の取締役報道局長だった椿貞良さんが日本民間放送連盟の会合で細川政権誕生について「非自民党政権が好ましいと考えて報道させた」など、自分が政権交代をさせた功労者というような発言をしたとされ、それを産経新聞がスクープした「椿事件」がありました。

神保 しかも、確か産経新聞はそのスクープで新聞協会賞を獲っていますね。

柴山 当時、朝日新聞のリクルート事件が新聞協会賞にノミネートされていたらしいのですが、それを押し除けて椿事件報道が新聞協会賞を受賞しました。放送法の公平(フェアネス)原則の解釈の歪みが細川政権誕生で顕在化してきたのだろうと思います。

「週刊文春」がスクープできて全国紙が“できない”理由

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