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【premium限定連載】ドキュメンタリー監督・松江哲明のタブーを越えたドキュメント 第6回

最近妙に評価が上がっているビデオテープ。行き過ぎたマニアの狂気に迫った映画『VHSテープを巻き戻せ!』

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――ドキュメンタリー監督である松江哲明氏が、タブーを越えた映画・マンガ・本などのドキュメンタリー作品をご紹介!

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『VHSテープを巻き戻せ!』公式サイトより。

 7月末から公開されている『VHSテープを巻き戻せ!』はVHSに取り憑かれた人々や、制作に関わった関係者、そして生き方にまで影響を受けてしまった僕らの為のドキュメンタリー映画だ。

 僕は劇中でフリーマーケットで指先をホコリだらけにしながらVHSテープを探すマニアの姿を笑いながら、つい先日も神保町の中古ビデオ屋で同じことをしていたことを思い出した。とても他人事と思えない。アメリカも日本もVHS好きがすることは一緒なのだ。パッケージに、爆発がイラストで描かれているだけで購入するには十分の理由だ。僕らはそんな趣味がマイノリティであることも自覚している。

 僕にはホラー映画好きの男性登場人物が「Dead、Deathというタイトルでこれだけ並べられたのが嬉しい」と笑う理由が分かる。VHSのジャケットを色分けにしているオシャレな女性は、デザイン性を重視していた。そう、VHSは映画を「観る」だけでなく「所有」することの楽しさを教えてくれたのだ。

 僕らの世代にとって「映画」とは、すでに映画館で見る「だけ」ではなかった。名作も古典もテレビで放送される吹き替え版と出会うのが最初だったし、劇場よりも遥かに安い値段でレンタル店に通うことも出来た。違法だが、デッキを繋げてダビングしたテープは数え切れない。寝る間も惜しんでテープを出し入れした時間は、もはや「仕事」だった。好きな映画の名場面を編集したこともあったし、テレビ放送されるシリーズ物は3倍ダビングで1本のテープにまとめることが快感だった。自作でラベルを作ったのも小さな自慢だ。そんな「持つ」ことの楽しさはDVDやBDになっても続いているが、壁一面に並ぶ数千枚のディスクやテープを前にして「こんなことは長くは続かないだろうな」とも思う。

 海外の友人たちも同じ想いのようだ。映画の中では「これらからはダウンロードが主流となる」と語られている。「高画質で配信されるそれらは、映画会社の倉庫から借りるようなものだ」とも。確かに僕も何度か試したことがあるが、その意見に同意する。そこには体験や時間がないからだ。そしていつ見れなくなるか分からないのだ。

 僕はどうしても見たい一本の為に往復1000円近くもかかるレンタル店の会員となりレンタルしたをしたこともある。この経験を面倒だとは思わない。あれは作品と出会う為の旅だったのだ。「いつでも見れる」という言葉は「いつまでも見ない」と同じ意味だと思う。僕はネットでアクセスする利便性よりも、手元に残るモノを愛する。どちらがいい悪いではなく、そういう育ち方をしてしまったのだから仕方ない。残念ながら本作の「記録」はもはや懐かしい。一世を風靡したVHSを愛する行為は、現代では「物好き」でしかない。

 少し飛躍するが新作の『ロボコップ』はまるで外付けHDのようだった。スタイリッシュなデザインと目の光。カッコ悪いとは思わないが、僕は断然オリジナル版の方が好きだ。関節が動く度にキュイーン、ガシャーンと響くのが素晴らしい。動きは遅くても多少、撃たれた程度では壊れない。本作を見て、僕はVHSこそロボコップだと思った。傷一つで再生出来なくなるようなディスクと違い、テープはノイズと共に再生をする。作品の中でも『初体験リッジモンドハイ』のヌードシーンの手前でノイズが出る度に「他の人も何度も見たんだな」という記憶を笑いながら語る人がいた。VHSにとってノイズとは、繰り返し見られたことへの勲章でもあるのだ。

『VHSテープを巻き戻せ!』は映画史のある決定的な変化を訴えるドキュメンタリーでもある。今後、映画にとって「傷」が歓迎されることはないだろう。それは寂しいことだが、現実と向き合うのも歴史の必然だ。しかし90分弱の上映時間くらいは過去を懐かしんでもいいと思う。

『VHSテープを巻き戻せ!』
2014年7月26(土)より渋谷・アップリンクほかで順次公開中
http://uplink.co.jp/vhs/


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