サイゾーpremium  > 特集  > エンタメ  > 伊勢谷友介も村上隆もビックリ!! 【東京藝大&五美大】の虚像と実態

──「東京藝術大学がトップ」くらいの知識はありながらも、一般大学を卒業した者にとっては未知の世界である美術・芸術系大学。それらの大学や学生の特徴、そしてそのヒエラルキー構造まで、アーティストの卵たちが奏でるキャンパスライフの実態に迫る!

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江戸末期に横浜に生まれ、東京帝国大学文学部を卒業、1889年(明治22)年に東京美術学校を開設した岡倉天心先生。

 芸術を志す者がその第一歩を踏み出す場所として一般に想起されるのは、美術大学・芸術大学であろう。日本におけるその”最高学府”が、村上隆や会田誠から伊勢谷友介までを輩出した東京藝術大学(以下、東京藝大)であることも、多くの読者ならご存じかもしれない。しかし、それらの大学の入試がどのようなもので、入学後に学生たちは何を学ぶことができ、そして卒業後にはどんな進路が待ち構えているのか等々については、門外漢には未知の世界ではなかろうか。そこで本稿では、一般大学とはまったく異なる美術・芸術系大学(以下、美大)の実態について考察してみたい。

 現在、日本には27の美大が存在する。うち、国公立は8つ。北は秋田、南は沖縄にまで点在し、最も新しいものは2012年に創設された秋田公立美術大学である。元来、国公立美大同士の結びつきは非常に強い。

「東京藝大をはじめとした国公立美大5校(東京藝大、京都市立芸術大学、愛知県立芸術大学、金沢美術工芸大学、沖縄県立芸術大学)では『五藝祭』という催しが3年に一度行われています。共同で美術展やパフォーマンスイベントが開催されており、その歴史は40年をゆうに超えています」(東京藝大卒業生)

「五藝祭」運営の中心となるのは、美大の最高学府、東京藝大。官立の美術学校として前身の東京美術学校が創立されたのは1887年で、もちろん美大の中で一番古い歴史を持つ。岡倉天心、フェノロサという日本の近代美術史上に巨大な足跡を残す2人が開設に携わり、卒業生も、戦前から日本の美術史を支えてきた華々しい名が並ぶ。

「文化勲章受章者数も、他の美大を押さえたぶっちぎりの1位です。日展や二科展など日本の画壇を代表するコンテストにも、多くの入賞者を輩出しています」(東京藝大卒業生)

 東京藝大は大きく美術学部と音楽学部に分かれ、東京・上野にある本部キャンパスは、道を挟んで仲良く2つの学部が隣り合う。本稿で主に取り扱う美術学部には現在、絵画科、彫刻科、工芸科、デザイン科など7つの学科が用意されており、最難関とされる絵画科日本画専攻には、25名の入学定員に514名が受験(平成24年度入試)、倍率20倍を超える非常に狭き門となっている。同時に東京藝大は、国内最難関の音楽大学としても君臨しており、滝廉太郎や山田耕筰など偉人レベルの音楽家から、葉加瀬太郎やフジコ・ヘミングなど一般にも人気の音楽家などを数多く輩出しているのだ。

 そんな東京藝大を含め、東京には「五美大」と呼ばれる名門美大群が存在する。東京藝大のほか、多摩美術大学、武蔵野美術大学、東京造形大学、女子美術大学がこれに当たる(それぞれ通称:多摩美、ムサ美、造形、女子美)。

「イメージとしては、東京六大学を想起してもらうとわかりやすいでしょう。東京藝術大学はもちろん東京大学、さまざまな特色がありながらも学力では東大にかなわない早慶やMARCHクラスが、他の私立美大。一般大学でいうところの偏差値が美大では絵画的な技術に当たり、受験でチェックされます。五美大に通うことはそれだけで大きなステータス。いずれも受験倍率は高く、入学するには一定以上の実力が求められますね」(美術雑誌編集者)

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東京藝大の学校案内や入試要項など。毎年9月に開催される同校の学園祭「藝祭」のパンフレットには、卒業生の伊勢谷友介くんの姿も。カッコいいす!

 人気の五美大だが、受験倍率は東京藝術大学が群を抜く。学科による差はあるが、私立美大は2~3倍程度なのに対し、東京藝大は10倍強。その理由を、東京藝大卒業生のある現代美術家は次のように分析する。

「定員が非常に少なく、希少性が高いということがまず挙げられるでしょう。東京藝大の美術学部は、全学科集めても一学年240人。それに対して私立美大の定員は1000人規模。しかし学費面においては、東京藝大の年間授業料が50万円程度なのに対し、他の私立美大は軒並み200万円を超えます。『東京藝大でなければ進学させることができない』と、経済的な理由から子どもをさとす親も多いですね」

 狭き門であることが希少性を生み、また一般大よりも高額である美大の授業料の中で格安ともいえる学費が、東京藝大の人気を後押ししているというわけだ。

 では、美大の入試を突破するためには、どのような能力が求められるのか? そこでキーとなるのが、「美術予備校」の存在だ。

「美大に入るためには、美術予備校で学ぶことが大前提」と語るのは、私立美大卒のある予備校講師。

 美術予備校は全国に点在しており、東京都内のすいどーばた美術学院、新宿美術学院、御茶の水美術学院(それぞれ通称:どばた、新美、お茶美)が三大予備校といわれている。それぞれに得意な学科があり、どばたは彫刻科、新美は油画科、お茶美はデザイン科に多くの生徒を送り込んでいる。さらに代々木ゼミナールや河合塾など一般予備校も80年代から本格的に参入、既存校としのぎを削っている。近年は少子化の影響から美大受験者は減少傾向にあり、し烈な生徒の奪い合いが発生、東京藝大に何名合格させたかという実績は、受験生やその保護者に対して強いアピールポイントとなっているのだ。では、美術予備校では具体的に何を学ぶのか? 前出の予備校講師が続ける。

「学科によって異なるので一概にはいえませんが、石膏デッサンには最も多くの時間が割かれます。数十名の学生がヴィーナス像などの石膏像をキャンバスで取り囲み、一斉に鉛筆デッサンを行い、数時間で一枚の絵を仕上げる。ヌードデッサンや花瓶や果物などの静物デッサンも含め、そうした課題を年間に100枚以上提出することを通して、基礎的な画力を磨いていきます。このデッサン力が美大受験突破のために必要不可欠であるため、一般高校の美術の授業などでは、とても対応できないわけです」

 しかしこのデッサン力訓練が、本来のクリエイティビティを損なわせるのではないかと問題視する向きもある。

「美術予備校がデッサンを中心とした技術を重点的に教えることは、30年以上も前から問題視されてきました。もちろんそうしたカリキュラムが組まれるのは美大受験の科目がデッサン画など画力を重視してきたためですが、現代美術においては絵がうまい・へたの表面的な技術力だけが重要視されるわけではない。写真や映像など直感的なメディアによる作品も台頭しており、より自由な表現が必要とされているためです。そのため近年、美大では受験科目にデッサンを必要としない学科も設立され、美術予備校にもその影響は及び始めています」(前出・美術雑誌編集者)

 私立美大では、入試にデッサンを必要とせず小論文やコンテンポラリーダンスなどの自由な自己表現によって選考する学科が90年代より相次いで設立されてきた。東京藝大も、基礎的な画力は必要とされない「先端芸術表現科」が99年に開設。現代美術に特化し、コンピューターを使った美術作品の制作など、より多角的な教育が行われ、センター試験など一般的な学力も重視。早慶レベルの学力が必要とされる学科となっている。そうした新しい学科への受験に対応するため、美術予備校も新たな講師陣を招き入れるなど変革を余儀なくされているという。

 しかし、油画科や日本画科など長い歴史を持つ学科では、いまだに相当なデッサン力が必要とされるのも事実。そして、そうした美術予備校での日々が「学生たちに美大ヒエラルキーを内面化させていく」と、現役私立美大生は語る。

「予備校講師の半数以上が、現役の美大生によるアルバイト。浪人生にとっては憧れの先輩です。なかでもダントツの人気を集めるのは東京藝大生で、彼らは一般に浪人経験が長く、教えるのもうまい。そうした環境が『とにかく行くなら東京藝大』という意識を生み、美大に入るためなら何浪でもするという予備校生を再生産していくわけです。あの村上隆も東京藝大の学生時代は予備校講師をしていたのは有名な話ですし、かわいい女子予備校生がパッとしない東京藝大の講師と付き合っているという光景もよく見かけますよ(笑)」

東京藝大に憧れて学歴ロンダリング

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美大のキャンパス内では、こんな風景も珍しくない。なんてアートな雰囲気!

 さて、そうした美術予備校での日々を乗り越え、見事合格した者だけが迎える華のキャンパスライフ。現代美術史や色彩学など美大特有の必修授業も存在するが、一般大学同様、心理学や経済史などの一般教養も多い。ただし、そうした「勉強」の比重はかなり低く、美術作品の課題提出が何よりも優先されるという。

「といっても、予備校時代に年間100枚程度の課題を提出させられていたのに対し、大学に入ってからは前期と後期合わせて2作程度作品を提出すればいいだけ。出席もいいかげんだし、一般大と違って語学も必修でない場合が多い。必然的に、怠惰な生活を送る学生は多いですね」(東京藝大生)

 美大生といえば、学生時代から積極的にクリエイティブな活動を行っている者が多いようなイメージも持たれがちだが、実際には「美大合格がゴール」とばかりに燃え尽きてしまう学生も少なくないのだ。では美大生の多くは、結局何も学ばないまま卒業してしまうのだろうか?

「いえいえ、そこまで甘くはない。美大で最も重要なイベントは”講評会”。年に2回程度、学期末などに行われ、学科の生徒、教授も参加する場に絵画作品や映像作品を提出し、発表する会のことです。そこでの評価が大学院への進学や教授からの就職先の推薦などに関係するのはもちろん、付与される単位数も多いので卒業そのものにとっても大きな意味を持ちます。普段の授業にはあまり顔を見せない学生も、この日は全員参加が必須。数カ月かけて制作した渾身の作品を、自らプレゼンしながらアピールしていくのです」(前出・東京藝大卒業生)

 日々作品を制作するために、美大ではたいていひとりにつき8畳程度のアトリエが学内に用意される。先に挙げた五美大では、最新のソフトがインストールされたパソコンまで用意されていることも珍しくない。しかし、それでもなお東京藝大への想いがつのる私立美大の現役学生は多いという。

「たとえ五美大に入れたとしても、東京藝大へのコンプレックスは程度の差こそあれみな持ち続けています。僕も最初は武蔵野美大に入ったんですが、結局2年間仮面浪人をしていました」(同)

 なかでも、受験時期が他の美大に比べ最も早く、試験内容も東京藝大に類似している東京造形大の学生の中には、東京藝大への再入学を狙い、大学に通いながらなお美術予備校に通い続ける者さえ少なくないという。また、最終学歴を「東京藝術大学」とするため、大学院から東京藝大に進学する者も。いわば“学歴ロンダリング”である。

「海外からの評価も高い日本画家の松井冬子は東京藝大出身として有名ですが、それは大学院から。学部時代は女子美術大です。また、資生堂所属のアートディレクターとして蛯原友里とボニー・ピンクのコラボレーションCM(日焼け止めクリーム「アネッサ」)などのヒット広告で一躍売れっ子となった成田久も、多摩美大を卒業後『未練があったから』という理由で藝大大学院に進学したことを公言しています」(美大関係者)

 再受験をしてまで東京藝大へ進学する者たち。そのネームバリューを最大限に生かし、彼らの卒業後の進路は非常に明るいようにも見える。

「電通や博報堂には、東京藝大出身の箭内道彦や多摩美出身の佐藤可士和など現在は独立しているクリエイターを含め、美大出身者が非常に多い。というのも毎年就活シーズンになると五美大では、『0次選考』と呼ばれる学内選抜がおこなわれます。一般の就活では1000倍以上の難関といわれる大手広告代理店への入社ですが、学内選抜では30人受けて3割程度はそのまま内々定がもらえるといわれており、正直かなりユルいですね」(アート業界関係者)

 しかし、こうしたオイシイ思いをできるのは美大の中でも一握り、広告代理店に就職したOB・OGが多いデザイン科に限った話だ。日本画科や油画科、工芸科など伝統的な手法でファインアートを学んできた者は社会に適応できない場合も少なくなく、卒業してからは”作家活動”に突入する者も。例えば武蔵野美大を見てみると、油絵学科では12年度の卒業者数156名のうち、就職者はわずか34名、あとは「その他(制作活動など)84名」と公式ホームページで発表されている。

「制作活動などといっても、実際はかなり曖昧。卒業してから定期的に個展やグループ展などを開いていたとしても、それだけで食えるはずなんかないですから。実際、毎日のように飲食店でアルバイトなどをして生計を立てる者も多い。“自称アーティスト”の域を出られずに、ただのフリーター状態になっている人がほとんどです」(前出・業界関係者)

 非常に規模の小さい国内のアートマーケットにおいて、作家活動を行っていくことは至難の業。30歳前後でアーティストへの道をあきらめ、一般企業に就職していくというのは、非常によくある話だ。では、クリエイティブ職にも就けず、かといってアーティストを目指す心意気もない大多数の美大生は、どういった進路を歩むのだろうか?

「美大は大学院への進学率が高いことで有名。学科によっては約8割が大学院に進みますね。それから教員を目指す者も多い。美大の場合、教員免許が一般大学よりも簡単に取れますからね。実際、半数以上の学生が教員免許を取得できる授業を履修しています。そのうちの何割かは、地元に帰って美術の先生になるなどしていくわけです」(前出・東京藝大卒業生)

 しかし、学力的には一般大学の教育学部卒業生のほうがはるかに高く、教員採用試験を突破できない美大出身者も多いという……。

「結局のところ美大は、医学部のように何か資格がもらえるわけでも、安定した就職先が見込めるわけでもない。また、キャリア官僚における東大法学部、あるいは経済界における早慶一橋のように、その業界において出身大学を生かした濃密なコネクションが形成されているわけでもない。つまり美大に進学するということは、実家が裕福でもない限り、非常に大きなリスクが伴うわけなんですよ」(美術雑誌ライター)

 みなが憧れ、高い倍率を勝ち残った東京藝大をはじめとする美大生。しかし一歩間違えば彼らの人生の“華”は、まさにみなに憧れのまなざしをもって眺めてもらえる学生の間だけ、などということも十分あり得るわけだ。

「確かに五美大を出ていれば、予備校で鍛えられたデッサン力はあるのかもしれない。しかし、個性や表現力という面では、美大とはまったく違う文脈から出てくる在野のアーティストのほうがはるかに面白いものを持っていることも珍しくありません。その代表例が、最近でいえばChim↑Pomなどではないでしょうか」(同)

 箔は付くが、アーティストは生まない。大企業に入って将来が約束されるわけでもない。あなたのお子さんがある日アートに目覚め、美大に進学したいと言い始めたら……。ひと呼吸置いて、親子でじっくり話し合ったほうがいいかもしれない。

(文/ヨシ・モリタカ)

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