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第1特集
モード世界とユダヤから見るファッション文化社会学

素材屋からデザイナーまで90%はユダヤ系!? ユダヤが支配するモード界ファッションの文化人類学

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 世界のファッション産業の根幹を担うモード界。この世界は、ユダヤ人社会と密接な関係にある。日本のドメスティックブランドはそこで、どう立ち振る舞うべきなのか──。

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『イヴ・サンローランへの手紙』(中央公論新社)

 多少なりともファッションや、それを取り巻くビジネスに興味のある人なら、いまだ世界のファッションの潮流の源に、フランスのモード界があることはご存知だろう。オートクチュールが1860年代にフランスで生まれ、そこから現代のファッション文化は花開いた。2010年代の今、世界的にファストファッションが隆盛し、ハイブランドの服はかつてより売れなくなったと言えど、H&MやZARAのようなファストファッションが洋服を作るベースにしているのは、その年のパリやミラノのコレクションで発表された高級メゾンのデザインであるように、ファッションビジネスを手がける上で、ヨーロッパの動向は無視できないものなのである。そんなファッションの本場で、この業界を牛耳っているのは、世界に散らばるユダヤ人たちだ、という定説がある。

「フランスのファッション産業従事者の90~95%はユダヤ系。デザイナーからバイヤー、メディア、縫製工場、そして素材屋まで、皆そうです」

 こう語るのは、80年代からパリと東京を行き来してファッション業界の取材を重ねるファッション評論家・平川武治氏だ。

「なぜユダヤとファッション業界のつながりが深いかといえば、もともと彼らのビジネスの根幹のひとつに、ラシャをはじめとした繊維産業があったからです。15~16世紀頃から彼らは世界の織物産業に自分たちのビジネスを求め、その延長が今のファッション産業になっている。これはフランスだけでなく、ニューヨークやイタリアでも同様の流れがあります」(同)

 アメリカのファッション産業で有名なユダヤ系といえば、リーバイスの創業者、リーバイ・ストラウス(Levi:レヴィ。ユダヤ系によくある名字のひとつ)や、デザイナーのラルフ・ローレン、カルバン・クライン、ダナ・キャランなどが挙がる。ニューヨークでは19世紀後半に東欧から移民としてやってきたユダヤ人たちが、「ガーメント・ディストリクト」と呼ばれる地域で裁縫産業に従事。ニューヨークのファッション中心地というとビッグメゾンが立ち並ぶ5番街を連想しがちだが、販売ではなく製造・物流の中心地はガーメント・ディストリクトにいまだ存在しているのだ。いわば問屋街のここには、業界団体によって建てられた、ミシンを踏むユダヤ人男性の銅像が飾られている。

 フランスのファッション業界においても、繊維産業に従事してきたユダヤ人は数多い。そしてその伝統が、業界において最も重要である”トレンド”にも多大な影響を及ぼしている。

「よくファッションショーやコレクションにおいて”トレンド”ということが言われますが、実はトレンドを決めるのはブランドやデザイナーではない。毎年2回、2月と9月にパリで開催される『プルミエール・ビジョン』という素材(繊維と服地)の見本市があります。ここで、『来年はこんな素材が流行る』『この色/キーワードが旬になる』という提示がされるのです。それをプレタポルテ【編注:有名デザイナーやブランドによる高級既製服。オートクチュールの対義語的存在】のデザイナーやメーカーが見に来て、自分たちのブランドに持ち帰って、それぞれの世界観でまとめあげる。そうすることで、素材屋さんは1年後の自分たちの生産や売り上げを安定させることができるわけです。これがパリを中心としたファッション産業の構造。歴史を紐解いてみても素材屋さんはほとんどがユダヤのシンジケートですから、トレンドの根っこを決めているのも彼らなわけです。

 付け加えると、パリには70年前後から、こうしたトレンドをさらに強化するようなトレンドブックを作る会社ができています。『ペクレール・パリ』や『プロモスティル』といった会社が、半年先のトレンドをまとめた本をシーズンごとに作る。極論すれば、これを買えば、まず外さない服ができる。それを参考にするデザイナーもいれば、そのままの服を作るアパレルもあるのです」(平川氏)

 フランスは、ヨーロッパで一番ユダヤ人人口が多い(2010年調べ)。世界的に見て最も多いのがイスラエル、2位がアメリカ、次いでフランスだ。この理由は、19世紀初頭のフランス革命後、世界でいち早くユダヤ人に市民権が与えられたためだとされている。パリで最も有名なユダヤ人街はマレ地区だが、ここは今も多くのショップが立ち並び、デザイナーがオフィスを構える地域なのである。

ユダヤ人差別発言でディオールを解雇

 そういったユダヤ人社会で形成されるファッション業界のタブーを最も感じさせるのが、11年に起こったジョン・ガリアーノのクリスチャン・ディオール解雇事件だ。自身の名を冠したブランドのほかに、09年からクリスチャン・ディオールのデザイナーに就任していた彼は、11年2月、パリのカフェで居合わせたカップルに対して「薄汚いユダヤ人め」などといった人種差別発言をしたとして警察に拘束される。またその直後、「俺はヒトラーが好きだ」と暴言を吐く別の時期の映像がイギリスのタブロイド紙「ザ・サン」を通じてネット上で公開された。同年3月1日にはディオールから停職処分を受け、自分のブランドからも解雇されている。ネオナチ的な排斥主義者なのかを含めガリアーノの思想信条そのものは不明だが、長きに渡ってファッション業界で仕事をしてきた重鎮として、有形無形のプレッシャーがあったのかもしれない。ただし、この事件には、ガリアーノがハメられたという見方もあることを紹介しておこう。

「あれは、ディオールがガリアーノをクビにするために仕組んだ事件です。ガリアーノの作る服はあまり売れなくなってきていて、そろそろデザイナーを替えたいとディオールの経営側は思っていた。しかしああいった大物を契約期間内に降ろすには、死ぬか病気かスキャンダルかの三択。そこでスキャンダルを仕組んだ。時期的にも、ミラノのコレクションが終わってジャーナリストがパリに集まってきているシーズンだったため、業界の耳目を惹ける。さらに、裁判が開かれる前にアリゾナの精神病院に入院させて、ガリアーノ側の言い分が出てこないようにしたわけです。いくら才能がある人間でも、お金を持っている人を味方にできないとまともに活動できないシビアな世界なのです」(平川氏)

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