文部科学省の調査によると、2024年度に全国の小中学校における不登校の児童生徒数は12年連続で増加し、過去最多を更新したという。だが、ベネッセ高等学院学院長・上木原孝伸さんは「不登校は問題行動ではない」と明言。一律の平等主義がもたらす弊害と、テクノロジーを生かした個別最適化教育の可能性を、その取り組みとともに聞いた。
選択肢はひとつじゃない。(画像/GettyImagesより)
文部科学省の調査データによれば、小中学校における不登校児童生徒数は35万人を優に超えている。中学生においては約6・7%を占める規模であり、これは不登校がもはや特殊なケースではなく、現在の教育システムが直面している構造的な事実であることを示している。
不登校というと、いじめが原因というイメージが根強いが、実際の要因は多様化している。文部科学省の調査でも、学校側が把握する主な要因は「学校生活に対してやる気が出ない」(30・1%)や「生活リズムの不調」(25・0%)などが上位を占める。一方で、児童生徒本人や保護者の回答では、いじめを挙げる割合も4人に1人以上に上るといった調査もあり、その実態は一様ではない。長期欠席や病気などの特別な事情によるというくくりでカウントされている児童生徒を含めれば、その実数はさらに多いと推測される。
かつての教育現場では、無理やり学校に行かせ、校門にタッチさせるだけで出席扱いとするような表面的な指導が存在した。学校に戻すこと自体を目的化したアプローチは、結果として子どもを深く傷つけることにつながっていた。社会に出る前の段階にある子どもに対し、大人の側の論理でプレッシャーをかけることは、根本的な解決を遠ざける要因となっている。
〝行けない〟ではなく〝行かない〟に
上木原孝伸(かみきはら・たかのぶ)
ベネッセ高等学院 学院長/ベネッセ高等学院 中等部 学院長。教育企業で講師として17年間教壇に立ち、教科指導や教室運営に携わる。その後、最大手通信制高校の開校準備から参画し、副校長を4年間務める。続いて、発達に特性のある子どもとその家庭に適した学びの環境を提案するコンサルティングサービスの責任者を経て、ベネッセコーポレーションに入社。現在は通信制サポート校「ベネッセ高等学院」およびフリースクール「ベネッセ高等学院 中等部」の学院長として、生徒一人ひとりに寄り添った学びと進路支援に取り組んでいる。
夏休みなどの長期休暇明けは、学校生活という集団行動への再適応が求められるため、児童生徒の心身に大きな負荷がかかる。結果として、この時期を境に不登校の件数が増加する傾向にある。既存の学校環境が、多様な特性を持つ今の子どもたちにとって平易なものではないことを示すひとつの指標である。
現在の学校現場は、システム化されていない業務の集積により疲弊している。教員不足が深刻化する中、すべての児童生徒に対して個別の対応を行うことは、物理的にも時間的にも限界を迎えている。
教育現場の内部では、世代間での意識格差が存在する。親世代やベテラン教員が育ってきた「昭和的価値観」をはじめとした一律の価値観と、2016年に成立した「教育機会確保法」を大学で学び、不登校への理解を示す若手教員の価値観は根本的に異なっている。この価値観の相違を認識せず、前世代の側の常識という物差しのみで子どもを測ろうとすることが摩擦を生んでいる。
新たな学びの場として注目されるベネッセ高等学院の上木原孝伸学院長は、不登校が「問題行動ではない」ことに、明確なスタンスを示している。
「ベネッセ高等学院で、不登校対策としてフリースクール(中等部)を立ち上げた根底には、『不登校は決して問題行動ではない』という強い思いがあります。不登校そのものは単なる『事象』であり、真に目を向けるべきは、その周辺や背後にあるさまざまな課題や環境なんですね」
子どもを取り巻く環境と従来の教育システムとの間に生じたズレが、不登校という形で表出しているにすぎないという指摘である。
◉不登校の今を知るキーワード1
「不登校離職」という不幸不登校の急増は、学校教育の枠組みを超えて産業界を直撃している。それが保護者の「不登校離職」である。子どもが登校できなくなった際、日中に安心して過ごせる公的な居場所や代替的な学習機会が身近になければ、保護者が仕事を休んで対応せざるを得ない。とりわけ共働き世帯やひとり親世帯において、朝の行き渋り対応や突発的な有休取得が常態化する。やがて業務の継続が困難となり、昇進の辞退や時短勤務への切り替え、最終的にはキャリアの断念や退職へと追い込まれる。
離職を避けるためにも、まず学校と密な連絡を取り対処することが重要である。また、ベネッセコーポレーションが運営する「不登校ライフナビ」をはじめ、オンラインで専門家に相談したり悩みを共有したりする支援も利用してみることも選択肢として知っておいてほしい。