紗倉まな氏の最新作『あの子のかわり』(河出書房新社)のテーマは「産む/産まない」をめぐる女性の葛藤。今回、自身も「子どもは持たないだろう」と語る紗倉氏と、結婚と妻の出産を発表して間もない盟友ケンドーコバヤシ氏の対談が実現した。 激変した境遇は、二人の友情や空気感を変えてしまうのか?
(写真/三浦太輔)
「お互い一生子どもを持たないだろうと思っていた親友の妊娠」――。紗倉まな氏は2月に出版した最新作『あの子のかわり』で、女性にとって重大な決断である「産む/産まない」の問題に堂々と対峙した。30代のメイクアップアーティストである主人公「由良」は産まないことを選択した人生を歩む。その日常で生じる葛藤は壮絶だ。夫の一挙一動に怒りを滲ませ、親友の妊娠に言いようのない感情が溢れ、自身のキャリアにも限界がちらつく。読んだ者が傍観者でいることを決して許さないこの問題作を、1月に結婚と第1子誕生を報告したケンドーコバヤシ氏が熟読。結婚と出産、男と女、仕事と生き方をめぐり、10年以上にわたってラジオで共演する盟友でもある二人が忌憚のない言葉を交わす。
ケンコバも絶句した産まない女性の「声なき叫び」
――長らくラジオ番組『TENGA presents Midnight World Cafe〜TENGA茶屋〜』(FM大阪)で共演されてこられた紗倉まなさんとケンドーコバヤシさん。今回、紗倉さんが「女性の出産」をテーマとした小説を出版されたのと近しいタイミングで、ケンコバさんがご結婚とご長男の誕生を発表されました。すごい偶然ですね。
ケンドーコバヤシ(以下、ケンコバ) まずね、こんな凄まじい本をよく今の俺に読ませようとしたなと。
紗倉まな(以下、紗倉) ごめんなさい(笑)。
ケンコバ この本はすごいです。紗倉まなという人と仕事をして長いからわかるんですよ。フィクションであり、フィクションじゃない。まなちゃんは、誰かを見下す人に対して「普通の暮らしをしている人にマウントとるんじゃねえ!」という強烈なパンク魂を持っている。葛藤する主人公が自責と他責の間で揺らぐ姿から、それが見事に伝わってきます。紗倉作品は比較的、男性を敵に回しがちだけど、本作はテーマ的に女性でも反応が分かれるんちゃうかな。
紗倉 確かに女性の読者の方からは「主人公に共感した」という声と、「嫌悪感を抱いた」という声があります。コバさんはどんなところが印象に残ってますか?
ケンコバ 女性の「産む/産まない」という問題について「男性はイージーに捉えるなよ」というメッセージですね。女性の声なき叫びがズシリときましたよ。俺も猛省しながら読んだんですけどね。あと、俺の奥さんもこの本に興味を持ったんです。
紗倉 え、本当ですか?
ケンコバ 「読もうかな?」って。読むな、アホと。読んだらダメージくらうんだから。出産から5年は空けないと読んだらあかんと諭したんです。これ、もう発禁本にしたいぐらいです。それだけのインパクトがある本を書けるのは本当にすごいけどね。
紗倉 本を出すときはお世話になっている方々に差し上げるんですけど、この本はコバさんに持っていくのにためらいがありました。ご結婚とお子さんの誕生を知ったのが出版直前で、正直「あ、やっちまった!」と思って。私、コバさんがメディアで語る父性の話が大好きなんです。それもあって、父となったコバさんが読んだらどう思うんだろうといろんな感情が入り混じって、結局、持っていかなかったんです。
ケンコバ 今回、この対談で読むことになってえぐられるというね。俺だけじゃなく、この作品を直視できる男性、いるのかな。主人公「由良」の夫は「平熱」な人なんですよ。親友が妊娠していろいろと思うところのある由良からすると「平熱で過ごしやがって」みたいなイライラが募っていく。「女は大変なのに、日常を演出するな」という女性の怒りが刺さる。
紗倉 由良は気質が激しいから、夫への当たりが強い描写が多いんです。由良と夫の間では、会話をするときに語尾を伸ばすっていう独特なルールがあって。
ケンコバ 「ポップに喋ろう」というね。
紗倉 そうやって夫のほうも家庭をどうにか円滑に回そうと頑張っている。でも報われないという点では、男性を突き放していると感じる読者さんがいても不思議じゃないと思います。
ケンコバ ネタバレになるけど、クライマックスで由良と妊娠中の親友が台所で口論になるんです。そのシーンの描写が圧巻です。修羅場になって、調理器具が散乱して。まなちゃんの文章は、作品を重ねるごとにどんどんリズムが良くなっている。意識せずに技術が高まっているのは、モノをつくる人として一番いい状態ですよ。
紗倉 そのシーンでは忙しなく動く心情を表現したくて、キャラの視線の動きとリンクさせて調理器具をしっかり描写したんです。でも、やっぱりコバさんすごい。お料理しますよね。普段、台所に立つ人じゃないとそこに注意を払わないと思う。
主人公=紗倉まな?盟友の結婚に対する本音
――『あの子のかわり』出版後、周囲の反響で何か印象に残っていることは?