50年前に描かれた衝撃の『イルカがせめてきたぞっ』巨匠・小松崎茂の空想の源

酸素ボンベ(?)を背負った直立(!)のイルカ兵士が、熱線銃と貝の戦車で人間世界を侵略……!昭和の子どもたちに強烈なインパクト、あるいはトラウマを残した『イルカがせめてきたぞっ』は、今でも愛されている。この絵を描いた画家・小松崎茂とは、どんな人物だったのか?

1972年に刊行された『なぜなに学習図鑑』(小学館)第9巻「なぜなに からだのふしぎ」に収録された
『イルカがせめてきたぞっ』 ©小松崎茂

海から上陸し、酸素ボンベのような物体を背負った直立するイルカ兵士が、熱線銃と貝の戦車で人間世界を侵略するという、見た者すべてに強烈なインパクトを与える絵、通称『イルカがせめてきたぞっ』。

挿絵画家・小松崎茂による同作は、1972年に誕生して以降、50年以上たった今でもネットミームとして語り継がれている。さらに今年は、河崎実監督による実写映画化の製作支援者を募るクラウドファンディングが大成功するなど、改めて注目を集めている。

本を読んだ子どもたちを笑わせようとしているはずが、その緻密で大迫力の画力に引き込まれてしまい、「この画家は本気で『イルカが世界を侵略する』と考えている」とすら思わされる。 小松崎の孫であり「小松崎茂ON LINE美術館」の運営者である小松﨑憲子氏と、東京都文京区にある弥生美術館の学芸員・理事で、大正・昭和の挿絵に詳しい中村圭子氏に、「挿絵画家・小松崎茂」について語ってもらった。

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中村圭子(以下、中村) 『イルカがせめてきたぞっ』は『なぜなに学習図鑑』(小学館)という児童向け学習図鑑シリーズに掲載されました。「図鑑」とは、1966年に「週刊少年マガジン」(講談社)に掲載されたウルトラマンの怪獣の中身を紹介した少年雑誌の「図解」にヒントを得たものです。これは怪獣、サイエンス、乗り物、歴史など幅広いテーマを、編集者の大伴昌司などが文章を構成し、そこに挿絵も入った読み物です。当時はこのような学習図鑑がマンガ雑誌のような役割を果たしており、学校の図書館にも入っていたそうです。そして、『なぜなに学習図鑑』の筆頭画家が小松崎茂先生でした。

小松﨑憲子(以下、小松﨑) 『なぜなに学習図鑑』に掲載されている絵は、すべて子どもの素朴な疑問から始まっています。『イルカがせめてきたぞっ』は「人間より、いるかのほうが頭がよいのですか」という質問がきっかけです。頭がいいとはいえ、どうして人類に反旗を翻したのか……。祖父は「イルカの頭がよいのであれば、将来こんな感じで攻めてきちゃうよ」という気持ちで描いたのでしょう(笑)。実はタイトルも祖父が付けたという説もありますが、当時の編集者たちは鬼籍に入られてしまい、今となっては詳細がわからなくなってしまいました。

中村 2024年に弥生美術館で「日本出版美術家連盟(JPAL)の作家展2 小松崎茂」という企画展示を行った際、等身大のイルカのパネルを用意したのですが、来場者はみんなイルカに撃たれたポーズで記念撮影をしていましたね。

小松﨑 実はあのパネルのイルカは、最後の内弟子である上田信さんが描いてくれたのですよ。同年に柏市民ギャラリーで「画家 小松崎茂展―生誕110周年記念―」を開催した際にもそのパネルを用意したところ、「この絵、小松崎茂が描いていたんだ。知らなかった」というお客様もいれば、「小学生のときにこの絵を見て以来、イルカが怖い」という方もいらっしゃいました(笑)。『イルカがせめてきたぞっ』に限らず、祖父の絵は、描かれてから50〜60年たった今でも「新しい」というのが特徴です。「一体、何年後の未来を想像して描かれたのだろうか?」と驚かされます。例えば、新幹線ができる何年も前に「空飛ぶ磁力列車」などの絵を描かれていました。

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