>   > 肥大した自己顕示欲に振り回され、ライバルを殺害した政治家
連載
【プレミアム限定連載】アメリカン・トゥルー・クライム列伝【9】

自己顕示欲の肥大は自他をも殺す――権力を手にしたかった男の狂乱

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――犯罪大国アメリカにおいて、罪の内実を詳らかにする「トゥルー・クライム(実録犯罪物)」は人気コンテンツのひとつ。犯罪者の顔も声もばんばんメディアに登場し、裁判の一部始終すら報道され、人々はそれらをどう思ったか、井戸端会議で口端に上らせる。いったい何がそこまで関心を集めているのか? アメリカ在住のTVディレクターが、凄惨すぎる事件からおマヌケ事件まで、アメリカの茶の間を賑わせたトゥルー・クライムの中身から、彼の国のもうひとつの顔を案内する。

 テネシー州を混乱に陥れた男として悪名を轟かせた 、バイロン・ルーパーが獄死したのは2013年6月26日だった。同州の上院議員を巡る選挙を血に染めた彼が、殺人の罪で逮捕されてから15年目の夏だった。妊娠中の看守を襲い、救出に駆けつけた看守達に取り押さえられてからわずか2時間後、獄中で死亡した状態で発見されたバイロン。警察が発表した死因は心臓発作であったが、警察の暴行による“死”という見方も一部では囁かれている。いずれにせよ、不可解な死を遂げた彼に同情の声はなかったのだが、それも仕方のないことだったのかもしれない。

大統領を目指したエリート青年の挫折

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 1964年9月15日、テネシー州クックビルで生まれ育ったバイロンは、地元の教育長の息子として、学生時代から勉学に励む青年だった。志が高く野心家だった彼は、高校卒業後、米国の国防の中枢を担うリーダーを育成する陸軍士官学校に入学。エリートコースを歩み始めた。

「将来はアメリカ合衆国の大統領になりたい」

 燃えたぎる野心を、周囲に告げていたというバイロン。しかし3年後、バイロンは志半ばにして挫折を味合う。訓練中に膝のけがを負ってしまい、厳しい陸軍士官学校プログラムの遂行が難しくなり、名誉除隊という形で退学を余儀なくされたのだ。

 だが、彼の心は折れなかった。すぐにジョージア州へと身を移し、ジョージア大学に入学。卒業後は州議会での職を手に入れた。そして1988年、バイロンは民主党員として、ジョージア州議会下院を目指すべく選挙に出馬。しかし、ここで2度目の挫折を味合うこととなる。自信に満ち溢れた彼の思いとは裏腹に、周囲の反応は振るわず、落選してしまったのだ。

 自分の描いた将来像から遠ざかり、空回りを続けるバイロン。それでも地元テネシー州に戻ると、今度は共和党員として政治活動を開始した。この頃から、彼の野心は凄まじいまでの自己顕示欲に変わり始める。

 1996年、パットナム郡で、固定資産税を決める税査定官を目指し再び選挙に出馬した彼は、これまでの失敗から、有権者に対して型破りなアピールを繰り返し始める。

 ポスターに使う自らの名前にインパクトをもたらすために、ミドルネームを法的に“ロータックス(低い税)”に変更。「バイロン・ロータックス・ルーパー」として活動を開始した。さらに、信頼を勝ち取るために、当時のガールフレンドを“妻”であると偽り、“夫婦”揃って選挙活動に勤しんでクリーンなイメージを演出する。その一方で、頻繁に地元テレビ局への出演を続け、現職の税査定官への中傷を雄弁に語り始めた。

 地位を手にいれる為には手段を選ばない――このバイロンの行動は、随分粗暴ではあったが、大方の予想に反して勝利を勝ち取ったのだ。

猜疑心に溺れた男の異常行動

 税査定官に就任したバイロンの人間性は、すでに壊れていた。

 就任後の最初の仕事は、1年かけて彼を支え続けたスタッフ達にクビを言い渡すことだった。自分以外の人間を信じようとしなかった彼は、オフィスの鍵を変えて、管理人や清掃員をも入れようとせず、ピザの宅配を受け取る時でさえ、入り口に現金を置いて後で回収するなど、決して人と会おうとはしなかった。徹底した秘密主義を貫いた彼の行動は、時に常軌を逸した。何者かに盗聴されていると思い込み、何度も何度も盗聴器の検査をセキュリティーに確認させるようになる。「バイロンはパラノイアだ」――やがて周囲からはそう噂された。

 こうしたバイロンの行動は少しずつ、自らの首を絞める結果となっていく。そして地位だけでなく、目先の金にも目が眩んだ彼は、政治献金を募り、不正に多額の現金を手に入れようと画策し始めたのだ。さらに、“妻”と偽っていたガールフレンドとの関係も破局。その上、ガールフレンドが妊娠していたため、訴えられてしまう。

銃声響く、狂気の選挙戦

 1998年3月、バイロンは公務員職権乱用などの罪で起訴された。誰もがバイロンのキャリアの終焉を信じたが、彼は愚かなまでに自分自身を信じ続けた。次に彼が目指したのは、テネシー州の上院議員だった。こうした状況を打破するには政治的な権力が必要だと考えたバイロンは、またしても異常なまでに執念を燃やす。

 当時のテネシー州では、絶対的な信頼と人気を誇るトミー・バークス上院議員が、その席に長年座り続けていた。さすがのバイロンも、勝算の薄さに頭を悩ませた。彼は丹念に公職選挙法を調べ上げ、ある項目を見つけ出した。それは、投票日前30日以内に候補者が死亡した場合、その候補者が属す政党は、新しい候補者を立て替えてはならない、というものだった。つまりバークスさえ死亡すれば、対立する党に所属するバイロンの名前が自動的に繰り上がるという仕組みを発見したのだ。どんな手を使ってでも勝つ。バイロンの野心が、狂気に変わった瞬間だった。

 バイロンはアーカンソー州の友人宅を尋ねた。高校時代に友人関係だったという海兵隊員の男性に、確認したいことがあったからだ。「もし至近距離から人を撃つならどんな銃が適しているのか」。彼は銃器の扱いに慣れた友人に、そうした質問を繰り返す。あまりに突飛な質問に、友人は真面目に相手にしなかった。しかし、バイロンは本気だった。

 1998年10月19日、購入した拳銃を車に積み、バークスの自宅へと向かった。朝6時頃、バイロンがバークスの農場に到着すると、見学に訪れる子どもたちのための準備をしていたバークスを発見。そして車で近づくと、頭部めがけて至近距離から発砲、殺害したのだ。すべては自身の地位の向上の為だった。その後、バイロンはアリバイ工作のために海兵隊の友人の宅に向かった。そして、友人を相手にバークス殺害について興奮気味に語ったという。

 これで選挙当選確実――そう信じて疑わなかったバイロンであったが、彼の愚行も、いよいよ終わりを迎えることとなる。

 バークスを射殺した際、銃声を聞いて駆けつけた農場作業員が彼の顔を目撃していたのだ。作業員の証言を元に作成した似顔絵がバイロンにそっくりだったため、警察はすぐにバイロン宅に急行。あっけなく逮捕された。

 どんな手を使ってでも勝ち続けたい。大統領になることを夢見た異常なまでの野心家は、バークスの遺族の意向で死刑は免れたものの、獄中生活15年目にして、ひっそりとこの世を去った。

井川智太(いかわ・ともた)
1980年、東京生まれ。印刷会社勤務を経て、テレビ制作会社に転職。2011年よりニューヨークに移住し日系テレビ局でディレクターとして勤務。その傍らライターとしてアメリカの犯罪やインディペンデント・カルチャーを中心に多数執筆中。

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