マル激 TALK ON DEMAND
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神保哲生×宮台真司 「マル激 TALK ON DEMAND」 第53回

今こそ考える自然エネルギーと原発の呪縛から逃れる方法【前編】

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──ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

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3月11日に起こった東日本大震災は、数多くの被害を国内外にもたらしたが、その中でも福島原発問題は、震災から1カ月が経った現在でも収束する兆しは見えない。こうした中、原子力発電の必要性があらゆる所で議論されているが、原子力発電所や電力会社に詳しい飯田哲也氏は、瀬戸内海の島に建設が予定されている上関原発の問題点から、新しいエネルギーのあり方を提案している。いびつな電力会社の経営状況と原発の運営方法、そして民主党によるエネルギー政策の欺瞞とともに、今だからこそ考えるべき自然エネルギーについて考察してみたい。
(※本鼎談は、東日本大震災の発生前に収録されたものです)

今月のゲスト

飯田哲也[環境エネルギー政策研究所所長]

神保 今回は、自然エネルギーが専門で原子力発電所の問題にも詳しい、NGO環境エネルギー政策研究所所長の飯田哲也さんをゲストに迎え、現在中国電力が建設を計画している山口県熊毛郡上関町・上関原子力発電所の建設現場で起きている反対運動を取り上げます。

 私は先日、上関原発、およびその対岸に位置する祝島で取材を行いました。祝島は人口500人で、平均年齢がおよそ79歳という、高齢者が多い島ですが、現地の漁業協同組合は、原発建設に対する補償金の受け取りを拒否し、工事への反対運動を行っています。漁師の方々が船を出して、原発の建設予定地に建設資材を運ぶ船舶をブロックすることで、辛うじて工事が止まっている状況です。加えて、普天間基地の移設先とされた沖縄の辺野古の反対運動のように、全国から「虹のカヤック隊」と呼ばれるカヌー乗りの若者たちが集まり、祝島の漁師さんたちの反対運動を支援しています。しかし、2月に入ってからは、中電が工事を強引に進めるような動きを見せており、現場では繰り返し衝突が起きています。

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神保哲生×宮台真司 「マル激 TALK ON DEMAND」 第53回

今こそ考える自然エネルギーと原発の呪縛から逃れる方法【中編】

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電力会社の隠蔽体質と御用メディアのタッグ

神保 今回のような話は、主要メディアがほとんどまったく報じないので、一般の市民は誰も知りません。知らないから、その是非をめぐるまともな議論が始まらない、という問題があります。

 その意味で、原発をめぐる事実には隠されているものが少なくありませんが、いくら隠しても隠しきれない、日本にとって不都合な真実が一つあります。それが、再生可能エネルギーです。日本が原発を中心とするエネルギー政策を推進しているために、21世紀の鍵になる再生可能エネルギー技術の分野で、中国やドイツ、アメリカなどの後塵を拝し、新しいエネルギー技術で世界に遅れをとっている。中央集中型の電力供給はリスクが大きいし、原子力の場合は放射能リスクもある。ここまで不合理が極まると、元福島県知事の佐藤栄佐久さんのいう「経路依存症」、つまり行政官僚制の特徴である「一度始めると止められない病理」だけでは説明がつかないような気がします。

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神保哲生×宮台真司 「マル激 TALK ON DEMAND」 第53回

今こそ考える自然エネルギーと原発の呪縛から逃れる方法【後編】

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民主党はエネルギー政策をどこで見誤ったのか?

神保 民主党は09年マニフェストで、地球温暖化対策として、キャップ・アンド・トレード、フィードイン・タリフ(電力固定価格買い取り制度)、環境税の3本柱の政策を明記しています。野党時代は地球温暖化対策本部の岡田克也本部長と福山哲郎事務局長で、国際水準の温暖化対策を打ち出し、それに基づいて鳩山首相は総理としての最初の国際舞台へのお披露目となった国連総会の演説で「温室効果ガス25%削減」を公約しました。ただ、あれが民主党政権のエネルギー政策のピークで、あとは急転直下で落ちていった。今では自民党時代よりもひどい状態かもしれません。実際に民主党政権にもアドバイスをされる立場にあった飯田さんは、民主党はどこで失敗したと思いますか?

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神保哲生×宮台真司 「マル激 TALK ON DEMAND」 第52回

アメリカに担がれたTPPへの参加と"低い"日本の関税率【後編】

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「経済学」しか知らない 経済学者が語る現実経済

神保 今回は「相手がアメリカであること」に加えて、中身が「自由貿易」だからなかなか誰も全否定できない面があり、それだけにタチが悪いのだと思います。なぜ日本では自由貿易に対する強い信頼があり、問題点が指摘されないのでしょうか?

宮台 自由貿易礼賛や自由市場礼賛は、経済学者の病弊ともいえますね。

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神保哲生×宮台真司 「マル激 TALK ON DEMAND」 第52回

アメリカに担がれたTPPへの参加と"低い"日本の関税率【中編】

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「日本の関税率は高い」という数字のトリック

神保 要するに、アメリカは日本に物を売りやすくするためにTPPを使おうとしていると。

中野 農業改革とTPPを結びつける議論がなされていますが、これについても反論が山ほどあります。例えば、経済評論家の三橋貴明氏が面白いことを言っていました。前原誠司前外務大臣は「日本の一次産業はGDPの1.5%なのに、ほかの産業を犠牲にするのか」と言いましたが、自動車や家電を含めた耐久消費財の輸出額もGDPの1.5%なんです。つまり、日本は貿易立国ではない。また、経済には「デフレのときには生産性を上げてはいけない」という大前提があり、今のような状況で農業改革を行えば、タクシー会社の規制緩和でワーキングプアが溢れ返ったのと同じようなことが起こります。農業や外食産業が激烈な価格低下競争を行い、失業者とワーキングプアがたくさん出てくる。そうすると、日本国民全体の実質賃金も下がるでしょう。輸出産業は国民の実質賃金が低いほど、競争力が高まります。グローバル化とはそういうもので、企業の利益と国民の利益が一致しなくなったことが問題なんです。

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神保哲生×宮台真司 「マル激 TALK ON DEMAND」 第52回

アメリカに担がれたTPPへの参加と"低い"日本の関税率【前編】

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──ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

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 菅直人政権による目玉政策のひとつが、「平成の開国」である。これを実現するためにTPP(環太平洋経済連携協定)への参加を掲げている同政権だが、決定リミットである6月はもうすぐそこに迫っている。こうした中、大手マスメディアは、参加しない場合、「鎖国状態に戻る」「世界経済に取り残されてしまう」と警鐘を鳴らしているが、京都大学大学院助教の中野剛志氏は、これらの指摘は「冗談としか思えないほど、デタラメだ」と一蹴する。中野氏の言は、一体何を意味しているのだろうか? 数字のトリックに見るTPPの危険性について考えてみたい──。

今月のゲスト
中野剛志[京都大学大学院助教]


神保 今回は、菅直人政権が年頭に掲げた3本柱のひとつ「平成の開国」──その具体的な政策として浮き上がってきたTPP問題を取り上げます。自由貿易や保護貿易について、まず僕たちは、やや先入観で考えてしまっている面があるのではないでしょうか?

宮台 僕は2010年からTPPについて「やむなし」という立場を取ってきました。しかし、データを読み解いていくうちに、考え方を変えなければいけないと思うようになりました。

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神保哲生×宮台真司 「マル激 TALK ON DEMAND」 第51回

アメリカを疑心暗鬼にする コモンセンスの欠如と空洞化【前編】

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──ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

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 今年1月、アリゾナ州で起こった下院議員を狙った銃乱射事件は、オバマ政権誕生による保守派とリベラル派の党対立が色濃く投影されているものと見られている。犠牲者を追悼する式典に出席したオバマ大統領は、改めて"アメリカのため"の融和を訴えた。だが、日本屈指のアメリカ研究家である渡辺靖氏は、アメリカ建国の根底には保守思想が色濃く残っていると指摘する。かつて、クリントン政権の民主党がそうであったように、オバマ大統領も保守・共和党との中道政策を見いだすのだろうか? 日本にとって最重要国であるアメリカの"今"を考える──。

今月のゲスト
渡辺 靖[慶應義塾大学環境情報学部教授]


神保 今回のゲストは、最近『アメリカン・デモクラシーの逆説』(岩波新書)を書かれた、アメリカ研究がご専門の慶應義塾大学環境情報学部・渡辺靖教授です。

 ここでは、1月8日にアリゾナ州で起こった銃乱射事件を受け、アメリカ国内にある保守とリベラルの対立について掘り下げたいと思います。また、1月20日でオバマ大統領が就任2周年を迎えました。ちょうどその時期に中国の胡錦濤国家主席が国賓としてワシントンを訪問しているので、米中関係についても議論していきます。

宮台 対中問題は、アメリカを考える上での良い切り口になると思います。大統領が誰であれ、中国の台頭には現実的に対処するしかありません。ところが、特にアメリカの場合、現実主義的な路線を選択しようとすると----選択するしかないのですが......国民の間で理想主義という名の感情的表出が生じ、結果として国内の分裂が広がってしまう。渡辺さんの本のタイトルにもある通り、これまでもそうした「逆説」が繰り返されてきましたが、それが今後ますますひどくなるのかと思うと、滅入ります。

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神保哲生×宮台真司 「マル激 TALK ON DEMAND」 第51回

アメリカを疑心暗鬼にする コモンセンスの欠如と空洞化【後編】

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オバマ政権の現実路線とアメリカ国内からの批判

神保 渡辺さん、最後に、今後のアメリカを見ていく上での注目点を教えてください。

渡辺 オバマ大統領は中道路線に進み、共和党に歩み寄るでしょう。しかし共和党には、同じことをクリントン時代にされて、再選を許した経験があります。そのため、先日も医療保険改革法案が下院で否決されており、上下院共に非妥協的な姿勢でオバマ大統領の再選を拒む、という構図が出てくる可能性が高い。

 そこで、オバマ大統領はクリントン路線を続けるのか、それともトルーマン路線──つまり、売られたケンカは買う、という形で対決姿勢を強めて、「国民のために戦う民主党」をアピールするのか。その駆け引きが見どころだと思います。

神保 やはり、カギは経済でしょうか?

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神保哲生×宮台真司 「マル激 TALK ON DEMAND」 第51回

アメリカを疑心暗鬼にする コモンセンスの欠如と空洞化【中編】

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中国の経済的台頭と日米への影響力

神保 2010年の中国のGDPが日本を抜いて世界第2位になることが確実になり、2030年だかにはアメリカに追いついて世界一になるといった試算も散見されます。アメリカは第一次大戦直後の1917年にGDPで世界一の国になり、それ以降、世界の覇権を握ってきました。しかし、ここにきて中国の台頭と、それに伴う相対的なアメリカの凋落は、アメリカの外交政策にどう影響するのか。特に日本は地政学上、きわめて中国に近く、安全保障は完全にアメリカに依存していることから、この先、米中関係がどうなるかは、日本にとって死活問題になり得るテーマですが、渡辺さんはどう見ていますか?

渡辺 アメリカにとって中国は、かつてのソ連とは違い、不信もありながら、明らかに相互依存の関係にあります。これは日中関係も同じですが、日本における対中言説とアメリカにおけるそれを比較すると、アメリカには中国国内の経済格差など、不安要素を重視する言説が根強くあります。先の米中首脳会談は互いに実利を取った形で、イデオロギーに深く踏み込むことはありませんでした。

 しかしながら、アメリカにとって理念的に相いれない部分も大きい中国に対して、「ビジネスとはいえ、堅固な協力関係を築くのはおかしい」という声もある。アメリカ国内で、それが今後どこまで表に出てくるか、ということには注目すべきですね。

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神保哲生×宮台真司 「マル激 TALK ON DEMAND」 第50回

権力の集中が悪習を招いた検察の改革は成功するのか?【前編】

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──ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

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──戦後、一度も手を付けられることがなかった検察制度が、ついに見直されることになった。周知の通り、冤罪や証拠改ざんなど、不祥事に端を発する今回の動きだが、検察問題に詳しい成城大学法学部の指宿信教授は「検察に権力が集中しすぎたことが問題」だと、制度そのもののあり方に異議を唱えている。昨年11月に「検察の在り方検討会議」が行われたが、「改革に向けた動きは評価できるが、検察だけではなく、裁判所の見直しも必要だ」と、指宿氏は続ける。起訴すれば有罪率は99・9%という絶対的な力を持つ検察は、拡大した病巣を自ら取り除くことはできるのだろうか?

【今月のゲスト】
指宿信[成城大学法学部教授]

神保 今回はマル激でも2003年頃から繰り返し議論してきた、検察と日本の刑事司法の構造問題を取り上げます。刑事司法の問題はその国や社会の正義の根幹を成す問題でもあるので、実は警察、検察にとどまらず、現在、日本が抱える多くの問題の根っこにある問題と考えていいのではないでしょうか。

宮台 その通りです。統治権力と市民社会の関係性をめぐる、日本独特の問題がよく表れています。いまだに起訴便宜主義が許され、有罪率は99.9%。取り調べの可視化も進まない。「日本の社会はよくこれを放置してきたな」と思わざるを得ません。

 そして、これが大切な話なのですが、これらの問題は検察だけを悪者にして済む話ではありません。僕らがなぜ、国家と社会の関係を、今に至るまで歪んだまま放置してきたのかを考えると、そこから日本人と日本社会の民度が透けて見えるし、口惜しいです。

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