サイゾーpremium  > 特集  > エンタメ  > 宮崎駿とスピルバーグの“戦争”と“共存”の描き方

ーー2023年、日米を代表する映画界の“巨匠”、宮崎駿(崎は「たつさき」)とスティーヴン・スピルバーグの新作映画が日本でほぼ同時期に封切られた。両者に関する著書を持つ映画評論家・南波克行が、それぞれの作品群を比較し、両者が“共に描いてきたもの”を明らかにする。

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(絵/ICHIRAKU STUDIO)

宮崎 駿(みやざき・はやお)
生年月日:1941年1月5日(82歳)
出身:日本 東京都
主な受賞歴:アカデミー名誉賞、ヴェネツィア国際映画祭 栄誉金獅子賞、ベルリン国際映画祭 金熊賞ほか
興行成績:1997年の『もののけ姫』、2001年の『千と千尋の神隠し』で当時の日本の歴代興行収入記録を塗り替える。それ以外にも『ハウルの動く城』(04)や『崖の上のポニョ』(08年)など、100億円超えのアニメーション映画は近年まで同監督の独壇場だった。

スティーヴン・スピルバーグ
生年月日:1946年12月18日(76歳)
出身:アメリカ オハイオ州
主な受賞歴:アカデミー監督賞、ベルリン国際映画祭 金熊名誉賞、ケネディ・センター名誉賞、AFI生涯功労賞ほか
興行成績:1975年公開の『ジョーズ』で、当時の世界最高となる興行収入を記録。その後も、数多くのヒット作を量産し、2018年には手がけた作品の総興行収入が100億ドル(当時約1兆728億円)を超えた、史上初めての映画監督となった。


2023年はスピルバーグの新作『フェイブルマンズ』(22米)と、宮崎駿の新作『君たちはどう生きるか』が封切られた。前述の「監督プロフィール」に見られるように、名と実を備える点で、両者それぞれ日米のナンバーワン監督であることは異論をまたないだろう。

2人のラインアップを見ると、どちらもファンタジー色の強い作品を多く作りながらも、どこか厳しさを秘めており、莫大な収益を上げ得る娯楽性と、強い社会性が共存している。そんな2人の作品で比較的近い内容を持ち、しかももっとも世代を問わず愛されている作品を選ぶなら、『E.T.』(82)と『となりのトトロ』(88)だろうか。

どちらの作品にも片方の親がいない。『E.T.』は父親がおらず、『となりのトトロ』は母親が不在の家庭を描いている。どちらも一見幸せそうだが、『E.T.』では親子ゲンカとなるとつい「お父さんなら……」という言葉が出てしまうし、『となりのトトロ』でも母親をめぐって姉妹ゲンカになることもあり、やはり裏には寂しさを抱えているようだ。そんな心の隙間にトトロやE.T.がやって来る。

では、スピルバーグと宮崎駿はどんな魔法を使って、私たちを作品世界に導いているのか。それはまず、E.T.やトトロが来るという非現実的な設定の中に、精緻なリアリズムを施していることが挙げられる。上記の家庭環境のほか、『E.T.』ではお手伝いの役割分担、学校生活やハロウィンの習慣など、アメリカの子どもはこんな生活をしているんだという、具体的な描写であふれている。父親がいない理由が、ほかの女性と家出をしたからという設定も生々しい。

『となりのトトロ』も同様で、姉妹が新しく住む家や、野や川の様子、畑仕事など、それだけでも見ごたえある描写の連続で、私たちはこのように生活しているという再発見の気づきがたくさんある。こうした表現の数々で、私たちは作品世界に没入し、その世界を信頼するようになる。このリアリズムの延長に、E.T.やトトロが来るから信じられる。これが演出のマジックだ。

そして、表面上は楽しそうな生活の中に、現実的な悩みが横たわっており、子どもが子どもでいられない時がある。そこに共感が生まれる。子どもたちは背伸びして生きており、特に姉のサツキは父と妹の両方の面倒を見て、母であり姉であり、妻でもあるというひとり三役をやっている。すると、本当は一番大切な役割であるはずの、子どもという役割を見失ってしまう。子どもだけが夢を見られるのはそのためだ。

逆に、現実と直接対面しなければいけない大人には、トトロやE.T.は現れない。『E.T.』の母親は家に宇宙人がいると知り、最初にとにかく子どもたちを避難させようとする。異物の排除、現実的な対応が大人の義務なのだ。

けれど子どもたちは、いつかその現実と向き合うため、夢を味方につけなければいけない。子ども時代にしっかり夢を見なければ、大人になって現実に立ち向かう勇気が持てない。だから宮崎駿もスピルバーグも、子どものための最高の夢を描いてみせる。

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ファンタジーが描かれながらも、圧倒的なリアリズムによって裏打ちされている不朽の名作『となりのトトロ』。画像はスタジオジブリ公式サイトより。

そんな彼らが描く、子どもにとっての最高の夢とは“空を飛ぶこと”だった。『E.T.』の自転車飛行に、『となりのトトロ』の夜の空中散歩。これらは子どもたちにとって永遠に思い出に残る体験で、この子たちはきっと大人になっても、この思い出だけで生きていけるに違いない。これを見る子どもたちも映画で夢の疑似体験をし、作品の裏側の現実を知る大人たちは束の間の夢を追体験する。童心に還るのだ。

これで宮崎駿とスピルバーグが、同じひとつのことを目指したことが見えてきた。だが、これだけでは2人が優れたファンタジー作家だという結論にしかならない。彼らに共通する要素はもうひとつ。戦争である。

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