サイゾーpremium  > 特集  > エンタメ  > 体現される“ポストフェミニズム”の苦悩【1】/Netflix的フェミと多様性

――女性棋士が男ばかりのチェスの世界を制するドラマ『クイーンズ・ギャンビット』が大ヒットしたが、Netflixにはフェミニズムやダイバーシティに関して“意識が高い”コンテンツが数多い。それらはみな“リアル”で“正しい”ものなのか――。著書『戦う姫、働く少女』(堀之内出版)で知られる専修大学教授の河野真太郎氏が斬る!

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チェス界の男性たちをなぎ倒していくのが痛快な『クイーンズ・ギャンビット』。(写真:Everett Collection/アフロ)

 Netflixは素晴らしいクオリティの作品を量産してきており、日本の俳優たちや映像作品制作者たちの多くも、熱い視線を送っているだろうと想像される。最近であれば『今際の国のアリス』(2020年)の成功が示したように、Netflixで配信されることとはすなわちグローバルな視聴者に作品を届けられることにほかならないからだ。

 そのときに、ひとつ大きな「問題」がある。性の平等やダイバーシティといった、「政治的公正(ポリティカル・コレクトネス)」と作品との関係である。実際、Netflixのオリジナル作品、もしくは独占配信作品における性の平等やダイバーシティの基準は非常に「高い」ものになっている。ただし、それはNetflix作品が「政治的公正にがんじがらめになったメディアだ」ということではまったくない。それどころか、平等で多様であることが美学的にも素晴らしい作品へと結実しているのだ。

 例えば、本年の1月にシーズン3が完結した(シーズン4・5の制作も決定している)『スター・トレック:ディスカバリー』【1】を見てみよう。この作品は『スター・トレック』シリーズの第6作であるが、アメリカとカナダ以外の全世界ではNetflixによって配信されている。『スター・トレック』といえば、SFではあるものの、その中心テーマには多文化主義やダイバーシティが存在してきた。最新の映画版『スター・トレック BEYOND』(16年)では、日系のキャラクターであるヒカル・スールーがゲイとして描かれた(これはオリジナルのスールー役であるジョージ・タケイへのオマージュともされる)。

 だが、『ディスカバリー』は過去のどの作品にも増して多様性の高い作品となった。主人公のマイケル・バーナムは黒人女性であり、物語の始まりはアジア系の女性艦長であるフィリッパ・ジョージャウとマイケルとの師弟的な関係を軸とする。

 これまでの『スター・トレック』は、多様性に「気配り」はあっても、あくまで艦長はタフな白人男性であり、それは中心が揺らがない多様性であった。『ディスカバリー』はそれを打ち破った。シーズン3になってみると、ディスカバリー号の艦橋には、艦長はもちろん、白人シスヘテロ男性の乗組員はひとりもいなくなるのだ(シス[シスジェンダー]とは出生時に割り当てられたジェンダーと性自認が一致していること。また、ヘテロ[ヘテロセクシュアル]は異性愛)。艦長は後進的な被捕食種族のケルピアン人のサルーであるし、同性愛者はもちろん、ノンバイナリー(男女の二項対立的性のどちらにも属さない)のアディラ・タルとトランスジェンダーのグレイ・タルが重要な役割を果たす。

人種の壁を超える「戦う姫」たちの連帯

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